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2009年11月26日 (木)

【マスコミ記者勉強会】政権交代に伴う世論の変化やオルタナティブメディア台頭に伴うマスメディアの行方(補足)

 昨日予定通り、マスコミ記者勉強会が弊社(千代田区一番町)オフィスで行われました。
 私が名刺交換をした皆さんは、読売、朝日、日経、時事通信、日刊工業、東洋経済、ブルームバーグ、モーニングスター、そして下述のJ-castニュースから来られた記者でした。

 早速、当日の夜半には、次のような記事がネットにアップされました。

=====≪quote≫
■「マスメディアからネットメディアへ」 ジャーナリスト大移動は起こるか?
http://www.j-cast.com/2009/11/25054712.html

(2009/11/25 20:15、J-CASTニュース )

   地盤沈下する「マスメディア」からネットを基盤に台頭する「オルタナティブメディア」へ、ジャーナリストのマイグレーション(移動)が起きようとしている――日本総合研究所の理事・主席研究員で、通信メディア・ハイテク分野の経営戦略を専門とする新保豊氏は記者向けの勉強会で、メディア業界の未来図をこう予想した。新保氏はアメリカで起きている事例を紹介しながら、「メディアビッグバンがいよいよ生きた言葉となってきている」と語った。

   勉強会は2009年11月25日、東京都千代田区の日本総研で開かれ、新聞社や通信社などに勤務する記者たちが聴き入った。新保氏は、アメリカの新聞事情を中心にマスメディアが置かれた状況を概観。ほとんどの新聞の発行部数や広告収入が落ち込む一方で、インターネットメディアが着実に伸びている様子を説明し、「景気が回復してもマスメディアの地盤沈下は続く」と厳しい見通しを示した。
(略)
=====≪unquote≫

 私のレクチャーの後半部分のポイントをうまくまとめて下さっています。
 ネット上の書き込みをみると、マスコミに対する厳しい見方が多いようです。その当たりのトーンについては、私もほの同感です。読者離れ(コンテンツへの飽き)が急速に進んでいるものと感じます。

 当日の資料では、冒頭で次のようなことをお話ししました。

▼新聞の発行部数の推移
* GDPは名目で見ても微増かゼロ成長にあって、新聞発行部数は減少
* 「1世帯あたりの部数」は▲1.7%
  ⇒新聞離れの背景には何が起こっているのか?

▼新聞の総売上高の推移
* GDPは名目で見ても微増かゼロ成長にあって、新聞の総売上高は減少
* 「広告収入」▲4.1%に加え、「販売収入」▲0.5%
  ⇒新聞離れの背景 : 
  ①購買力低下(デフレ不況下の所得減ゆえ)
+②コンテンツへの飽き(国民の価値観の変化ゆえ)?

 私が重視したのは、上記②に関することです。このことをマスコミの皆さんに知って欲しかったのです。

 そこで、下述のような資料の構成としたのです。
 私が強調したかったことは、「【2】日本のマスメディアの最近の論調(マクロ経済・財政、構造改革、CO2地球温暖化など)」に関し、≪参考≫として示した「様々な俗説・常識」に対するものです。
 ことここ日本では、「俗説・常識」になっていたとしても、世界の「非常識」もしくは日本(国民)には本当のことを知らせておかないことが、結構あるのです。

 まさにノーム・チョムスキーが、「MANUFACTURING CONSENT: NOAM CHOMSKY AND THE MEDIA」(1992年)で言っていることです。

マスメディアは・・・
①なぐさみと娯楽と恐怖を与える (働くだけに隷属させる)
②ニュースを選別する (国民は教化の対象)  
③反対意見を小さく見せる  (世論の誘導)
④本当に重要な問題を語らない (現体制の保持)
⑤ただ過大な利潤を求める (広告主のみを見ている)
⑥人びとを孤立させる (考えさせない、気付かせない)

(注)上記①~⑥のカッコ内の記述は、私が補足。


=====≪quote≫
「政権交代に伴う世論の変化やオルタナティブメディア台頭に伴うマスメディアの行方」

2009年11月25日(水)14:00~15:30

新保 豊
JRI 日本総合研究所 理事・主席研究員
(通信メディア・ハイテク戦略クラスター長兼務)

【1】マスメディアの最近の傾向(現状認識:新聞・テレビの存在感の低下)

■広告費に見るインターネットとマスメディアの明暗
▼米国と日本における新聞発行部数の比較・ランキング
▼新聞の発行部数の推移
▼新聞の総売上高の推移
≪参考≫新聞の広告量推移

【2】日本のマスメディアの最近の論調(マクロ経済・財政、構造改革、CO2地球温暖化など)

■「経済成長(景気)や経済予測」に関する最近の論調
≪参考≫主要国GDP比較に見る日本の経済成長の低迷さは異様
≪参考≫金融ビッグバン(国際会計基準など)と資金流出
≪参考≫膨大な外為資金運用による外需下支え(内需に資金が回っていない)
≪参考≫信用創造量と名目GDP伸び率の関係
≪参考≫日米の金融政策比較
≪参考≫部門別の資金過不足推移と日本経済の低迷と水準維持のメカニズム
≪参考≫日本経済に「デフレギャップ」は殆ど存在しない!?
≪参考≫GNPギャップ(デフレギャップ)の定義
≪参考≫日経新聞における潜在成長率の定義
≪参考≫内閣府モデルによるデフレーター予測値と実際値との乖離
≪参考≫ケインズの乗数効果を考える
≪参考≫内閣府の乗数値を使った実質GDPの押し上げ効果試算
≪参考≫GDP=「乗数効果」×「有効需要支出」
≪参考≫世界のGDPに占める日本の存在感と財政出動
≪参考≫非現実的な経済財政モデル(内閣府モデル)

■「財政」に関する最近の論調
≪参考≫債務残高の対GDP比による国際比較の誤解
≪参考≫日本の新規財源債発行額(年間)とその残高および長期金利の推移
≪参考≫真のデフレギャップの規模
≪参考≫名目GDPの成長率と税収の伸び率および税収のGDPにおける弾性値
≪参考≫デフレギャップ(真の財源)利用した経済対策と劇的な効果

■「構造改革」に関する最近の論調
≪参考≫「CHANGE」?されたオバマ政権の主要閣僚・顧問らの顔ぶれ
≪参考≫オバマ政権への期待、その幻想と真意を知る
≪参考≫『年次改革要望書』に見るオバマ政権の意志

■「地球温暖化の原因?CO2削減」に関する最近の論調
≪参考≫ CO2濃度変化(原因)と気温変化(結果)の因果関係は逆
≪参考≫温暖化へのCO2影響度は僅か(むしろ雲=水蒸気が主因)
≪参考≫気温は過去100年間以上(CO2増加の前から)上昇基調にある
≪参考≫国連組織IPCCのこれまでの動き
≪参考≫原発と原潜からの廃温水で海温は上昇

■「原発・原子力」に関する最近の論調
≪参考≫低く喧伝されている原発コストと非効率なエネルギー利用効率
≪参考≫専門家のアバウトな想定式を判断基準に置いている危うさ
≪参考≫PWR(加圧水)型燃料集合体の構造と汚染冷却水の海中への還流
≪参考≫核燃料サイクル施設と活断層地形
≪参考≫再処理工場や英セラフィールドからの広範囲の放射能汚染
≪参考≫最近の米国と過去の日本での水/CO2と地震の関係

【3】メディアの変遷と将来シナリオ(マスメディアからオルタナティブメディアへ)

■メディアの分化(メディア2.0の出現)
≪参考≫メディア2.0市場の位置づけ
▼マスメディアとメディア2.0の社会的影響力
≪参考≫メディア内の主体構造の変化

■オルタナティブメディアへの変遷
≪参考≫米国The HuffingtonPost(創業4年のオンライン新聞)の躍進
≪参考≫News Corporationグループに見るグローバル市場での独占・寡占化

■シナリオ別のマスメディアのゆくえ
▼トレンド・シナリオA
* マスコミの地盤沈下続く
* インターネットの存在感増大
▼激震シナリオB
* マスコミのビジネスモデル瓦解
* オルタナティブメディアとの主役交替(シナリオB1)
* インターネットの終焉(シナリオB2)

■最後に
=====≪unquote≫


 長くなりますので、上記内容については、今回は触れません。

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2009年11月20日 (金)

【マスコミ記者勉強会】政権交代に伴う世論の変化やオルタナティブメディア台頭に伴うマスメディアの行方

 今朝(2009年11月20日〔金〕)、私の所属する会社の広報部から、来週私が担当することになっている「マスコミ記者勉強会」向けのアナウンスがありました。
 当件は、金融記者クラブ、経済研究会、財政研究会、経済産業記者会、金融庁記者クラブ、霞クラブにて登録しているようです。

 当ブログには、マスコミの皆さんも多少はアクセスがあるようですので、少し補足しておきます。

 恐らくアナウンスされた文面は、次のものになると思います。
 若干、オリジナルの文章が、マスコミさんを意識 してか、欠落していますので、それをここで補っておきます。このことは、本当はとても大事なことなのです。


■公開版

=====≪quote≫
 今般、下記内容にて勉強会を開催する運びとなりました。
 お忙しい中とは存じますが多数のご参加を賜りますようお願い申し上げます。

                            記

1.日 時 :
 2009年11月25日(水)14:00~15:30
    
2.場 所:
 日本総合研究所 東京本社
 東京都千代田区一番町16番
 <地図>→ http://www.jri.co.jp
 電話:(03)3288-4606(広報部)

3.テーマ:
≪次世代の国づくり」記者勉強会≫
『政権交代に伴う世論の変化やオルタナティブメディア台頭に伴うマスメディアの行方』

 新政権へ移行後、国民にとっての価値観の変化、所得減少に伴う購買力の低下など、マスメディアを取り巻く環境も大きく変化しようとしています。

 今回は、マスメディアの影響力の減退や、勢いを増すインターネットメディア(=オルタナティブメディア)の台頭など、メディア界を取り巻く現状を確認した後、メディアのビジネスモデルや関連制度が持つ課題や、現在、日本のマスメディアが陥っている矛盾などに触れ、マスメディアやオルタナティブメディアの将来シナリオについて、理事の新保豊が解説を試みます。

※今回はご参加の皆様と活発な意見を交わしながらの勉強会にしたいと思いますのでディスカッションスタイルの会場を用意しております。

4.出席者:
 理事  新保 豊

*ご参加にあたっての事前予約等は不要です。当日直接会場にお越し下さい。

以上
=====≪unquote≫


 世の中に事なかれ主義が蔓延しているのか、あるいはどの会社の広報部にとっても、マスコミさんは、彼らにとっての“お客様”となっているため、あまりストレートに表現できない事情・立場があります。きっとそう言うことでしょう。^^;

 シンクタンク・コンサルティング業界の者(特に研究員、エコノミスト、コンサルタント)が、マスコミにおもねるようになれば、お終いです。どちらが上だという話しではなく、お互いよき牽制作用が機能する関係を構築しておくこと、それを維持できること、これらのことが尊いのです。

 オリジナルの文章(テーマの概要)では、下述のように、青字下線部のものがありました。

■オリジナル版

=====≪quote≫
(略)

3.テーマ:
≪次世代の国づくり」記者勉強会≫
『政権交代に伴う世論の変化やオルタナティブメディア台頭に伴うマスメディアの行方』

 新政権へ移行後、国民にとっての価値観の変化(正しいものに対する目覚めの兆し)、所得減少に伴う購買力の低下など、マスコミを取り巻く環境(コンテンツの質要素、財務要素)も大きく変化しようとしています。

 今回は、マスコミの影響力の減退や、勢いを増すインターネットメディア(≒オルタナティブメディア)の台頭などマスコミを取り巻く現状(カニバリズムの拡大)を確認した後、マスコミのビジネスモデルや関連制度(寡占・独占状態を許容してきたもの)が持つ課題や、現在、日本のマスコミが陥っている矛盾・間違い(世界の経済・金融、マクロ経済・財政、環境・エネルギー問題についての日本の非常識)などに触れつつ、マスメディアやオルタナティブメディアにとっての将来シナリオ(トレンド型、激震型)について、弊社理事の新保豊が解説を試みます。

(略)
=====≪unquote≫

 臭いものに蓋をしたままでは、本当の知識と実態をつかむことはできません。

 当日、私が説明できる時間は1時間ほどでしょうから、あまり広く・深く、それぞれの内容面(日本の非常識:マクロ経済、金融、財政、環境エネルギー問題など)を掘り下げることはできないでしょう。

 また、日本のマスメディアは、その発行部数や広告・販売収入の減少(新聞)や視聴率低迷(テレビ)など、このままではジリ貧必至です。

 その背景には、 ①購買力低下(デフレ不況下の所得減ゆえ)②コンテンツへの飽き(国民の価値観の変化ゆえ)といった大きな要因が横たわっているのです。

 私は日本のマスコミの場合、同①以上に同②に関する要因が深刻だと考えています。そして、その舵取りを見誤ると、「激震型シナリオ」を踏むことになるのではないかと・・・

 米国では、特に同②に対する動きとして、例えば、『HuffingtonPost』などの無料・広告ビジネスモデルを主とするオンライン新聞がブレイクしています。今や900万ほどの購買者数を獲得し、WashingtonPost(オンライン版)を抜き去る勢いがあります。

 『Democracy Now!』では、寄付(donation)モデルを主とする運営が行われているようです。マスメディアに替わる、「オルタナティブメディア」の先駆けのような存在です。ここが取り上げるコンテンツ(映像作品など)は、私も社会人MBAの授業で取り上げています。とても勉強になるものばかりです。日本のマスコミが、報道しないため、一部国民(覚醒した市民)にとって、この種のコンテンツでなければ、もはや満足していないのだと思います。

 その他、有料購買モデルとして、元ジャーナリストなどによる大変充実したスタッフを抱える『politico.com』(米国Washington D.C.)などがあります。ここは年200ドルの購読料をとりながらも躍進し、米国のメディア業界にあって異彩を放っています。

(注)読者からのコメントを下に記し(再掲)、訂正・補完しておきたいと思います(2009年12月5日)。
=====≪quote≫
 上記記事で、Politico.comへの言及があり、年200ドルなのに躍進している云々とありますが、誤解を招きかねない表現でしたので一言。
 200ドルというのは、議会会期中は連日発行される紙の新聞を配達(おそらく全て郵送)してもらう場合の料金です。国内は一律で、海外は600ドルです。
 ワシントンDC内外では無料配布です。もちろん、サイト閲覧はすべて無料です。
=====≪unquote≫
  このBlogでは示していませんが、私が説明に使った「2×2」マトリクス、つまり、横軸の左側に「マスメディア(オールドメディア)、同右側に「インターネットメディア(オルタナティブメディア)、また縦軸上側に「無料(広告)モデル」、同下側に「有料購読モデル」において、『Politico.com』は右下部分と同時に左上部分でもある、ということになります。



 日本では、『田中宇プラス』(半年で3,000円)などもあります。私も愛読者の一人です。田中宇(たなか・さかい)さんによれば、30万人ほどの読者がいるようです。こうなると、確か30万台の英『GUARDIAN』や仏『Le Monde』に迫る勢いです。素晴らしい。

 このような元ジャーナリストによる高質記事のコンテンツへの魅力度が高まるにつれ、既に米国などでは胎動しつつある、「ジャーナリストのマイグレーション」、つまり、メインストリートに現在所属しているジャーナリストの、マスメディア業界からオルタナティブメディア業界への移動(ジャーナリスト自身の覚醒)が、早晩日本でも起こることが考えられるのです。そうなって欲しいと考えています。(^-^)

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2009年10月 8日 (木)

【レクチャー】北欧からのお客様とのミーティング

  一昨日(2009年10月6日〔火〕)午前、北欧のある国からの政府訪問団(同国のS機関+T庁)が弊社を訪ねました。
 同様の訪問は、これで3回目になろうかと思います。

 今回、同訪問団は中国と韓国から、日本入りしました。京都方面での会議後、1日だけ東京に滞在する予定となっており、午前に弊社JRI、午後に霞が関界隈、と承っています。

≪同国からの訪問団のメンバー6名≫
◆M・K氏, Ph.D(Econ) :S機関のPresident、前Nokia副社長
◆A・K氏, MSc. and MBA :the Executive Director of the Municipal Programme
◆J・K氏, Ph.D(Administrative Sciences) :the Executive Director of the Public Administration Management Development Programme
◆J・P氏, MSocSc :S機関のVice President, Strategic Renewal
◆T・T氏, M.Sc. :元Executive Adviser for the CEO from Elisa Corporation
◆J・V氏, Ph.D :同国T庁のCouncil

≪訪問の趣旨などに関するレターからの抜粋≫
=====≪quote≫
(略)
 We are very interested in to hear how Japanese government has meet with underlying the present economic and financial crisis as a growing mismatch between the demands of the new technological and economic environment and the organizational and institutional structures of the post-industrial society.

 新技術志向の経済環境というデマンドと脱工業化社会という組織的制度的構造の間に横たわる不整合が拡大する中で、私共は、日本政府が、現在の経済金融危機の本質をどのように見ているか、ということに非常に興味を持っています。
(略)
=====≪unquote≫

 このようなご希望に対して、「Drastic Measures to Boost Japanese Economy and ICT Industry」と題する簡単なレクチャーを私から差し上げました。
 2時間ほどのミーティングの結果、お蔭様で、活発な意見交換および両国の友好をはかることができたのではないかと思います。(^-^)

 なお、用いた資料(副題:現下の金融危機問題を解きながら)は、今年6月や9月中旬にも「part 2」として行った、霞が関官僚や企業幹部・他(大学関係)の皆さん向けの資料をベースにしたものです。

 レクチャーの狙いは、次のようなことです。

●日本経済に正しい経済対策を用いれば、GDPで年率5%以上の成長を十分に、かつ早期に実現可能であり(10%成長も決して非現実的ではなく、また財政問題も迅速に解決でき)、その実現に伴い、ICT分野などの基幹産業も、今以上の競争力を回復する。
(正確には、競争力が落ちたのは必ずしも個々の企業のマネジメント問題というよりも、大きくは総需要不足を補えない・効果のない景気浮揚策や過度な為替介入ゆえのこと。)

 ざっと以上のようなことを、種々の客観的なデータを用いてお伝えしました。

 幸いにして、訪問団リーダー格のM・K氏(同国S機関所長、前Nokia副社長)は経済学博士もお持ちであり、他の(高学歴な)皆さんも内容の理解は速く、その狙いはかなり伝わったのではないかと思います。

 特に最近の日本経済の深刻な不況および各産業の国際競争力の低迷状態にあって、今般の政権交代に伴い、日本は一体これからどのようになっていくのかなど、多大なご関心をお持ちであり、Q&Aを通じ、結果それなりにご満足頂けた場となったのではないかと・・・・・

 ちなみに、世界の景気低迷が2番底に向かっていることは、「Baltic Dry Index(バルチック海運指数)」(下述の説明資料の構成の1項目)を見れば一目瞭然です。

 また、米国の決算期である9月末後の「10月危機説」の有力なものとして、中国大手企業の米国デリバティブ商品への米国主要銀行への支払い拒否(今年の8月末の事実上のデフォルト通告)などもあって、破綻状態のFRBによる再三の銀行救済が既に不能であること、またIMFのSDR(特別引出権≒米ドルに代わる準備通貨の候補)へのシフトという世界の流れに従い、その気もない(最近のゼーリック世銀総裁やバーナンキFRB議長の発言)からだ、などの見方もあるようです。
(私見ですが、「10月危機」など幾つかの主要“イベント”を経ながら、向こう数年間かけ徐々に新たな世界体制に移行していくものと読めます。引き続き、要ウォッチです。)

 日本のマスコミは一切報じていない(英米メディアは報じている)、この当たりのことも、同訪問団のご関心事であったように感じました。

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■ Drastic Measures to Boost Japanese Economy and ICT Industry
Tuesday, 6 October 2009 9:10 – 10:30
Yutaka SHIMBO
The Japan Research Institute

◆ Summary 1
◆ Summary 2

============================================
[1] Macroeconomic Environment for Japanese ICT Industry

■ Japan's Stagnated Economic Growth Seen from GDP Growth Trend of Key Countries
≪Ref≫ Loss of business profits in electronics sector
≪Ref≫ Deflationary gap widens due to restructuring programs by electronics companies after financial crisis

■ Final demand goods and producer goods, different global competitiveness
≪Ref≫ Chinese yuan and Korean won exchange rates

============================================
[2] Factors and Problems of Economic Depression and the Lost International Competitiveness

■ Investment & consumption mechanism of "political hegemony and financial imperialism" under globalization

■ Outline of "Annual Reform Recommendations"
▼ "Financial Big Bang" (adopting international standards, etc.) and capital drain
▼ "Private equity is on the prowl"
▼ Prop Up Foreign Demand By Huge Exchange Intervention(Money Is Not Supplied To Boost Domestic Demand)

============================================
[3] Reacknowledging the Problems for Drastic Measures

■ Relationship Between Credit Creation and Nominal GDP
▼ Japan and US financial policies

■ Long term upward trend of the Dow, but how far will stock prices go down?
≪Ref≫ Trend of global trade, foreign exchange and derivatives markets

■ Trend of global hegemony (financial economy) seen from the list of world's top banks ranked by total assets
▼ On the verge of state bankruptcy: the rate of FRB assets to US GDP sharply increases
≪Ref≫ "Ghost fleets" in the sea around Singapore
≪Ref≫ Warning on "the second bottom" seen from Baltic Dry Index

============================================
[4] Drastic Measures to Boost Japanese Economy and ICT Industry

■ Misconception about international benchmark on Government Debt-to-GDP ratio
▼ New financial resource bonds issuance & outstanding, trend of government bond yield
▼ Concerns over Japan's financial assets that might be flown out abroad
▼ Japan's stagnated economic growth seen from GDP growth trend of key countries
≪Ref≫ Deflator forecast by Cabinet Office model and its gap with the actual results

■【 1st Way:Issuance of national bonds】 Japan's global presence and fiscal stimulus
▼ GDP="multiplier effect"× “total spending on effective demand"
≪Ref≫ Cabinet Office model estimation of GDP contributions
▼ Japan's shift from "savings" to consumption and investment = need public spending and investment
▼ Huge amount of money of sold lands in the time of real estate bubble has been frozen
≪Ref≫ Relation of disposable income and consumption
▼ Elasticity of tax revenue to GDP
▼ We have no “Deflation Gap" in the Japanese economy !?
≪Ref≫ Definition of GDP Gap (Deflation Gap)
▼ Size of the true Deflation Gap
▼ Economic measures using Deflation Gap and its dramatic impacts

■【2nd Way: Direct Underwriting of Government Bonds by BOJ】 Funding by Issuance of Noninterest Bonds through BOJ's Payment to National Treasury
▼ Teaching of Korekiyo Takahashi: "Exit" Strategy for Fiscal Crisis

■【3rd Way: Issuance of Government Notes_"Seignorage"】 Immediate Stimulus to Economy and 10% annual growth
▼ Proposal to Print Money by Stieglitz
≪Ref≫ Successful Issuance of Government Notes in early Meiji Era

■ Outline of Digital Japan Creation Project (ICT Hatoyama Plan) by MIC
▼ Japan has no “Macroeconomic" visions and sticks only to “Microeconomic" measures
▼ ICT industry-led growth scenario and the coming "10 year of progress"
▼ Investment on Network and Platform Layers for Generating Future Basic Industries
≪Ref≫ Development of social infrastructure at deep underground (investment without creating productivity)
▼ Do we really need a "global top one"?

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲

PS:
 当日、実質一人で対応することになってしまった私の下手な英語では、とてもこの種の(日本語で語るのさえ結構難しい)内容に関するミーティングは耐えられず、研究アシスタントのKさんのお蔭で、何とか切り抜けることができたかなぁ、という感じでした・・・・(^-^)

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2009年10月 6日 (火)

【勉強会】日本経済が浮揚しない理由とその解決策〔part 2〕

 先日(2009年9月26日〔土〕)の昼過ぎから、都内某所にて、再度、霞が関官僚(やそのOBの某大学学長ら)および企業幹部の皆さん向けのレクチャーを担当しました。

 これは今年6月の霞が関界隈での勉強会の続き〔part 2〕です。
 前回は、レクチャー時間が70分にQ&Aが20分ほどの計90分だったのに対し、今回はQ&Aを含め2時間半(150分)ほどありました。従いまして、難しい内容をそこそこ説明できたのではないかと思います。ホントはまだ短いのですが・・・(^-^)

 例によって、またバックデートでアップしておき、後日、実施日の日付にし、保管しておきたいと思います。

 前回から今回の間に、政権交代が成されましたので、それを踏まえた「問題意識」について、下に記しておきたいと思います。

≪印象に残った主なご質問の概要≫

◆霞が関官僚複数名の皆さんから:
* 政権交代後の民主党政治家からの指示・要請がみな、同政治家にとって、いわば絶対的とも思える『マニフェスト』に則って成されているようであり、そんな状況がいつまで続くのだろうか、とったものでした。
* そして、同『マニフェスト』には「経済成長」などの「量的拡大」に関する事項が殆ど無く、景気はいよいよ二番底を迎えるのだろうか、と・・・

◆民間企業(総合電機などの監査役・顧問ほか)の皆さんから:
* わが国企業の中国市場進出へのシフトなどが加速するなか、「産業空洞化」をいかに見ているのか。またそれをどのように捉えるべきなのか。
* 「乗数効果」(ケインズの所得に関する方ではなく、レオンチェフの売上高に関するそれ)が、「産業のサービス化」とともに、同乗数値が低くなっている傾向をどのように見ているのか、その流れは不可避なのか、といったところでした。

(ここでは、私の備忘録を兼ね、質問概要のみを記しておきたいと思います。)

=====≪quote≫

日本経済が浮揚しない理由とその解決策〔part 2〕(現下の金融危機問題を解きながら)

◇実施時期  :2009年9月26日(土)午後
◇スピーカー  :新保豊(日本総合研究所)

≪問題意識≫

●【経済】経済成長はどのようなメカニズムで成されるのか?


* 「構造改革」で成されるものは必ずしもありません。
 (“構造改革”ではなく、単なる“構造変革”だった。)
* 民主党政権では、ここがどのように変わるのでしょう。
 財源問題、郵政改革、子供手当て、CO2削減目標・・・

●【財政】なぜ「財政均衡主義」がかくも強調されるのか、それは経済浮揚に本当に効くのだろうか?

* 結論:逆効果です。国の借金とは、実は国の消費であり投資。
* 国と家計や企業は異なる。特定組織の利益が優先されている。

●【財政と金融】当然のごとく語られる「財金分離」でよいのだろうか?

* 15年超のデフレ経済下にあって、金融政策が効かないなか、欧米・中国では財政政策と合わせた「財金一体」が成されています。

●【金融】日銀の独立性が過度に強調されていないだろうか?

* 世界の中で異例の措置を取っています。ユーロ圏内にあるECB(欧州中央銀行)と各国財政当局とのスタンスとわが国のそれは異なります。

●【国際競争力と内需】なぜ日本企業の競争力はかくも弱くなったのか?

* 最大の問題は為替政策(国際分業のメカニズムが機能していない)。
* グローバリズムとは、特定の国々による、特定の政治経済思想の下での、特定の経済主体の利益を最大化するための仕組み(Structure)と仕掛け(system)と仕方(technique)に関するもの。(例)年次○○要望書。
* 海外展開よりも、まずは内需喚起を。しかし、○○再生機構づくしで内需はさらに落ち込む・・・

●【国家戦略】なぜ、マクロ経済、金融、財政に関する核心的な問題を統合的に解決する手立てがわが国では講じられないのか?

* 専門家が陥る誤謬、間違った経済観・政策、日本の常識は世界の非常識・・・(私たちは何をどのように学び、理解すればよいのでしょう。)

=====≪unquote≫


 勉強会終了後、いつものように、近くのお店で和食とお酒(今回は主に焼酎系)を、出席の皆さんと楽しむことができ、大いに盛り上がりました。

 2次会のみに、大手エレクトロニクスメーカーの元会長さんもいらっしゃていました。私の席の目の前でしたので、別途貴重なご意見を承りました。

 幹事の皆さん、今回も本当に有り難うございました。

続きを読む "【勉強会】日本経済が浮揚しない理由とその解決策〔part 2〕"

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2009年9月 4日 (金)

【一言】「情報化への重点投資、成長力を1%引き上げ」よりも高水準を狙えるのではないか?

■タイトル :情報化への重点投資、成長力を1%引き上げ―2010年代、2%台後半の成長を実現可能に―
■媒体と掲載日 :2009年3月2日
 
http://www.jcer.or.jp/report/research_paper/detail3825.html
■論考の書き手 :総務省情報通信政策研究所および日本経済研究センター
■「ポイント」 :
(1) 不況脱出の処方箋として、まずは民間部門の大幅な投資促進を実現するための大胆な政策が必要である。
(2) 新たに行う投資の内容を情報化投資にシフトさせることで、成長率の上乗せや持続成長が期待できる。
(3) 知識経済化に対応した経済構造への体質転換に成功すれば、これらの効果を最大限に享受し、2%台後半の経済成長を実現できる可能性を秘めている。

=====================
■「ポイント」の有効性 :【△~○】(私の感想)

 なかなか興味深い論文です。この種の考え方が、わが国の情報通信産業の政策決定の際のバックボーンになっています。
 過去類似のレポート・報告書としましては、総務省情報通信政策局の委託により、株式会社情報通信総合研究所「情報通信による経済成長に関する調査報告書」(2007年3月)や株式会社アクシスリサーチ研究所「ICTの経済分析に関する調査」(2008年3月)などでも公表されて来ました。

 当論文はその総まとめのような位置づけではないかと理解しました。

 私の感想を当該論文の下に記します。赤や青色は私が付しました。この色付きの文章(考え方)について、簡単に触れておきたいと思います。

 マクロ的な考察を踏まえた情報通信産業の日本経済における位置づけを野心的に捉える今回の試みについては、大変意義深いものだと思います。

 結論を申し上げれば、情報通信産業だけではなく、ほぼ全ての産業界の皆さん(政策当局および学者・エコノミスト)が共通的に捉えている、マクロ経済観は、概ね「サプライサイド的≒新古典派的」なものと言えましょうが、これではミクロ(当該産業)とマクロ(マクロ経済と財政など)が必ずしも十分につながったものとして把握できない、あるいは需給不均衡下(=不況下)では殆ど通用しないものとなっているのではないか、といった感想を持ちました。

 当論文の大半は、情報通信業界こそが経済を牽引する主役産業であるといった我田引水的なトーンに終始しているように感じますが、最後のメッセージ「そのための従来型の発想にとらわれない財政出動や投資減税などが期待される」については、全く同感です。


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■情報化への重点投資、成長力を1%引き上げ
―2010年代、2%台後半の成長を実現可能に―

 2009年3月2日
 総務省情報通信政策研究所
 日本経済研究センター

 日本経済研究センターは、情報化投資を促し、低迷する日本経済の成長力を取り戻す方策について、1月に総務省と共同で経済再生研究会(略)を設置して研究を実施しています。本レポートはその中間報告です。

≪図を除き全文を抜粋≫

1 世界不況下で取り残されかねない日本の情報化

 日本経済は、これまでになく深い不況の谷に陥りつつある。内閣府が公表した昨年10~12月期の国内総生産(GDP))の実質成長率は、年率換算の前期比で▲12.7%。第1次石油危機時に次ぐ、戦後2番目のマイナス幅となった。1~3月期も回復は見込めず、2008年度は戦後最悪のマイナス成長となる可能性がある。海外需要を原動力としていた日本の成長は米国発の金融危機で頓挫した。不況脱出のための処方箋を冷静に検討し、早急にその実現に取り組んでいく必要がある。

 今日の世界経済は、情報通信技術(ICT)の発展・普及によって情報流通の劇的なスピード向上とコスト低下が実現し、グローバルに知識経済への移行が進んでいる。先進諸国はイノベーションを誘発し、情報の共有と創造を加速することによって、知識集約型で高付加価値な産業を基盤とする経済に脱皮しつつある。いかに素早く知識経済になるかということが国際競争力を左右する時代となっている。

 しかしながら日本は、この知識経済の時代をとらえ、情報化を早急に進めることに成功しているとは言い難い。図表1は、日米の情報化投資〔注1〕の比較である。日本の情報化投資額は、1990年代前半は米国と遜色ない水準にあったが、その後の「失われた10年」の間にすっかり水をあけられてしまった。2006年には、民間設備投資に占める情報化投資の比率は、米国の34.0%に対し、日本は22.2%にとどまっている。

   図表1 日米における情報化投資額の推移(略)

〔注1〕ここでは情報化投資を「情報通信ネットワークに接続可能な電子装置及びコンピュータ用ソフトウェアに対する投資」と定義し、「電子計算機・同付属装置」、「有線通信機器」、「無線通信機器」、「ソフトウェア(企業内制作ソフトウェアは除く)」に該当する資本財への投資の総額とする。

 世界不況下で各国とも大型の景気対策に躍起だが、その流れの中でも日本の情報化投資の遅れが広がる可能性がある。図表2は米国の「米国再生・再投資計画」の内容だが、グリーン・ニューディールが注目される中で、ブロードバンド網を中心とする情報基盤の構築、情報通信技術の研究開発投資、医療の情報化など、ICT分野にも相当の比重が置かれている。一方、昨夏から3回にわたって経済対策をまとめた日本では、ICTにはあまり光が当たらず、情報化投資への資源配分は限定的だ。

   図表2 「米国再生・再投資計画」の概要(略)

 このような背景を踏まえ、総務省情報通信政策研究所と日本経済研究センターは、2009年1月より共同で「経済再生研究会」を開催している。同研究会は、情報化投資の水準が日本経済の中長期的成長に及ぼす影響について定量的な分析を行い、本年6月を目途に成果を取りまとめる予定である。しかし、企業業績の相次ぐ下方修正やGDP成長率の落ち込みが深刻化しつつある中、現時点での中間的な成果を今後の経済対策等の一助とすべく、「中間レポート」として公表することとした。

 この「中間レポート」では、足許の厳しい経済情勢を織り込みつつ、情報化投資の加速が2010年代の日本経済の成長率や雇用にどのような影響を与えるかに焦点を絞って、分析結果の概要を報告する。

2 情報化を活かす経済構造が成長を底上げ

 「経済再生研究会」では、日本のマクロ経済の計量分析として二種類の分析を行った。第一の計量分析として、1976~2007年の国内総生産、資本、労働等のデータを基に、生産関数による分析を行った。生産関数は、①資本と労働による「基本モデル」〔注2〕、②資本を情報資本と非情報資本に区別した「情報資本明示モデル」〔注3〕、③情報資本のネットワーク効果を考慮した「ネットワーク効果モデル」〔注4〕の3種類を用いた。それぞれのモデルに基づく回帰を行った上で、2008~09年の世界的な景気後退を織り込みつつ、2008~25年の平均成長率をシミュレーションした結果が図表3である。

   図表3 日本経済の成長率のシミュレーション結果(略)

 予測される2010~20年の平均成長率は、「基本モデル」では1.6%、「情報資本明示モデル」では2.4%、「ネットワーク効果モデル」では2.7%となった。すなわち、情報資本を明確に意識した経済構造に移行することで平均成長率は0.8%上昇、さらに情報資本のネットワーク効果を織り込んだ経済構造に進化すれば平均成長率は1.1%上昇すると見込まれる。したがって、日本経済の再生に向けて、波及効果の高い情報基盤整備を重点化する政策をとれば成長率が底上げされ、加えて情報基盤の上を流れる知識や情報のネットワーク効果を高める政策をとれば、さらなる成長率の上乗せが期待できる

 一方、2010~25年の平均成長率は、「基本モデル」で1.6%、「情報資本明示モデル」では2.1%、「ネットワーク効果モデル」で2.6%となった。「情報資本明示モデル」のようなハード偏重型経済では成長が長続きしないが、「ネットワーク効果モデル」のようなソフト重視型経済に脱皮すれば持続可能な成長が見込めることとなる。

 このように、日本の進路に「情報化」を明確に位置づけ、その旗印の下に知識経済型の経済構造への体質転換を進めることに成功すれば、1%台半ばの成長率を2%台後半にまで高め、世界不況の中からいち早く脱出できる可能性がある

〔注2〕コブ・ダグラス型と呼ばれる関数型(Q=M・K^α・L^(1-α)、Q:付加価値、M:全要素生産性、 K:資本ストック、L:労働投入量)に基づく分析を行った。なお、資本と労働の分配率等の当てはまりの良さを考慮し、すべてのモデルで教育水準を考慮した労働を用いた。

〔注3〕Q=M・Ki^α・K-i^β・L^1-(α+β)、(K=Ki+K-i、Ki:情報資本、K-i:非情報資本)の関数型とした。

〔注4〕Q=M・K^α・L^1-α・(uKi)^β、(Ki:情報資本、u:ユビキタス指数)の関数型とした。なお、ユビキタス指数については平成20年版情報通信白書を参照されたい。

3 情報化投資の加速が経済再生の鍵

 第二の計量分析として、マクロ計量モデルにより、情報化投資の加速が2010年代の日本経済の成長に与える効果を試算した。生産関数による分析は供給側の生産能力のみを考慮するが、この手法では需要と供給の双方を考慮した上で予測を行う。

 足元で急激に不況に陥っている世界経済が2010年度には緩やかながら回復するという前提による「ベースラインシナリオ」〔注5〕をベンチマークとして、①抜本的な投資促進策により、民間企業設備投資が2010年度から大幅に上昇する〔注6〕という前提に基づく「投資加速シナリオ」、②2010年度から①による投資加速が進むとともに、積極的な情報化投資促進策によって、民間企業設備投資に占める情報化投資の比率が上昇する〔注7〕という前提に基づく「情報化投資加速シナリオ」の2つのシナリオの効果を試算した。それぞれのモデルに基づき、2011~20年の各種成長率や雇用等の主要指標をシミュレーションした結果が図表4である。

〔注5〕日本経済研究センターが2009年1月15日に公表した「第35回中期経済予測」(2008~2020年度)を、「ベースラインシナリオ」として用いた。予測の前提として、世界経済成長率は2020年でも4%台まで回復しない、為替レートは高止まりする財政支出における公共投資抑制傾向は変わらない消費税率は2012年4月に3%、2016年4月に2%の引き上げを見込む などを仮定している。「投資加速シナリオ」及び「情報化投資加速シナリオ」においても、同様である。

〔注6〕「ベースラインシナリオ」に比べ、民間企業設備投資の伸び率が2010年代平均で約5ポイント上昇(金額換算で年平均7兆円程度上積み)すると仮定している。

〔注7〕「ベースラインシナリオ」に比べ、情報化投資比率(民間企業設備投資に占める情報化投資の比率)が2010年代平均で約2ポイント上昇(情報化投資の伸び率で年平均約7ポイント金額換算で年平均約2.5兆円程度上積み)すると仮定している。

   図表4 中期的な経済予測シミュレーションの主要結果
                2011-15 2016-20
実質GDP成長率(%)
 ベースラインシナリオ    1.7     1.5
 投資加速シナリオ      2.6     2.5
 情報化投資加速シナリオ  2.6     2.7

名目GDP成長率(%)
 ベースラインシナリオ    1.8     1.8
 投資加速シナリオ      2.8     3.2
 情報化投資加速シナリオ  2.8     3.2

潜在GDP成長率(%)
 ベースラインシナリオ     0.8     0.8
 投資加速シナリオ      1.2     1.8
 情報化投資加速シナリオ  1.3     2.4

GDPデフレーター上昇率(%)
 ベースラインシナリオ     0.1     0.3
 投資加速シナリオ       0.2     0.7
 情報化投資加速シナリオ  0.2     0.5

就業者数(万人)
 ベースラインシナリオ    6,303   6,261
 投資加速シナリオ      6,322   6,305
 情報化投資加速シナリオ  6,320   6,284

失業率(%)
 ベースラインシナリオ     4.3    3.6
 投資加速シナリオ       4.1    2.9
 情報化投資加速シナリオ   4.1    3.2

【出典】「経済再生研究会」にて作成

 2010年代の実質GDPの平均成長率は、「ベースラインシナリオ」の1.6%に対し、「投資加速シナリオ」は2.6%「情報化投資加速シナリオ」は2.7%となった。一方、名目GDPの平均成長率は「ベースラインシナリオ」の1.8%に対し、「投資加速シナリオ」、「情報化投資加速シナリオ」ともに3.0%となった。大幅な投資加速が実現すれば、成長率は実質でも名目でも年平均で1ポイント強の上昇が見込まれる。

 なお、「投資加速シナリオ」と「情報化投資加速シナリオ」は、2010年代の年平均では実質も名目もほぼ同じ成長率となったが、2010年代後半の実質成長率をみると、前者は成長が減速している(2.6%→2.5%)のに対し、後者は逆に成長が加速している(2.6%→2.7%)。潜在GDP成長率では、両者の成長けん引力の差がより明確となる。2010年代の年平均で、「投資加速シナリオ」は1.5%、「情報化投資加速シナリオ」は1.9%、2010年代後半に限るとそれぞれ1.8%と2.4%となり、差が拡大する。

 「情報化投資加速シナリオ」では、情報化の加速が生産性向上を通じて潜在成長率を高め、期待成長率の上昇を経て企業の設備投資マインドが改善する。その結果、設備投資の増勢テンポが高まって国内需要を押し上げ、雇用や所得の環境にもプラスの効果が波及する。

 ところが雇用面では、2010年代の平均就業者数は「情報化投資加速シナリオ」が「投資加速シナリオ」よりも12万人少なく、平均失業率も0.2ポイント高い。これは、情報化投資の加速で生産性が高まった分、同じGDPを稼ぐために必要な雇用が少なくて済むようになる結果である。このような生産性向上が着実に実現できれば、日本が直面する少子高齢化社会も脅威ではなくなるだろう。それどころか、余剰となった労働力を活かして情報通信技術や環境技術の新たな市場を創出すれば、一層の雇用増や成長率の上乗せが期待できる。今回のシミュレーションでは、このような新市場創出の効果は考慮していないが、このような好循環を引き起こすには、研究開発を中心としたイノベーション誘発のための投資促進が重要である。

4 危機をチャンスへ

 以上の二つの計量分析が示唆するのは、次の3点である。
(1)不況脱出の処方箋として、まずは民間部門の大幅な投資促進を実現するための大胆な政策が必要である。
(2)新たに行う投資の内容を情報化投資にシフトさせることで、成長率の上乗せや持続成長が期待できる。
(3)知識経済化に対応した経済構造への体質転換に成功すれば、これらの効果を最大限に享受し、2%台後半の経済成長を実現できる可能性を秘めている。

 世界的な経済危機が深刻化する中で、世界の主要国は大胆な景気対策を打ち出し、情報化投資の重点化を政府主導で打ち出している。日本もこれに対抗すべく、加速的に「情報化」を推し進めるための政策を実現することが望まれる。

 しかし、このような政策は、二つの理由でハイレベルの意思決定を必要とする。第一に、景気循環と逆向きの投資判断を要することである。図表5は、景気循環と情報化投資の関係を示すものだが、米国では2000年のITバブル期を除き、景気減速下でも情報化投資が安定的に伸びているのに対し、日本では情報化投資の水準は景気循環に連動して上下する傾向がある。不況下で各企業が投資に二の足を踏む中、果敢に挑戦する覚悟が必要だ

 第二に、「投資促進シナリオ」や「情報化投資加速シナリオ」における投資の加速は、中途半端なレベルではほとんど効果がなく、非連続的な加速を要することである。「投資促進シナリオ」では、「ベースラインシナリオ」に比べ、実質民間設備投資の積み増しは年平均成長率で約5ポイント、金額換算では約7兆円に達する。また、「情報化投資加速シナリオ」では、「ベースラインシナリオ」に比べ、実質情報投資の積み増しは年平均成長率で約7ポイント、金額換算では約2.5兆円に達する。これらは、いわゆる「失われた10年」の水準を大きく超え、1980年代のバブル期に次ぐ高水準となる。逆に言えば、それほどの投資増や情報化の加速を生み出さない限り、2010年代に2%台後半の成長率を実現することはできないということである。中長期的に2%成長が達成できないと、年金や雇用不安を解消しながら財政再建するという政府に課せられた連立方程式を解くことも難しくなるであろう。

 日本企業は2002年ごろからの景気回復後も慎重な投資姿勢に終始し、キャッシュフローの範囲でしか設備投資を行ってこなかった(図表6)。慎重な投資行動は短期的には収益構造の改善に結びつくが、中長期的にみると欧米勢が金融危機に苦しんでいる間に生産性や競争力を向上させる“チャンス”を逃しているともいえる。

 このような姿勢の転換を企業に促すよう、政策的に大きく舵を切ることが必要となる。未曽有の危機に対処するための経済対策の発動にあたっては、危機をチャンスへと変えるべく、「情報化」を旗印に掲げたイノベーションへの投資やその成果を社会で活用するための広い意味でのインフラ整備(教育や職業訓練なども含む)を後押しすることが不可欠。そのための従来型の発想にとらわれない財政出動や投資減税などが期待される

   図表6 キャッシュフローと設備投資の推移
(略)「キャッシュフロー」と「設備投資」のギャップ:「企業の内部留保や借金返済に」などの説明あり。
【注】 キャッシュフロー=経常利益×0.5+減価償却費
【出典】 財務省『法人企業統計季報』

【「経済再生研究会」メンバー】(略)

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■当論文の「ポイント」の有効性 :【△~○】(私の感想)【再掲】

 当該産業(当論文の場合は情報通信産業またはICT産業)は、日本経済の中で位置づけられるものです。従って、情報通信産業だけが成長しても、その産業の商品・サービスに対する購買力(消費者および企業ないし政府部門らの買手によるもの)が低迷状態にあれば、中長期的な成長(=情報通信市場規模の増大)はありえません。

 上記論文中で色を付した事項について、順番に見てみましょう。

◆曖昧で定義しにくい「知識経済」への移行が「国際競争力」につながるのだろうか?

 まず冒頭で、≪いかに素早く知識経済になるかということが国際競争力を左右する時代≫とあります。

 以前、堺屋太一氏あるいはトフラー(Alvin Toffler)氏らが「知識経済」の到来を予言しました。このような経済へと、特に先進工業国がシフトしつつあることは事実でしょう。ただアングロサクソン諸国においては、金融経済が主になっており、「リーマン・ショック」以降、さらには「8.30ショック」(民主党の大勝に終わった総選挙)後、わが国でも安易な金融立国という考えは影を潜めているのではないかと思います。

 「知識経済」という表現を持ち出す時、必ずと言ってTFP(全要素生産性)のことが関係付けられています。当コラムでも何度もそのことを書いていますが、TFPは当初、ソロー(Robert Merton Solow)によれば「残差」に過ぎなかったものが、「技術進歩」(例:ICT化の進捗など含む)として年々その存在感を高めて来ました。しかしながら、マクロ経済の観点から見れば、その効果や存在感は、かなり過大解釈されていると思われます。

 「国際競争力」について。つい最近まで(2009年5月末頃まで)、私も政府の「ICT国際競争力会議」のWGメンバーとして1~2年ほど参加して来ましたが、最も大事なことが無視・軽視されていることに、その会議の中で気付くようになりました。それは「為替」の問題です。特に新興国である中国やインドあるいは韓国の為替レートは、ここ数十年(中国やインドの場合はここ十数年)で、数分の一(1/7~1/10程度)に切り下げられています。

 こと中国の場合、為替レートで見てGDPは世界の3番目ということになっていますが、購買力平価で見れば、とっくの昔にわが国を抜き去っており、世界2番目に位置します。そのような国が、2001年のWTO加盟以降もずっと、尋常でない通貨政策(人民元の対外通貨に対する不当な低さ)をとり続けているのです。政府間同士の交渉ごととして、この問題の解決なしには、日本企業はいつまで経っても、公正な競争のテーブルにもつけないままです。あるいは、有力企業の海外へのシフトがさらに進み、今以上の産業空洞化が生じることになるでしょう。これは大問題です。

 それら国々の通貨は意図的に切り下げられ、ドルにペッグした形の事実上の固定相場制を採っています。従って、切り下げられている分、日本企業は価格面で勝負になりません。技術や品質の問題は二の次となっているのです。さらには、実質固定相場制ですので、国際分業という本来の為替メカニズムが機能せず、安価な中国製品が過分に日本市場に流入し続け、結果日本経済のデフレ状況をさらに固定化し続けています。

 為替問題に対して、民主党政権は真剣に対処しない限り、民間企業の経営努力ではもはや追いつかず、いつまで経っても国際競争力問題は解決されず続くことになるでしょう。

◆必ずしも「情報化投資額の差」が日米の「経済パフォーマンスの差」を決めたのではない

 ≪日本の情報化投資額は、1990年代前半は米国と遜色ない水準にあったが、その後の「失われた10年」の間にすっかり水をあけられてしまった≫と、「情報化投資」と「失われた10年」を結び付けていますが、それは日米の経済パフォーマンスの開きを説明するための、ほんの一部に過ぎません。

 日本と水を空けられたクリントン政権の2期8年間における米国経済は、IT投資も去ることながら、今日の金融危機・金融恐慌につながった不動産投資が積極的に行われていました。ITと不動産と言う2つの巨大なバブルが形成されていたのです。それでも、両セクターが好調であることを反映し、米国民はこの期間に資産形成をして行きました。資産形成された結果、家計には余裕が出てきましたので、「貯蓄率」(=〔可処分所得-実支出〕÷消費支出)が2%台まで下がり(消費が大きく増え)〔出所:米商務省経済分析局〕、その後の米国経済の好調さを演出しました。

 一方、わが国の場合、2008年の50歳代以上の貯蓄現在高総額は412兆円(全体512兆円の79%)、60歳以上では同293兆円(同56%)〔出所:総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)〕にもなりました。これは、極めて根強い構造として、日本経済は長い間ずっと過剰貯蓄状態にあることを物語っています。

 実際、勤労者世帯の「黒字率」(=〔実収入-実支出〕÷可処分所得)であり、米国の「貯蓄率」相当)は約28%に上昇しています〔出所:総所得統計局「家計調査」〕。ここが日米との最大の相異点です。膨大な貯蓄が投資にも消費にも回っていないと言うことです。

 ちなみに、SNA(国民経済計算)による、全世帯の「貯蓄率」(=貯蓄÷〔可処分所得+年金基金年金準備金の変動〕)は、3%ほどまで下がり続けています。マスコミなどには、こちらの数字がよく載ります。これは、上記の「黒字率」とは逆の傾向であり、年々両者の傾向には乖離が出ています。従って、わが国の学者の間では、「内閣府のSNAベース」か「総務省の家計調査ベース」で見るべきかの論争が続いています。長くなりますので、その論争の食い違い事項を示すのは、ここでは略します。

 貯蓄は様々な経過を辿り、伝統的な経済学では最終的には投資されることになるとされます。ただここで、貯蓄率が大きいと言うことは、消費者による生産物の消費が手控えられることになり、生産能力をさらに増加させる割合が高まることを意味するはずです。日本経済では、特に60歳以上の高齢者の巨額な貯蓄マネー(293兆円)が、将来の社会不安などの理由により殆ど消費されないことが問題となっています。つまり、このことを考えれば、米国の「貯蓄率」相当と見なしえる、後者(家計調査ベースの黒字率)で見るのが適当ではないかと思います。

 話しを戻します。情報化投資ぐらいでは、凍りついた貯蓄が消費になかなかつながらず、総需要を喚起できないのです。需要がなければ、つまり有望な(=期待収益率が高い)投資案件が国内に無いため、企業は思い切った投資に踏み切れないのです。問題は需要不足ですので、情報化投資というサプライサイド志向では限界があるのです(殆ど効果がない経済構造となっているのです)。

◆「コブ・ダグラス型生産関数」を用いた将来予測には要注意

 ≪生産関数による分析≫について、下のようなコブ・ダグラス型生産関数の適用がなされる場合、この方法では難点があります。やや専門的になりますが、専門家でさえもよく間違える点を記しておきます。^^;

Q=M・K^α・L^(1-α)・t^γ
 ◊ Q:付加価値
 ◊ M:全要素生産性
 ◊ K:資本ストック
 ◊ L:労働投入量
 ◊ t:時間トレンド項

 コブ・ダグラス型生産関数を構成する、労働投入量Lと資本ストックK(1次同次を仮定)、全要素生産性M(技術進歩率)は外生的な時間トレンド項tにより決まるものですが、3つの要素(L、K、t)間には、高い相関が生じるとされるます。従って、これら説明変数が相互に完全に独立でないことゆえの「多重共線性」が生じます。
 それゆえ、仮に回帰曲線のフィッティングが良好であっても(時間トレンドに良く乗っていても)、将来のトレンドがそのトレンドと一致しているのか分からないはずなのです。

(注)「多重共線性」 : VIF(Variance Inflation Factor:分散拡大要因)=1÷(1-R2)において、VIF≧10になるような説明変数同士を同時に使うと、多重共線性を起こす可能性があります。上述の通り、コブ・ダグラス型生産関数を用いたGDPの推定にあって、その説明変数である3つの要素(L、K、t)間には、高い相関が生じるとされます。

 また、当論文では「資本ストック」項目を、 「情報資本」や「ユビキタス情報資本」、そして 「一般資本」 に分解しています。
 情報通信産業の市場規模を推定する際に、よく用いられる「資本ストック」の分解要素として、「情報資本」や「ユビキタス情報資本」などに分解することで、さらに多重共線性が生じるのではないかと思われます。すなわち、「労働投入量」や「全要素生産性」と、「情報資本」および「ユビキタス情報資本」との間には比較的大きな相関性があることが推察されるからです。

 マクロ経済面では、「一般資本」(民間企業の設備資本や公的固定資本形成≒公共投資)が重要であるにもかかわらず、同資本の扱いが殆ど考慮されていないものと思われます。

 回帰分析として、その回帰結果の検定として用いられる、「R2値」(決定係数として1に近いほど統計的に有意)、「t値」( 絶対値│t│>2で当該変数は説明変数として認められるもの)、あるいは「ダービン・ワトソン比」(「2から0」に寄った値となっている場合には、残差〔=現実値-推定値〕に正の相関性が認められることとなり、誤差に関し系列相関なしという帰無仮説の棄却はできず有意でない)が考量されますが、ことコブ・ダグラス型生産関数においては、上述の通り、まず説明変数間の「多重共線性」を見極めることが重要なのではないかと思います。

 以上から、コブ・ダグラス型生産関数を用いた推定には、説明変数間の相関ゆえの不具合(多重共線性)がありそうですので、その推定結果には疑義が生じます。また、そもそもトレンドを推定することが予想の本意でない場合、そのフィッティングの良し悪しは参考にしかならないと思われます。

◆サプライサイド派的なアプローチではデフレ不況が固定化されるだけ

 ≪波及効果の高い情報基盤整備を重点化する政策をとれば成長率が底上げされ、加えて情報基盤の上を流れる知識や情報のネットワーク効果を高める政策をとれば、さらなる成長率の上乗せが期待できる≫との見方は、典型的なサプライサイド的なものです。

 「波及効果の高い情報基盤整備」とありますが、これは恐らく「レオンチェフ効果」のことを指しているのでしょう。「レオンチェフ乗数」とは、産業間の売上額の波及効果の大きさを産業連関表によって算定したものです。ちなみに、所得の波及効果の大きさを示す「ケインズ乗数」とは異なります。

 このレオンチェフ乗数は、産業のサービス化により、年々小さくなっており、過去の統計データから現在では2.0程度と思われます。「情報化」により、原料や部材などをさほど使用されないサービス産業の比重が高まっている、つまり、サービス化が進んでいるため、むしろ「波及効果」は厳密には小さくなっていると見るべきでしょう。確かに、情報通信ネットワーク産業に見られる「ネットワーク効果」による寄与は一定以上あるでしょうが、金額ベースで見た場合の効果のうち、かなりの部分はこのレオンチェフ効果の減少分で打ち消されているものと思われます。

 また、総需要不足の日本経済に、「情報通基盤整備」を一層進めるだけでは、必要条件とはなっても十分条件とはなりません。十分条件としての総需要喚起策が別途採られない限り、デフレによる不況を固定化する作用する及ぼします。
 
◆「情報化や知識経済化」の効果を客観的に捉えることは難しい

 ≪日本の進路に「情報化」を明確に位置づけ、その旗印の下に知識経済型の経済構造への体質転換を進めることに成功すれば、1%台半ばの成長率を2%台後半にまで高め、世界不況の中からいち早く脱出できる可能性がある≫とありますが、曖昧な要因に対して過度に期待しているように思われます。

 「情報化」については、「情報資本ストック」などの形で定量化することは可能なのですが、「知識経済型の経済構造」を定量化するのは難しいことです。

 敢えて示せば、「知識経済化」とは、付加価値額としてのGDPを説明する際の、労働投入量や設備資本投入量以外の要素(残差)、または労働と資本の総合的な生産性(TFP)となるはずです。繰り返しながら、この残差の測定は難しい問題なのです。

 また、このTFPの向上率を技術進歩率と見なすとすれば、わが国のそれは米国などに比べ遜色ない(もしくは、それよりも高い)水準にあるとの指摘もあります。何れにせよ、TFPを決定付ける大きな要因の一つは研究開発力であり、これは設備投資により裏付けられるものです。つまり、知識経済化と言っても、しっかりとした設備投資がなされなければ、あまり大きな期待は抱けない、と考えられます。

◆「マクロ計量モデル」とは前提が結果を大きく左右する「アートの世界」

 上述の通り、コブ・ダグラス型生産関数を用いた方法では無理があることを認識しているからでしょうか、当論文では併せて≪マクロ計量モデル≫による検討もなされています。そのモデルやモデル内の「前提」次第では、この方法により、初めて意味のある考察ができるようになろうかと思います。

 ただ、どのような「前提」を置き、いかに結論を導くかについては、実はエコノミストの間では「アートの世界」と呼ばれている領域となるのです。つまり、「マクロ計量モデル」づくりは、エコノミスト達の「アートの賜物」(≒演繹的な代物)であり、科学的つまり帰納法的なアプローチでは必ずしもないと言えましょう。詳細はこれ以上触れません。

 当論文での「前提」にも、次の通りかなり気になるものがあります。

 例えば、≪抜本的な投資促進策により、民間企業設備投資が2010年度から大幅に上昇≫についてです。

 「抜本的な投資促進策」とは、まず国内に優良投資案件が存在(あるいは出現)することが不可欠です。その優良投資案件とは、相当の購買力が裏付けられているものです。その購買力とは、総所得(企業および家計)に拠るものです。

 つまり、総所得が増加しなくては、購買力が増えず、従って、総需要が喚起されることもありません。実際、家計部門(例:サラリーマン、勤労者世帯)の所得は年々(7~8年ほど)減り続けいます。そうした場合、その企業にとって、国内の投資案件は決して優良だとは映らないでしょうから、積極的に投資するはずもありません。「前提」が自家撞着となっているのです。

 また、≪民間企業設備投資に占める情報化投資の比率が上昇≫とありますが、私はこれまで国内外のIT投資関連の仕事(プロジェクト)も何度か行って来ましたが、前述の通り、景気が上向かねば一部の企業を除き、企業は情報化投資をたいがい増やしません。そのことは現場感覚からも言えることです。

 輸出型企業が、海外現地で、生産機能や流通機能などを効率化するため、情報化投資を増やすことはあるでしょうが、残念ながらそれは内需につながる「民間企業設備投資」とは殆どなりません。

 つまり、「情報化投資」の比率や絶対額を決めているものは、ミクロとしての当該市場における競争状況もあるのですが、デフレ不況下にあっては、かなりの割合でマクロとしての景気(経済成長の増分)が規定しているのです。言い換えると、この「前提」もどうかと疑われるわけです。

◆「財政支出の抑制」や「消費税率の引き上げ」を前提としてよいのか?

 さらに、≪為替レートは高止まりする財政支出における公共投資抑制傾向は変わらない消費税率は2012年4月に3%、2016年4月に2%の引き上げを見込む≫という「前提」は、モデルの信憑性を決定付けるほど大きな影響があるものです。

 内閣府の経済成長モデルや日経さんのそれも、概ねこの種の「前提」が基本にあります。確かに橋本政権下での「緊縮財政主義」や小泉内閣での「財政均衡主義」など、一連のこの種の取り組みが続いたことを考えると、致し方ない「前提」かも知れません。

 ただ、明らかなことは、現下のデフレ不況下にある日本経済で、こうした「財政支出」(=政府の投資=財政赤字)が細ることになれば、必ず経済成長は失速すると言うことです。削減した分は、マイナスの乗数効果(所得の波及効果)として、GDPを確実に押し下げます。

 何となれば、銀行が融資せず、企業が設備投資を行わない状況下では、経済を活発化させるために必要なマネーは、政府が支出するしかないのですから。これは経済のイロハです。プラグマティズムの国である米国では、現オバマ政権のみならず、歴代政権が採ってきた基本的な方法です。日本経済と同様のデフレ気味な経済構造下にある中国でも同様です。時代遅れであるなどと考えているのは、観念論的なエコノミストや学者らの影響下にある日本くらいなのです。

 ましてや「消費税率」を上げることなど、まったくの逆効果です。経済の購買力を弱める方向になりますので、必ず経済は失速します。

 「公共投資」を抑制し、「消費税率」を上げれば、二重に経済成長余力を弱めることになります。このような「前提」をモデルに組み込んでいるとすれば、GDP(国民総生産)も情報通信産業も、その潜在成長余力が過小評価されたものが算出されることになるはずです。

 なお当計量モデルでは、≪金額換算で年平均約2.5兆円程度上積み≫なる「前提」が成されているようですが、これが当論文のタイトルでもある「情報化への重点投資、成長力を1%引き上げ」になるのは、モデルを回さなくとも、電卓で計算できます。

 それは、「2.5兆円」の有効需要支出があれば、その分、ケインズ乗数値(過去20年間ほどの日本経済の実態から、およそ2.3~2.6)分の乗数効果(仮に2.5)が働きますので、GDPを最終的には5.25兆円(=2.5兆円×2.5)ほど押し上げます。レオンチェフ乗数効果は、前述の通り、経済のサービス化により若干低下傾向にはありますが、ケインズ乗数効果はほぼ一定です。貯蓄率が低く消費性向が高い米国のケインズ乗数効果は、日本よりもかなり高い水準にあると推定されます。

 わが国のGDPを500兆円とすれば、その押上げ効果は1.25%(=5.25兆円÷500兆円)となりますので。つまり、民間投資、純輸出、政府最終支出、政府固定資本形成(公共投資、社会インフラ資本形成)なる、有効需要項目の総和増加分に乗数値を掛ければ、GDPの増加分は計算できます。言い換えると、GDPに占める消費支出(約6割)を除いた分(残りの4割)の逆数が、ケインズ乗数値約2.5(=1÷〔1-0.6〕)となります。

◆既に十分高い「潜在成長率」を高めるには「総需要喚起」しかないはず

 ≪情報化の加速が生産性向上を通じて潜在成長率を高め、期待成長率の上昇を経て企業の設備投資マインドが改善≫についても同様です。

 サプライサイド的な発想では、自家撞着に陥るのです。
 何となれば、2桁のインフレ(労働力や設備資本が不足の状態)であったレーガン政権下の米国経済(需要はあるが供給力のない世界)ならともかく、現下のデフレによる不況が続く(膨大な労働力や設備資本が非稼動な状態)、日本経済にあって、問題なのは供給能力の強化(情報化や生産性向上)ではなく、総需要不足なのですから。つまり、供給力はあるが需要のない世界、という認識が欠けているのです。

 供給能力を高めても潜在成長率は変わりません。潜在GDPと現実のGDPとの差であるGDPギャップ(=デフレギャップ)は、私のチームの計算(保守的に見て完全雇用・完全操業状態を1980年基準とした場合)では30%弱にも上ります。これは、2007年時点の潜在GDPは800兆円弱、デフレギャップが約230兆円にも及ぶことを意味します。この程度の追加マネーを日本経済に入れてもインフレにならないはずです。

 現在2009年では同30%超でしょう。つまり、供給能力はかなり余剰なのです。従って、期待成長率は、その能力をいかに使えるようにするかで決まります。つまり、総需要を高める(購買力を高める)ことで、初めて「企業の設備投資マインド」は改善されるのです。

◆デフレ不況下にあっては「設備投資の増勢」が内需を高めるわけではない

 また、≪設備投資の増勢テンポが高まって国内需要を押し上げ、雇用や所得の環境にもプラスの効果が波及≫についても、順序が逆なのです。

 所得が増えてこそ、眠っていた需要が喚起され、そして消費につながるのです。この両者の関係は統計的にも明瞭に示されていることです。

 サプライサイド派的な考え方に沿って、「設備投資が増勢」(供給能力が増強)されることで、内需を押し上げるのではありません。特に、デフレによる不況下(総需要不足の状態)では、このことははっきりしています。もっと端的に言い換えると、設備投資よりも、国民にマネーを渡してしまう方が効果があるのです。

 繰り返しですが、今の日本経済は、レーガノミクスが流行っていたような米国経済の状況とは正反対なのです。病状に合わせた処方が必要なのです。一般論として、病状を正視せず、当時の米国経済を説明した理論や学説の洗礼を受けたままで(あるいは、単に鵜呑みにしてしまったままで)、医者きどりで病人を手当てするようなことが、過去15年間ほど続いて来たのではないかと感じます。

◆そもそも「余剰労働力」を生み出した真因は何だったのだろうか?

 次の、≪余剰となった労働力を活かして情報通信技術や環境技術の新たな市場を創出すれば、一層の雇用増や成長率の上乗せが期待できる≫ということも同じです。

 デフレによる不況下にあっては、失業が増えます。「余剰となった労働力」を別の産業セクターに振り向けることそのものについては、異論ありません。ただ、そもそもその労働力の余剰(≒失業)を生み出した、経済政策に目を向けるべきでしょう。何度も書いていることですが、それは総需要不足(=労働力や設備資本の余剰)状態にあって、さらなる供給能力増強をしようとする、その発想・政策により引き起こされて来た、と言うべきなのです。

 これまで間違った処方をしておきながら、「一層の雇用増」や「成長率の上乗せ」を目指すようなものです。それはあたかも、病状の根本原因を知らずして(あるいは気付かずに)、そして患者は悲鳴をあげているにもかかわらず、強い思い込みを持ったまま誤った手当てを、強引に施しているようなものではないでしょうか。

 当論文には、≪不況下で各企業が投資に二の足を踏む中、果敢に挑戦する覚悟が必要だ≫とありますが、「覚悟」で企業の行動は規定されるものではないでしょう。気まぐれな消費者とは異なり、企業の行動の大半は合理的なものだと思います。つまり、期待収益率未満の投資案件に対しては、「二の足を踏む」わけです。

 以上、思いつくままに、あまり感心できないトーンで記してきましたが、当論考は最後に大変素晴らしいメッセージで結んでいます。

◆必要とされる「大胆な政策」とは「財政出動と減税」(これが経済浮揚に向けた結論となるはず)

 それは、例えば≪民間部門の大幅な投資促進を実現するための大胆な政策が必要≫とありますが、ここでの「大胆な政策」とは、「財政出動や投資減税」のことを指すようです。

 実際、最後に≪そのための従来型の発想にとらわれない財政出動や投資減税などが期待される≫と結んでいます。

 今の日本経済では、銀行は融資を行うだけの借り入れニーズが弱く、国債買いに走っている一方、民間企業は毀損したバランスシートを少しでも改善すべく、思い切った設備投資ができないのです。また家計の黒字率(≒現実的な「貯蓄率」相当)は高水準にあり、特に膨大な貯蓄を持つ高齢者のマネーが凍り付いたままです。

 そうした中で日本経済に唯一マネーを注入できるのは、目下政府しかありません。麻生前政権での約14兆円の補正予算は、今年度(2009年度)第1四半期のGDP増大として効果が確認できました。原理原則、乗数効果を伴った結果が生じます。しかし、新政権誕生と同時に、残りの補正予算を凍結してしまえば、日本経済は確実に失速することになるでしょう。今やるべきことは、無駄取りではなく、多くの政治家やエコノミストにも理解不能かも知れませんが、一見無駄だと思われる財政出動が最も今は有効であり、これが財政均衡にもゆくゆくはつながるはずなのです。

 「減税」も多少は効果があると思いますが、抜本的には「財政出動」(=政府投資=政府消費=財政赤字)以外に手はないのです。そのことに当論文は最終段で触れていますが、その前までの論旨からすると、いささか違和感を覚えました。しかし、終わりよければ全て良し、ということでしょう。(^-^)

 最後に、≪財政再建するという政府に課せられた連立方程式を解くことも難しくなる≫なる点について一言示しておきます。「財政再建」は確かに、この論文に見られるような「上げ潮派」的な、高い経済成長を実現した上で見込まれる、税収増などで行うことが基本にあると思います。「消費税率を引き上げる」ことは逆効果です。財源(もしくは税収)確保のためには、「急がば回れ」なのです。

 私は単純な「財政積極派」でもありませんし、下述に示すような、常時「日銀直接引受派」でもありません。現下の日本経済の症状を見ると、これらの方法が現時点では最も有効であろうと申し上げているだけです。繰り返しですが、デフレ不況下にある日本経済の成長は、あくまで総需要喚起が中心になるだろう、と言うことです。そのアプローチは「上げ潮派」的なサプライサイドによるものではありません。ただ、もし物価が上昇し出し(インフレ気味となり)、労働力も設備資本も不足状態になれば、当論文のようなサプライサイド的な政策も初めて有効になるだろうと考えています。

 また、この「連立方程式」を解くためには、総需要喚起のための政府支出もしくは国民に直接マネーを渡してしまうなど、財源の問題に帰着します。この財源問題は、実はそれほど難しいことではないのですが、マスコミさんも民主党さんもそれがなかなか理解できないようです。

 それには複数の解決方法がありますが、まずはこれまでのような「赤字国債の発行」(=政府投資)によるものが基本でしょう。次には「日銀の直接引受」です。デフレギャップが少なくとも潜在GDPの30%(約230兆円)近くあるなか、今は政府が投資(=支出)するしかなく、しかしそのことで有効需要支出額が増えますので、確実にGDPは成長します。日銀のバランスシート毀損問題などは、日本経済全体の重症度と比較すれば、二の次の問題だと認識することが求められます。わが国のような観念論(≒思い込み主義)には必ずしも支配されていない、米国ではそのことが実行されています。

 その際の政府支出(例:公共投資もしくは社会インフラ資本形成)には、新たな交通整備(高速移動できるような地下鉄・幹線)や災害対策、有害物質を減らすための環境対策(CO2犯人説による地球温暖化対策は殆ど意味がありません)、さらには住宅購入につながるような新たな宅地醸成など、極力民間(企業と家計)の誘発投資を促すようなものがよいでしょう。

 それらとセットで情報通信インフラを整備することで、初めて大きなシナジーが期待できるでしょう。需要喚起できる分野とは、例えば、健康・医療、環境・エネルギー、教育、食・農業などに関する社会インフラ資本形成が求められる領域であり、情報通信インフラがそことつながることで、大きな意味が出てくるのです。

 総需要を喚起する方法として、財政出動を基本とするこうしたアプローチを現下の日本経済に行うことになれば、当論文のタイトルである、「情報化への重点投資、成長力を1%引き上げ―2010年代、2%台後半の成長を実現可能に―」以上の効果(例:5%以上)が得られると同時に、大幅な財政改善(例:GDPの純債務比率で欧米並みかそれ以下の3割程度)にもつながるだろうと、私は思います。


PS1:
 今回もかなりの長文になりましたが、最後までお付き合いを有り難うございました。(^-^)

 つい長くなったのは、冒頭で記しましたように、現在の情報通信産業政策の理論的バックボーンが、この種のサプライサイド的なアプローチで成されているのが、以前から大変気になっていたからです。
 民間投資(IT機器やネットワーク装置などの設備競争)を促すことで供給能力の高めれば、サービスやコンテンツなどを含む需要が増加し、ひいては経済成長が成される、と考える人々が、このデフレ不況下の日本でさえも、なぜか主流派を形成しているのです。

 アプローチをする際の問題認識に大きな誤りがあるのです。
 実際は、現下のデフレ不況下にある日本経済は貯蓄過剰にあり、消費と投資にマネーが向かわないため、民間の代わりに、まず①政府が資金(マネー)供給する(財政支出をする)ことで全てがスタートします。それで購買力が喚起され、②需要増加が初めて確認できるはずです(経済成長が期待されます)。繰り返しですが、デフレギャップが膨大なため、急激かつ高いインフレにはなりません。従って、この数値をそこそこ正確に把握しておくことが求められます。

 もし2~3%程度の物価上昇(目指す水準)が成されたとすれば、金利を上げるか、供給能力を増大させて需給均衡をはかる(物価を下げて落ち着かせる)、というようにすればよいのです。
 このからくりについて、マスコミや政府・日銀およびエコノミストが示さないのであれば、産業界をはじめ私たち国民が自ら、その基本を理解できるどうかに、今後の日本経済の行方はかかっていると最近感じています。
 
 「今年度補正予算の残りの凍結」とか、これまで以上の「財政均衡主義」的な政策が実施されると、日本経済は確実に失速していくものと予想されます。

PS2:
 なお、国債発行による財政出動(=政府投資=政府赤字)は、国民の税金を使う方法ではありません。ここがよく勘違いされます。
 日本の財政学者は、国民の税金負担能力までを以って、国債発行残高のmax値と定義するようですが、実質は上記のようなデフレギャップを原資として国債発行しても実質問題はないのです。その意味では、国債は国民の借金(負債)にはなりませんし、元々は市中の経済主体(国民を含む投資家ら)の金融資産です。

 同経済主体への金利支払いが心配であれば、「日銀直接引受」の方法で問題は片付きます。この場合、その金利による収益は、日銀から政府へ納付金として毎年約95%は政府へ戻されるからです。この方法は、財政法5条に基づき、議会の了承を得れば実現可能です。米国のFRBと財務省との間で、現在行われている方法です。

 また、「公共投資」(=社会インフラ資本形成)よりも、「減税」の方が効果的だとよく主張されますが、理論的には後者の方が前者よりも、最初の所得移転分(公共投資による第1次波及効果としての所得発生分)だけ、つまり、乗数効果が「1」だけ小さくなります。実際、過去の減税政策よりも、公共投資型の政府支出の方が効果があったと指摘されています。

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2009年8月21日 (金)

【書籍の感想】今は逆効果となる「財政均衡主義」と「中央銀行の独立性」

■タイトル :『「○○改革」とは何だったのか―政策イノベーションへの次なる指針』
       第4章「不良債権処理と金融システム改革」
■媒体と掲載日 :2006年6月
■論考の書き手 :○○氏(○○大学院公共政策研究科客員教授、○○○大学総合研究機構客員教授、学術博士、元○銀マン)
=====================
■論考の有効性 :【×】(私の感想)

 第4章の記述についてのみ示します。

 同章「不良債権処理と金融システム改革」担当の○○氏による、経済・財政感覚はかなりおかしいのではないかと思います。同章前半の小泉改革での竹中大臣を中心とする金融恐慌および不可解な再生に関する顛末については、概ね当時の事実関係が記述されており参考になります。

 しかしながら、後半の部分では、○○氏の見識を疑わざるを得ません。○○氏は経済財政分野の理論家とされているようですので、今後の政局いかんでは日本経済へ多大な影響を及ぼす可能性があります。現政権の政策よりも厄介になるかも知れません。

 簡単に3つだけ取り上げましょう。○○氏だけでなく、多くのエコノミストや経済学者が間違う点です。

【1】「実質金利マイナス政策」とはさほど有効ではなく、むしろ高い実質金利の体感度合いが問題。

 「マイナス金利」とは、「インフレターゲットを実行する」という文脈で用いられます。
 以前から、慶応の深尾光洋教授が提唱していることでもありますが、米国のマンキュー教授の場合、中央銀行が0から9の数字をランダムに選ぶことで、ドル紙幣の番号の下1桁がその数字に該当するものを無効にするという形態で、「マイナス金利」を実現しようと言うアイデアを出しました。

 つまり、所有者のドル紙幣の一部をランダムに無効にしてしまうことになりますので、それならば、ドル紙幣が無効になる前に消費や投資に使うだろう、という読みがその背景にあります。ある種の駆け込み需要です。「マイナス金利」という「非伝統的な金融政策」のことです。

 しかしながら、抜本的なデフレによる不況脱却には、その効果はそう高くないのではないでしょうか。このあたりの認識は、○○氏と私も同じです。

 他方、当時(今も)はGDPデフレーターで見てデフレ(つまり、同デフレーターがマイナス)であったのです。○○氏は「企業物価」がプラスとなったので「もはやデフレとは言えない」と記しますが、ここは基本的な認識の誤まりでしょう。

 さて、例えば、GDPデフレーター(インフレ率)が「-2%」とすれば、またゼロ金利政策(名目金利ゼロ)だったのですから、実質金利=0-(-2)=+2%となります。
 定義は「実質金利=名目金利-GDPデフレーター」ですので。

 従って、「量的緩和」をしても効果がない、つまり、様々な経済主体がマネーを借りないのは、実質金利がプラスだからなのです。それに同デフレーターに最近までの地価下落分を加えれば、さらに高い実質金利が市場では体感されているはず

 そのため、誰も借り手が現れず、伝統的でも「非伝統的な金融政策」(例:量的緩和)でも効果がないのです。

【2】「財政問題」。「国債の貨幣化につながる危険な領域に入った」「毎年何十兆円もの国債を発行する異常な財政拡大政策」という表現が象徴的。

 日本経済は過剰貯蓄体質ゆえ、投資や消費を放置しておくとすぐに総需要不足となり、また企業は国内に優良な投資案件がないため輸出に収益機会を得ようとします。

 それで貿易黒字が蓄積され、やがて円高となり輸出への抑止力が働きます。そして、デフレスパイラル状況が続きます。

 このようなデフレによる不況下にあって、不良債権を抱え自己資本比率低下をいまだ気にする銀行は貸出(融資)を滞らせ、また企業もバランスシートを毀損しているため思い切った投資ができません。また、家計も貯蓄を切り崩して消費を手控えています。

 こうした状況下で、日本経済がマイナスに陥らないようにするためには、政府による財政出動が鉄則。実際、宮沢内閣期や小渕内閣期はそれをやっており、それで経済成長につながりました。

 好況下であれば別ですが、デフレによる不況下にあっては、むしろ「大きな政府」による景気対策が不可避なのです。政府による財政赤字でマネーを経済に投入しなければ(国債の貨幣化)、デフレスパイラルはさらに悪化します。財政政策とはこのためにあるのです。

 「財政均衡主義」は現不況下では逆効果なのです。財政出動でGDPを高め、総所得が増えれば消費につながり、企業投資が増えます。そうなれば税収増となり財政赤字も減らせます。簡単なシミュレーションでも、それは確かめられることです。

【3】「中央銀行の独立性」の話し。

 ○銀の独立性をことさら強調することなど、本来経済にとって不可欠な財政・金融政策の連動性からは、どうかと思われます。

 この独立性が「先進国共通の知恵」と書くのは勉強不足でしょう。先進国の過去250年ほどの金融の歴史を調べてみるとよいと思います。中銀(あるいは米FRB)が、実は国全体の経済を実質握っているのではないかとも思える実態が透けて見えてくるはずです。

 また一方で、例えば、米FRBやECB(欧州中銀)も、さらには中国の人民銀行も、「リーマン・ショック」以降はさらなる一体的舵取りを行っています。1998年の「改正○○法」で○銀の独立性が強まったことは、結果的に今の日本経済にはマイナスになったのではないでしょうか。

 「政府への財政ファイナンス」をやることは悪いことではありません。それは正当な行為であり不可欠な時期があるのです。
 1930年代の高橋財政の時には、政府と○銀の一体的な見事な連携により、日本は世界に先駆けて世界恐慌を乗り切りました。今の○銀マンは、この誇るべき教訓を今に生かして欲しいと願っています。

 以上特に【2】と【3】に関する○○氏の見識については、いかがなものでしょうか。このような考えを今の日本経済に適用すれば、日本経済はさらに沈下して行くのではないかと思いますが・・・

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2009年8月 2日 (日)

【一言】「貯蓄率急落の先にある悲劇」という過度な恐怖感?の醸成

 著名な経済学者であり、政府の委員なども務める、極めて影響力のあるI教授の最近の記事についてです。

 「貯蓄率急落」とは、その通りだと思いますが、その先にあるのが「悲劇」であっても、悲劇の内容については、かなりの程度、国民に誤解を与えかねないものとなっているのではないかと。そして、この論調は、当コラム前回に記したO氏(著名な経営コンサルタント、民間ビジネススクール経営者)やその他多くの専門家・識者と呼ばれる人々が、同様のことを主張しています。

 より正確には、そのような考えの人々の意見・声が、マスコミに大量に流れているのです。従って、この種の傾向の大きな要因の一つは、マスコミおよびその他関係者(その傾向が強化されることで利権を維持できる人々)に帰されるべきでしょう。

 当主張のような見方とは、別の見方・考え方がそれなりの根拠のもとあるのですよ、ということを示したいと思います。
 私は、経済学的な手法で物事を判断する際の根拠とは、当世の権威によるものではなく、①「木(現象面・表層的な事項)は実(成果)を知るべし」ということ、そして、②より全体を整合的に説明できるか、にかかっていると考えています。

=====≪quote≫

■貯蓄率急落の先にある悲劇
『Voice』2009年7月24日、I教授(国立T大学経済学部教授、S機構理事長)

 日本の家計部門の貯蓄率が急速に低くなっていることを知っているだろうか。OECDのエコノミック・アウトルックの付属統計表の数字で見ると、1990年代の初めには15%もあった日本の家計部門の貯蓄率は、2007年には3%前後まで下がっている。大変な下がりようである。米国の家計部門の貯蓄率が低いということがよく話題になるが、場合によっては日本の貯蓄率のほうが米国よりも低くなる可能性もありうる、と指摘するエコノミストもいる。

 日本の貯蓄率は国際的に見ても高いほうであると考えている人が意外と多いようだが、家計部門で見るかぎり、日本の水準は世界的に見ても非常に低い水準となっている。こうした動きは将来の日本経済の姿を考えるうえでも非常に重要なポイントとなるのだ。

 そもそも、なぜ日本の貯蓄率はこんなにも急速に下がってきたのだろうか。その要因はいろいろあるだろうが、もっとも説得的な理由は少子高齢化の進行である。人口のなかに占める高齢者の割合が増えるほど、経済全体の家計部門の貯蓄率は低くなる傾向になる。一般的に、人びとは現役時代に貯蓄して老後の生活資金を蓄え、引退してからはそれを切り崩して生活資金に充てていく。その結果、現役世代の貯蓄率は高くなるが、高齢世帯の多くは貯蓄率がマイナスとなるのだ。

 以上で述べたことは、いまの日本経済の一般的な認識とはかなり異なる。よく知られているように、日本国民が保有している金融資産の額はきわめて大きい。年間可処分所得との比で見ると、国民1人当たり約4倍の金融資産を保有している。ドイツやフランスの2倍、米国や英国の3倍に比べて群を抜いている。

 金額で見ても、約1,400兆円あるといわれる個人金融資産の70%前後が60歳以上の人によって保有されている。大金持ちは少ないが、小金を貯めている高齢者が多くいるのだ。

 いま日本でいわれているのは、多くの高齢者が貯蓄に励みすぎ、消費が少ないことが日本の内需不振を招いているということだ。国民がもっと積極的に消費を行なえば、日本経済もこれだけ輸出に頼る必要がない、という思いをもっている人は多いはずだ。

 こうした経済の見方は、これまでの日本経済の姿、あるいは現在の状況を理解するうえでは基本的に正しいだろう。しかし、足下で家計の貯蓄率が急速に下がっていることは、「過剰貯蓄国日本」の姿が急変していることを示唆している。日本も特殊な国ではない。ほかの多くの先進国と同じように、高齢化が進んでいけば貯蓄力は急速に衰えていくのだ若いときにはたくさん稼いで貯蓄に回し、年をとったらその貯蓄を崩して消費に回していく。これは1人ひとりの個人についていえることだが、同時に国についてもいえることだろう。そうした意味では、日本の貯蓄率が下がっていくことに過剰に反応する必要はない。

 ただ、この現象を、過度に積み上がった政府の債務とダブらせてみたとき、非常に厳しい将来の姿が浮かび上がってくる。いったい誰が日本政府の債務をファイナンスするのかという問題だ。

 日本政府は国・地方合わせてGDPの150%前後という膨大な債務を負っている。その一方で財政赤字は縮小するどころか、この不況のなかでさらに拡大する傾向にある。税収が大幅に下がる一方で、経済対策で大胆な歳出拡大が行なわれているからだ。赤字が増えれば、政府の債務はさらに増えていくことになる。

 これだけ厳しい財政状況であるにもかかわらず、国民も企業も政府債務膨張の歪みを直接感じることはない。通常は政府の財政状況が悪ければ、長期金利の急騰(国債の価格の暴落)が起こるか、悪性のインフレとなることが少なくない。日本の場合にそうしたことが起きていないのは、潤沢な国民の貯蓄資金が国債をファイナンスしているからだ。国民の多くが銀行などの金融機関に預けた貯蓄の相当部分は、政府の国債購入に回っているのだ。

 問題はこうした政府債務のファイナンスがいつまで持続可能であるのか、ということだ。家計部門の貯蓄率が下がっているということは、個人の保有する金融資産が頭打ちになっていくということでもある。場合によっては、将来は貯蓄資金の切り崩しも起こるかもしれない。一方では、政府の借金は増えつづけている。増えつづける国公債を誰が所有してくれるのか。

 不況の時代には、皆が安心して国公債を保有する。それがいちばん安心だからだ。株や不動産や資源へ回る投資も少ない。しかし景気が回復してくれば、資金も国公債から、よりリターンの高い株や不動産などへシフトしていくだろう。こうした動きが、国公債市場に大きな打撃を与える可能性も否定できない。経済が不況であるあいだはそうした厄介な動きが起きにくい、という意味で、いまはおかしな安定状況にあるともいえる。

 いずれにしろ、経済の大きなトレンドは財政問題深刻化の方向に着実に針を進めている。家計部門の貯蓄率の低下、垂れ流されつづける財政赤字で膨れ上がる政府債務、こうした動きの先には何があるのだろうか。軽度な財政破綻による金利高騰なのか、より深刻な財政破綻としてのインフレなのか、それとも日本経済を見限った円の暴落なのか、悲観的な想像をしたらきりがない。

 日本の家計部門の貯蓄が大量に国公債購入に回っているということは、日本国民が日本の将来に資金を出しているということである。財政問題が顕在化すれば、日本国民の多くの資産が毀損することになる。国債価格下落による資産価値低下か、インフレによる資産の購買力の低下か、それとも円安による円の購買力の弱体化か、その具体的な姿についてはわからないが、いずれにしてもあまり明るい未来像ではない。

 こうした事態に陥らないためにも、一刻も早く、財政健全化に着手しなくてはならない。

=====≪unquote≫

■論考・記事の有効性 :【×~△】(私の感想)

 この記事の感想を、簡単に記しておきたいと思います。

◆貯蓄率低下の背景は所得が下がっていること

 まず、≪1990年代の初めには15%もあった日本の家計部門の貯蓄率は、2007年には3%前後まで下がっている。≫の件、統計的なデータの確認事項です。

 「貯蓄率」とは、「貯蓄額÷可処分所得」なる比率です。 貯蓄率は、「国民経済計算」によると、1956年の18.0%をピークに若干の上げ下げはあったものの、資産バブル崩壊後のデフレによる不況が始まった1994年には13.1%ほどの水準にあったものが、2005年には3.1%まで下がりました。記事の「2007年には3%前後まで下がっている」とある通りです。

 「貯蓄率」が低下傾向にあるのは、貯蓄額が下がっているか、可処分所得が上がっているか、となります。ここで後者はほぼ一貫して過去8年間ほど下がり続けていますので、前者が下がっている、つまり、国民は貯蓄を切り崩して生活している一面を垣間見ることができます。

 また、「貯蓄年収比」(=貯蓄現在高÷年間収入)で見ると、次の通り、その比率は年々高まっています。
           1995年   2000年   2008年
 年間収入   : 762万円  721万円  637万円
 貯蓄現在高 :1,604万円 1,781万円 1,680万円
 貯蓄年収比 : 211%    247%    264%
(出所)総務省「家計調査報告(貯蓄・負債編)」(2009年6月16日)

 「貯蓄年収比」が上がっているのは、年間収入が下がっていることが確実にあり、貯蓄現在高は一時的に上がっているにせよ、年間収入が下がる度合いの方が大きいことを意味します。

 以上、「貯蓄率」の低下や貯蓄年収比」の上昇の共通点は、所得(可処分所得や年間収入)が下がっていることです。この点が、これら統計データの背景にあることを見逃せません。

◆貯蓄率低下の真因は少子高齢化だろうか?

 そしてI教授は、その原因を≪もっとも説得的な理由は少子高齢化の進行≫とし、続けて≪一般的に、人びとは現役時代に貯蓄して老後の生活資金を蓄え、引退してからはそれを切り崩して生活資金に充てていく。その結果、現役世代の貯蓄率は高くなるが、高齢世帯の多くは貯蓄率がマイナスとなるのだ。≫、あるいは≪高齢化が進んでいけば貯蓄力は急速に衰えていくのだと記しています。

 確かに「少子高齢化」で、貯蓄率の高い「現役世代」が「高齢世帯」となることで貯蓄率は下がるでしょう。

 実際、国全体に占める貯蓄額をざっと概算してみると、2008年総務省調べで、2人以上の世帯(約3,400万世帯)で65歳以上の「高齢者世帯」は、同世帯の40%程度であり、平均貯蓄額は2,500万円程度ですので、貯蓄額はざっと340兆円(=3,400万世帯×0.4×2,500万円/世帯)ほどにもなります。

 国全体の貯蓄額を推定すると、全世帯4,600万(=1人世帯の約1,300万+2人以上世帯の約3,400万【出所:国勢調査】)では、780兆円(≒4,600万世帯×平均1,700万円/世帯)ほどかと思われますので、「高齢者世帯」貯蓄額の割合としては、44%(=340兆円÷780兆円)ほどになろうかと想像しています。かなり高い割合です。
(言い訳 :ズバリそのものの統計データが見当たらず、推定ベースです。)

 これまでの通り(再掲しますと)、「貯蓄率」の低下や貯蓄年収比」の上昇の共通点は、所得(可処分所得や年間収入)が下がっていることです。そして、所得が下がれば、ほぼ正の比例関係で消費が減ります。

 実際、国民所得における1997年度の「家計可処分所得」が310兆円だったものが、2007年度には293兆円となり、「失われた10年間」で▲17兆円です。

 また、「家計最終消費支出」はそれぞれ278兆円から286兆円となり、8兆円増加していますので、結果、「家計貯蓄」(=可処分所得-消費支出)は、それぞれ36兆円から6兆円となり、▲30兆円ほどもの大幅な変化です。所得が大幅に減り、消費が若干増えているのです。
 これは、前者の所得が減ったのは不況のせいであり、また後者の消費が増えたのは、所得が減っても生活するための消費(衣食住)は維持せざるを得なかった、また加えて、ライフスタイルの変化などにより若干他の消費が増えたことによるものでしょう。

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【補足1】 一般的には(より長期的に見れば)、GDP(≒総所得)に応じ、消費が決まります。これは経済企画庁「国民経済計算年報」(2000年)などのデータを用いて、線形回帰(X軸に可処分所得、Y軸に消費)すると、決定係数R2が0.993(1.0に近いほど統計的に有意)となる程に、正の相関があります。

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補足2】 1990年代後半の米国では当時、逆に「貯蓄率」が少し高まっていました。
 当時、多くの経済学者やエコノミストがやはり今回と同様に、「ベビーブーマー世代が将来に向け貯蓄しているからだ」と解説していたようです。
 しかし、そうではなく、実際は米国の所得格差が、今日の日本と同様拡がり、ベビーブーマー世代の所得が増大したことで、つまり、「可処分所得-消費支出」=同世代の「家計貯蓄」のうち、左辺の第1項が同第2項以上に増えた結果であったとも推察できる訳です。

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◆現役世代には所得アップ、高齢者世代には新たな消費欲求の促進を

 話しを戻します。前述の通り、全消費者の恐らく4割ほどの行方は、高齢者の消費行動に左右されていると言えましょう。

 高齢者にとって、基本的な衣食住に関する消費欲求のうち、特に「モノ」については現在ほぼ満たしていると思われます。従って、健康・医療、安全、交通・移動面を配慮した快適な暮らし、住居のリフォーム(子供や孫への新築住居のプレゼント)、観光(旅行)、生涯教育(大学での正規の授業受講、趣味の追求)など、新たな消費欲求に訴求する「サービス」の開発が求められます。

 マクロ経済面として、「現役世代」でも「高齢者」でも、いずれにせよ共通的なことは、可処分所得もしくは年間収入が下がっていることを意味します。これは、現役世代の所得を上げること、そして、高齢者の新たな消費欲求を促すような政策が必要だ、ということです。

 これには、消費と投資が不活性下にある国内経済において、年間数十兆年規模の公共投資を最低2~3年間実施することが、最も効果があります。読者の皆さんには意外でしょうが・・・

 真っ当な専門家・エコノミストによるシミュレーションや、過去の日本経済での実績(例:宮沢内閣や小渕内閣での政権家の経済対策)で示されています。財政出動を行った時期には、必ず経済が上向いています。

 ただ、1990年代の資産バブルの破裂具合が大きかったり、超円高(80円近く)となったりしたことで、その見かけの効果は小さく観測されただけです。しかし、もし当時この種の財政出動対策を講じていなければ、日本経済はとっくの昔にマイナス成長に確実に入っていたでしょうし、国民の所得ももっと下がっていたことでしょう。このことが多くのエコノミストの間でも、一部の例外(例:NRI主席研究員のリチャード・クー氏や三菱UFJリサーチ&コンサルティング元部長の森永卓郎氏ら)を除き、残念ながら十分には理解されていません。

 また現下の中国の経済成長の原動力が、公共投資(同国GDP440兆円の12%ほどに相当する52兆円規模)にあることも、その証左です。

 最後の方でも示しますが、「公共投資」が全く効かないとか、バラマキで無駄な投資などと、多くのエコノミストやマスコミにより、「失われた15年間」繰り返し言われてきましたが、それは全くの事実誤認です。その間、「構造改革」を進めることの方が都合がよかった人々の声が大きく、黙殺されて来ただけです。

 経済学には、なぜか宗教戦争のような学派間の争いがこれまでもずっとあり、この争いの行方は当該時期のパワーポリティクスによるものが大きいのです。例えば、負の経済効果を生みかねない財政均衡という特定府省の利益、構造改革を通じた自由化による進出相手国での有利なポジション取りなどといった類のものです。つまり、時に事実や実効性などは無視され続けます。^^;


◆個人金融資産1,400兆円の意味(日本経済の下支え+動員可能額は僅か)

 次の、≪日本国民が保有している金融資産の額はきわめて大きい。≫そして、≪約1,400兆円あるといわれる個人金融資産≫については、前回のO氏の主張も同じことですので、再掲になります。詳しくは、そちらをご覧下さい。

 結論を示せば、世の中で真実のごとく報じられる、【あ】「個人金融資産1,400兆円」と言うものの実態として、動員可能額は、うち19%程度の270兆円ほどしかないことが推察されます。

 さらに付け加えれば、日本の金融資産は、「リーマン・ショック」前後で、次のように大きく減少しています。


                         日本の金融資産残高(正味)
                           2007年3月 2008年12月

A:個人(家計)          1,021兆円  1,058兆円
B:法人(金融除く)     -277兆円  -248兆円
C:政府           -482兆円  -507兆円
D:金融法人(郵貯含む)   28兆円  -350兆円
E:海外              58兆円  -241兆円
計               348兆円  -288兆円(▲636兆円)

(出所)日本銀行「資金循環統計」


 ちなみに、2008年12月時点の「A:個人」の金融資産は1,434兆円であり、金融負債は375兆円です。前者から後者を引いたものが、金融資産残高(正味)1,058兆円と言うことです。

 ここでよく見落としてしまうことがあります。それは、「A:個人」の金融資産約1,400兆円の大半は貯金や株式や国債(国内と海外)などのカタチで、別の経済主体の「金融負債」を形成していることです。資産と負債は必ずバランスしますので。

 例えば、「A:個人」の土地・建物資産は、上記の「B:法人(金融除く)」(不動産会社など)の負債として、また同国債は「C:政府」や「E:海外」の負債として、同株式や預金は「D:金融法人(郵貯含む)」の負債となっていることです。

 そして、「リーマン・ショック」以降、日本国のトータルの金融資産残高が正味で▲636兆円ということですので、法人や金融機関および政府の負債を元手とした国内外の他経済主体への貸付や融資を通じ、これだけの膨大なマネーがどこかに消失(運用に失敗)してしまった訳です。
 ここは大事です。言い換えると、【い】個人金融資産の大半は、別経済主体の負債として、もう戻って来ない可能性もあることです。そうは考えたくありませんが・・・^^;

 以上、【あ】と【い】で見る通り、「個人金融資産1,400兆円」と言うのは、もしかすると砂上の楼閣となっている可能性があるのではないでしょうか。

 当コラム前回のO氏(著名な経営コンサルタント)ほか、多くのエコノミストやマスコミまでもが、こうした「個人機能資産」の脆弱性を一向に問題ともせず、こうも安易に「個人金融資産1,400兆円」のことのみを取り上げ、そう主張または引用し続けるのかは、大変不思議です。
(その理由は、それなりに分かっていますが、ここでは記しません。)


◆「国家債務のGDP比150%」は国民をミス・リーディング

 さらにこの文面、≪国・地方合わせてGDPの150%前後という膨大な債務を負っている。≫についても、同様です。

 「150%」とか170%(OECDはこの数値を公表)とか言われているものは、あくまで国の債務残高としての「粗債務」のGDP比です。注意すべきは、O氏記事への感想でも示した通り、「純債務」(=粗債務-金融資産)のGDP比で見るべきです。

 日本の場合、この金融資産は膨大(約550兆円)であり、2008年3月時点で次の通りです。粗債務(約850兆円)と一緒に示しましょう。

≪粗債務(財務省2008年3月発表) ≫
 借入金                  57兆円
 普通国債等              545兆円
 財政融投資資金特別会計国債   140兆円
 政府短期証券             108兆円
 合計 (粗債務)            849兆円

≪金融資産(内閣府2008年3月発表)≫
 現金・預金               97兆円
 貸出・借入               66兆円
 株式以外の証券           135兆円
 株式・出資金              111兆円
 その他の金融資産・負債      143兆円
 合計 (金融資産)          551兆円

⇒純債務(=粗債務-金融資産)   298兆円
  名目GDP                516兆円
  GDPに占める純債務の割合  57.7%

(出所)財務省「債務管理リポート2008」(2008年4月)、日本銀行「資金循環統計」

 上記の通り、「GDPに占める純債務300兆円の割合」は58%ほどに過ぎず、諸外国(米国48%、ドイツ43%など)と比べでも、そう大きなものではありません。また、1990年代半ばの米国とほぼ同等でありましたし、カナダに至っては70%超もあり、むしろ日本よりも大きかったのです。

 以上から、無闇に「国・地方合わせてGDPの150%前後という膨大な債務を負っている」と繰り返し喧伝することは、国民を余計に不安に貶めるだけではないでしょうか。

◆国民の貯蓄の多くは国債購入のみならず他経済主体の負債に

 同記事では、≪日本の場合にそうしたことが起きていないのは、潤沢な国民の貯蓄資金が国債をファイナンスしているからだ。国民の多くが銀行などの金融機関に預けた貯蓄の相当部分は、政府の国債購入に回っているのだ。≫とあります。

 前述の通り、この「1,400兆円」という金融資産(貯蓄)があるからこそ、政府の負債(借金)約850兆円を下支えしている(=政府の国債購入に回っている)、と言う現実は確かにあります。言い換えると、膨大な個人金融資産を裏づけにして、日本経済が成り立っているのです。その点、概ね、I教授の文面の通りでしょう。

 しかし繰り返しながら、「政府の国債購入」以外の経済主体(上記の「B:法人」、「C:政府」、「D:金融法人」、「E:海外」)の負債として、既に貸し付けられており、またその運用がもし失敗しているとすれば、国民の大切な貯蓄が全額戻ってくるという保証はないのではないでしょうか。

 安全な預貯金と言えども、英国の物真似であったわが国の「金融ビッグバン」以降、より正確には、2002年4月1日以降、1金融機関につき1預金者あたり元本1,000万円までとその利息の預金債権のみまでが、預金保険法による保護の対象となった訳です。その保護対象外のものは、実質どこかに貸し出しされていたり投資したりされており、日本国民に全額戻ってくる保証はないですよ、と言っているのですから・・・

◆国公債市場への打撃の可能性

 ≪景気が回復してくれば、資金も国公債から、よりリターンの高い株や不動産などへシフトしていくだろう。こうした動きが、国公債市場に大きな打撃を与える可能性も否定できない。≫なる指摘の前半は理解できます。

 すなわち、「景気が回復してくれば」とは、どのように景気回復するかは分かりませんが(これまでの日銀主導の金利政策や政府挙げての構造改革で無理であることはもう判明しています)が、デフレを脱すれば長期金利が上昇して来ます。こうなると2重の意味で、大変なことになると心配する識者・エコノミストがいるのも確かです。

 1つ目は、少し前の経済成長中の欧米諸国のように4~5%ほどの金利上昇ともなれば、政府・日銀以外の国債所有者、すなわち最近、郵貯(少し前は政府部門)も加わった金融機関では約65%、海外が約6%、個人が約8%の計約80%に及ぶ国債所有者への金利支払いが膨大となります。

 2つ目には、それら現国債所有者が日本国債を手放し、I教授が示している通り、「よりリターンの高い株や不動産などへシフトしていく」ことが容易に考えられます。

◆財政破綻が日本で本当に起こるのか?

 そして、I教授は続けます。≪軽度な財政破綻による金利高騰なのか、より深刻な財政破綻としてのインフレなのか、それとも日本経済を見限った円の暴落なのか≫と。

 普通このように考える人々が多いのですが、それは日本も回避できることです。

 第1に、現在の国債価格は、長期金利が世界で最も低く(1.4%程度)、価値があります(買い手がいます)。多くの識者・エコノミストは、現下の日本の財政は危険水域にあると無闇に吹聴しますが、一方で財務省は海外でその危険と言われる日本国債を積極的に売ろうとしているのです。
 実際、ここ5年間で海外の買い手による保有額は倍増(3.3%から6.4%へ)しています。本当に危険なものは売れませんし、売手側(日本政府)もそのようなものを売ろうとはしないでしょう。それこそ国際間の信用問題となりかねませんので。

 第2に、いまの米国が同じこと(上記のI教授の指摘内容)をやっているのです。
 特に昨秋の「リーマン・ショック」以降、米国は財政破綻状態に近いものがあるはずです。また、ハイパーインフレになってもおかしくないほどに、米国債を元手に米ドルを増刷しています(その多くは帳簿上で)。米ドルが暴落してもおかしくない程の状況にあることを、海外の専門家らが指摘するところです。
 ただ、そうならないのは、米財務省とFRB(米国の中央銀行)が見事な連携プレーを見せているからです。最後の貸し手であるFRBが、必要な米ドルを市場に供給し続ける限り、ある面(一定水準までは)、国家が破綻しないようにコントロールすることもできます。

 日本の場合、米国よりも、遥かに経済基盤がしっかりしていますので、ここまでの心配は無用です。
 しかし仮に、日本国債の金利が急上昇し財政面で厳しくなった場合、また円が暴落しそうになった場合には、日銀が円(マネー)を増刷し買い支えればよいのです。

 日銀は、表向きにはジャスダックに上場されている民間企業とは言え、政府管理下の事実上の政府部門ですので、国民のために奉仕する存在です。
 日銀のバランスシートの毀損などは二の次です。それに、わが国の場合、デフレギャップが膨大(GDPの約3割に当たる250兆円ほどと試算済み)であるはずですので、マネー供給量はこの250兆円ほどまでとなっても、経済原則からインフレにもならないでしょう。たとえ過度なインフレになりそうな場合には、金利引き締めなどの金融政策で対処できるのです。

◆「財政健全化」には財政出動か“ヘリコプターマネー”で

 最後に、I教授は、≪財政問題が顕在化すれば、日本国民の多くの資産が毀損することになる。国債価格下落による資産価値低下か、インフレによる資産の購買力の低下か、それとも円安による円の購買力の弱体化か、その具体的な姿についてはわからないが、いずれにしてもあまり明るい未来像ではない。≫と言うことを示し、≪こうした事態に陥らないためにも、一刻も早く、財政健全化に着手しなくてはならない。≫と結んでします。

 もう既に上述した通り、I教授が懸念するような「あまり明るい未来像はない」と言ったような悲観的なことは、やりようによっては十分回避できるのです。
 また、その回避の方法が「財政健全化」でないことも、少々難しかったかも知れませんが、読者の皆さんにはお分かり頂けたのではないでしょうか。

 財政健全化は、景気が回復した後に、本格的に行えばよいのです。また、財政出動のカタチで、景気回復を本気でやろうとしている最中に、自ずと健全化されるものです。

 現下の根強いデフレによる不況で経済の低迷が続く日本で、最も劇的に効果がある方法は、スティグリッツ(ノーベル経済学賞受賞者)やバーナンキ(現FRB議長)も推薦している「政府貨幣」発行(≒“ヘリコプターマネー”)によるものでしょう。
 その次は、米国が現在行っているように、日銀による国債の直接引受です。この2つの方法が難しければ、通常の国債(赤字国債)の発行によるものでもOKです。

 実は、下述の通り、きっと別人(?)だろうと思いますが、I教授が、今回の上記記事の論調とはまったく違った見方で、デフレ克服に向けた、真っ当な経済政策について解説しています。

【補足3】 I教授「デフレ克服、政策調整必要」日本経済新聞(2002年12月2日)から抜粋:
 「空から一定量の貨幣をバラマキ続けたら物価下落はとまるだろうか。貨幣がバラマキ続けられると考えれば、やはり使おうとするだろう。それが物価を引き上げる(マイルドインフレに向かい、デフレ脱却、経済成長へ)」
 「ヘリコプターマネーについて。物価ターゲットが重要。過度に物価が上がらないよう、物価上昇率に上限をつける。将来の税負担が増えるわけではないため、純粋な財政政策に比べ、デフレ解消効果が強い理由のひとつ。インフレ税という目に見えない税負担が財政支出を支えることになるので、国民の支出を誘発するという性格をもった“税”である。デフレという深刻な危機に陥っている日本においては、平時では考えにくい手段まで視野に入れなくてはいけない。」


 日本経済の特徴として、これまで(特にデフレによる不況下)、貯蓄が消費や投資を上回っていることで、物価上昇率がほぼゼロ状態となり、まず円安に触れます。そして、国内の民間の消費・投資が非活性であったため、企業は円安を追い風に海外に収益獲得の活路を求め、積極的な輸出により凌いできました。結果、経常収支が黒字となり、また低金利が続く構造を日本経済は持っています。これがこれまでの日本経済の典型的なパターンです。

 一言で現下の日本経済を示せば、「民間の消費・投資が非活性+経常黒字+低金利」と言う構造を持っています。この構造を改革する最大のポイントは、「小泉構造改革」(民営化、規制緩和、自由競争など)ではなく、消費や投資を活性化すること、つまり、総需要を喚起させることです。これさえできれば、内需拡大につながり、経常収支の均衡化や金利(もしくは物価)の緩やかな上昇(≒デフレ脱却)に向かわすことができるのです。

 このような構造を持つ日本経済では、現在まだ金利の低いうちに、国債発行を通じた財政出動(前述のような民間への波及効果の高い公共投資など)による総需要の喚起を行うことが、最大かつ喫緊の政策眼目となるはずなのです。

 そうなれば国民の所得が増え、必ず消費や投資に向かいます。こうなって初めて経済成長ができるのです。「貯蓄率急落の先にある悲劇」というメッセージは、国民に過度な恐怖感を醸成するだけではないでしょうか。

PS:
 今回もまた、私の頭の整理と関連データの記録の意味を込めて長々と記しましたが、この書きなぐりのコメント(感想)に、最後までお付き合い下さり有り難うございました。(^-^)

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2009年7月29日 (水)

【一言】デフレによる不況下「上昇気流に乗る日本経済」などありえるのか?

 O氏の言動は、産業・ビジネス界に留まらず、政治・経済面でもとても影響力が大きいです。かつては、米国の大統領も狙える男と米国では評されたくらいですし・・・

 ある意味、私の古巣では先輩格に当たる大物を、この場で個人的に非難するものではありません。その考え方に対して、若干の感想の記しておきたいだけです。(^-^)

=====≪quote≫

■上昇気流に乗る日本経済
O氏(民間ビジネススクール会社代表取締役)
PHP研究所『VOICE』2009年7月号

オバマ大統領の「フェイント」

 日米両国の株価が回復している。ダウ平均は3月6日に6,470ドルの安値をつけたあと、2カ月間で8,000ドル台まで一気に揺り戻した。その理由は一言でいうなら、オバマ大統領の「フェイント(見せ掛け)」が成功したからだ。

 オバマは、アメリカ経済を守るためならどんなことでもやる、ときわめて歯切れのよい言葉を述べている。国の資本投下も辞さないとし、事実、大手自動車メーカーのGM(ゼネラル・モーターズ)やクライスラーなどに対して大規模な資本注入を行なった。アメリカが民間企業、とくに製造業に資本を投下するのは今回が初めてで、アイアコッカ社長の時代にクライスラーが経営危機に陥ったときも、アメリカ政府は15億ドルを融資するにとどまった。さらにはUAW(全米自動車労働組合)に年金債務や労働債務の株式化を指示し、各ファンドに対しても協力を強く要請、それを渋ったファンドに対しては公然と演説のなかで非難した。歴代米政府には見られなかった、きわめて強権的な国家介入を行なっているのだ。

 もはや、アメリカは純粋な自由主義経済を標榜する国家であるとは呼び難い。自動車メーカーはもちろん、金融機関であれ何であれ、国内の資本や雇用を守るためなら徹底的に救済するという名目の下、社会主義国化してしまったのである。

 しかし歴史を振り返れば、このような介入を政府が行なって成功したケースは1つもない。社会主義国はすべて崩壊の道をたどり、フランス、イタリア、イギリスなどが自国の企業を国営化したときも、そのほとんどすべてが失敗に終わっている。それなのにオバマが60%もの高い支持率を誇るのは、金融危機で皆がパニックに陥って過去の教訓を忘れ、強い政府を求めているからだろう。政府は印刷機をもっているわけだから、その姿勢自体がトランキライザー(精神安定剤)として働くのである。

 ただし、そうは言いつつオバマは「お金を投入する」と約束しただけで、財政赤字を意識し、実際に輪転機をフル回転させてはいない。日本と違ってアメリカ国民には蓄えがないから、徳政令を出してその資産を奪い取るわけにもいかない。

 だからこそ、彼とFRB(米連邦準備制度理事会)議長のバーナンキおよびガイトナー財務長官は、「アメリカ経済は底を打った」「回復の兆しが見えた」というフェイントを行なっているのである。そしてそういうことで、実際に3,000兆円ともいわれる世界中の“ホームレスマネー”がアメリカに流れ込んでいるのだ。

 3,000兆円の中身は、先進国の年金基金や退職基金、保険基金、あるいは産油国の余剰資金などである。かつては6,000兆円を超えていたが、今回の経済危機でほぼ半減したとはいえ、これほどの使い道のない金が世界を徘徊するのは、大恐慌時にはなかったことだ。

 この金は、つねにリターンのよい投資先を探しているが、金融危機によって世界中がダメージを受けているいま、リターンのよい投資先はそうそう見つからない。しかし、たとえ嘘でも「わが国は大丈夫」といえば、その声に釣られて世界中の“ホームレスマネー”が集まってしまう。投資家は「底値で買って、高値で売る」ことだけを考えている。今回の米株式市場の回復も3月からの2カ月で29%の上昇をしている。預金金利が世界的にほとんど付かないときに、これは千載一遇のチャンス、である。

 オバマは、「最悪期はどうやら脱した」ということによって皆がアメリカの株や不動産を買うように仕掛けたのだ。どうやら、といっているので後になって言い訳がいくらでもできるところがミソである。

 皆が買えば、株価はますます上がる。そしてますますお金が集まってくる。そうすると不思議なもので、「色の白いは七難隠す」ではないが、あたかも座礁した船が周りの水位が増して浮かび上がるように、破綻しかけていた企業は復活してしまうのだ。ストレステスト(健全性審査)で政府が「資本注入が必要なのはほんの数行。あとは自分で調達できるはず」といえばモルガン・スタンレーの発表した75億ドルの市場調達に応募者が殺到する、という3カ月前には考えられなかった状況が起こっている。

 ダウの上昇に釣られ、日経平均も反転した。日本の株式市場は3月10日が底で、このときインデックス(平均株価指数)買いを行なっていれば、2カ月で30%以上も儲けたことになる。しかし、それでは日米両国ともに底を脱したか、といえば、とてもそんな状況ではない。このまま一本調子で上がることはまず考えられない(上がれば、再び暴落するリスクと背中合わせになる)。

 金融危機が与えた傷は深い。GM破産の公算は高く、失業率も10%を超えるだろう。日本にしても、企業業績が回復しているわけではない。トヨタ自動車は2010年3月期決算も赤字予想だ。パイオニアをはじめ通信・電気・電子機器の会社は多くの「不良資産化した事業」を整理しなくてはいけない。その過程で会社自体が破綻することもありうる。それでも投資家は皆、個別の会社の事情を無視してインデックス買いするから、株式市場は上昇してしまうのである。

「心理」の改善でマネーが動きはじめた

 この現象はもはや、マクロ経済学では分析できない。そもそもマクロ経済学は、国家が「閉じている」ことを前提にしたものだ。そのなかで金利を下げ、マネーサプライ(通貨供給量)を増やす。あるいは公共事業で有効需要をつくって雇用を増やし、その給料で消費を煽る。しかし、このようなサプライサイド、ディマンドサイドの理論はともに、グローバル化した世界では通用しない。わが国1つとっても、金利をゼロにしたところで誰もお金を借りない。すでにお金は手元にあるからで、タダといわれても、要らないものは借りないのだ。

 公共投資の乗数効果にしても、いまや0.3程度といわれている。1兆円使っても3,000億円しか需要をつくることはできず、これでは国が需要を生み出そうとしても、うまくいかない。しかも、すでに日本の財政は破綻している。そのうえでさらに選挙対策の15兆円の財政出動となれば、次の世代が背負う重荷は大変なものになるだろう。

 いまや、世界はボーダレス経済(国境のない経済)で動いている。ボーダレス経済下では、金利が高ければ、あるいは土地がまだ安い、と判断されれば、それだけで国境を越えて、世界中から先ほど述べた“ホームレスマネー”が集まるのだ。

 これらの金は、「どこに、何のかたちで置いておけば、1年後のリターンがいちばん大きいか」という発想だけで動く。投資対象もない。1年後に最低10%のリターンを得られることができるなら、それが土地でも、石油でも、株式でも、もっと別の何かであっても投資家は構わない。流動性があり、いつでも逃げられるなら、お金は変化自在に国境を越えて移動する。日本のように納税者の負担で景気を刺激する、というのは愚の骨頂で、多くの政府は国民に迷惑が掛からないよう、世界の“ホームレスマネー”を引き寄せることに知恵を使う時代になっているのである。

 オバマ政権の一世一代の大芝居はまさにこの一点を演出している、という観点でみておかなくてはいけない。経済が大変だ、と認めたら金は逃げていく。これ以上は悪くならないだろう、といえば興味を示して寄ってくる。

 繰り返すが、この“ホームレスマネー”は底値を好む。とても投資などできない、と皆が嘆くそばで、いまか、いまかとタイミングを狙っていたのだ。同時に投資家はこのお金をどこかに置かなければならない、という飢餓感をもっていた。米国債をもっていても、低金利でほとんど利回りはない。しかし運用はしなければならない。そしてオバマのフェイントもあって、ここが「底」と判断するや、世界中のお金が買い出動しはじめたのだ。

 4兆元の公共工事を打ち出して安心感を与え、株価を下支えした中国政府の手法などに、オバマが学んだ面もあろう。いわばこれはボーダレス経済下における「心理経済」とでも呼ぶべきもので、いかに人々の心理に働き掛け、余剰資金を引き寄せるかで、その勝負は決まる。各国政府の賢さがボーダレス経済においては毎日試されている、といっても過言ではない。

 先に述べたように、日本政府はこの点、世界で最も演技の下手な部類である。世界からお金が来ないように意図的にやっているのではないか、と思われるくらいだ。逆にいえば、国民がおとなしく、自分たち(および次の世代の人々)がむしり取られても、文句をいわない。納税者が負担する高速道路の割引も15兆円の補正予算も、マスコミや識者でさえも非難するどころか「もっとやれ!」というトーンである。

「中古車をすべて50万円で買い取る」政策を

 つまり、政府が本当に景気を回復させようと思うなら、もはやマクロ経済学は時代遅れであり、心理経済学こそが活用されるべきなのだ。とくに日本の場合、世界の“ホームレスマネー”に過剰依存しなくとも、1,500兆円といわれる莫大な個人金融資産がある。これが消費に回るだけで、景気は一気に回復してしまう。

 じつは、日本人は意外とお調子者である。現在の「高速道路1,000円乗り放題」を見ても、どこまで走っても1,000円といわれると、「どうせなら、できるだけ遠くまで行こう」とガソリン代も気にせず、遠出する人が増える。お金をそこそこもっているからで、危機とは言い難い行動だ。結果、経済効果もそこそこ出てくる。

 しかし、この「1,000円乗り放題」も完全に成功しているわけではない。逆に観光客が減った地域もある。徳島県や福島県ではむしろ訪問客が減っているという。徳島県の場合、本州から明石海峡大橋と鳴門大橋を渡って四国に着いても、せっかくだから遠くの高知県まで行こう、ということで素通りされているのだ。

 同じ「片道1,000円乗り放題」にしても、何回乗り降りしても週末中は2,000円、とすれば、結果はまったく違うものになっただろう。これなら途中の徳島県で降りて、その後、高知県へ行く、という人も増える。両県にお金が回り、その経済効果も飛躍的に大きくなる。

 苦境にある自動車産業の刺激策にしても、同じような視点をもつべきだ。国は余計な条件を付けないで、「中古車をすべて50万円で買い取る」といえばいい。環境性能が高くなければ、購入年数の古いものでなければ、などの条件を付けるだけで、「自分には関係ない」と考える人が増えてしまうからだ。さらにはそこで、「どんなクルマでも買い取る。先着200万人」といえば、もう皆が殺到するだろう。

 50万円で200万人なら、総額でも1兆円である。定額給付金総額の半分で、日本は盆と正月が一緒に来たような好景気を迎えるのだ。しかも自動車が売れれば、部品メーカーも潤う。あるいは下取りしたクルマをすべて修理会社で直すようにすれば、修理工の雇用も増える。さらには修理したクルマを30万円で輸出すれば、200万台で6,000億円取り返せる。実質4,000億円の支出だけで景気を活性化させ、雇用を大きく増やすことができるのだ。

 このような提案を私が行なったあと、それに近い政策をドイツが実施した。ドイツの買い替え奨励策は、今年中に新車を買えば、9年以上たった中古車を2,500ユーロ(約33万円)で下取る、というものである。その条件にかなうなら、事故で大破したクルマでも問題はない。こぞって皆がクルマを買い替え、ドイツの自動車業界は対前年比30%増を達成した。なかでもフォルクスワーゲンが好調で、売り上げでトヨタを抜いて、時価総額世界一である。メルセデスベンツやBMWといった高級車メーカーはマイナスだが、それでも対前年比40%マイナスといわれる日本の自動車業界よりはずっといい。

 フランスとイタリアも同じようなプログラムを実施しているが、いろいろな条件を付けすぎているのと額が小さいので効果はドイツほどではない。先進国では国民の皆に蓄えがあるので、国が使わなくても心理的に刺激さえすれば、わずかのシードマネー(種まき)で大きな経済効果が得られる。財政などのマクロ政策で経済刺激策をやるのは間違いだ、と私は言い続けてきたが、オバマノミックスやドイツのやり方は、まさに『心理経済学』(拙著、2007年講談社刊)そのものである。

日本人はもう不況に飽きた

 このように述べると、必ず「今年は一時的によくなるかもしれないが、来年は元に戻る。来年の分の需要を先取りしただけだ」といった反論が経済学者から出てくる。しかし先進国にとって重要なのは、最悪期を脱出することなのだ。そのうえで、翌年には以下の政策を打てばよい。「築30年以上の住宅を建て替える場合、200万円を給付する。先着50万人」。そうすれば皆、一斉に家を建て替えるだろう。

 家の建て替えには、通常1,000万円程度の費用が掛かる。このうち本人負担を800万円、残りの200万円を政府負担にする。すでに建て替えてしまった人が損だというなら、昨年11月のリーマンショック以降に建て替えた人すべてを対象にすればいい。築30年以上の住宅は日本中にいくらでもある。来年のみならず、今後20年ぐらいは毎年1兆円の刺激策で、その経済効果が持続することになる。

 さらにいえば、それは経済効果だけではなく、大いなる副次的効果をもたらす。築30年を超えた住宅は脆く、大地震が来れば倒壊の危険がある。建て替えを奨励することで、地震対策を同時に行なえるのだ。あるいは子供が巣立った家ならば、夫婦の老後に備えたバリアフリーの家にしてもいいし、エコ対策を取り入れてもいい。そうやって、ライフスタイル自体をより豊かにしていける。要は、経済の80%は個人が負担する、政府はそれを心から支援する、ということだ。

 このとき政府が、お金を出さずに済む方法もある。住宅を建て替えた人に減価償却を認め、それも10年程度で償却できるようにするのだ。これなら建て替え費用を1,000万円として、毎年100万円分が所得税から還付される。政府の税収は減るが、新たにお金を支出する必要はない。そして景気がよくなれば全体のパイは増えるから、割合は減ったとしても、税の総額は増える。

 結局のところ、いま行なわれている景気対策は、(個人金融資産が潤沢であるという)日本のほんとうの実力を引き出すものにはなっていない。定額給付金のバラまき方は最悪である。一度銀行口座に入ってしまえば、そのお金をそこから動かすのは容易でないからだ。

 政府やマスコミが「不況で大変だ」と騒ぎ立てることにも問題があろう。「失われた10年」といわれた1990年代もそうで、皆が「不況で大変だ」と騒ぎ、廉価なもつ鍋と焼酎がブームになった。しかし、3年余り騒いだあとに国民自身が不況に飽きて、いつの間にか焼酎は高級ブランド化してしまった。

 つまりは当時、日本は不況ではなかったのである。なぜなら不況時には本来、国民の金融資産は大きく目減りするものだ。しかし逆に日本では、700兆円程度だった金融資産が気が付けば、1,500兆円にまで膨らんでしまった。今回の危機にしても同じだろう。じつは本音レベルでは、国民はいまが不況とは誰も思っていない。選挙を目前に控えた政治家たちが大騒ぎしているだけである。だからこそ、消費者心理をうまく刺激する効果的な政策を打つだけで、日本経済は一気に反転するのだ。

=====≪unquote≫

■論考・記事の有効性 :【×~△】(私の感想)

 それでは、以上の記事で示された考え方・見方について、少し感想を記してみます。

◆教条的な「社会主義」と市民社会としての「社会重視主義」 

 まず、≪国内の資本や雇用を守るためなら徹底的に救済するという名目の下、社会主義国化≫とありますが、このような言葉の使い方や考え方には、若干違和感を覚えます。

 オバマ政権での救済の対象を、今般の金融機関の火種をつくった金融機関や企業としていることには、同感です。一部の心無い人々により、2002~03当時の日本の金融機関や企業が「ゾンビ」と形容されましたが、本当の「ゾンビ」はこの対岸でのことだった訳ですから・・・

 ただ、私たちはそろそろ「社会主義」というかつての観念的・教条主義的なターミノロジーと、“社会市民”という民主主義下において、ただただ尊厳ある人間として人間らしく生きて行く(あるいは愉快に人生を謳歌する)ために最低限不可欠な“社会保障”という観点での、効率化追求至上主義との均衡をはかった(または同主義とは決別した)、いわば「社会重視主義」なる概念とを区別すべきではないでしょうか。

 北欧での「社会民主主義」など、資本主義の弊害を打開する試みとしての政治経済アプローチまで、否定されるものではありません。
 また上記のオバマ政権での「社会主義国化」については、後述の「ケインズ型経済政策」をも槍玉に挙げようとする想いが感じられますが、それは別の話しでしょう。

◆実は政府介入することには意味がある

 また、O氏は≪歴史を振り返れば、このような介入を政府が行なって成功したケースは1つもない≫と主張しますが、この表現は正確ではないと思います。

 上記のような社会主義国家の運営面としての「政府介入」という意味では、確かにその通りだったかも知れません。

 しかしながら、市場は大いに失敗して来たのです。その最大級のものが、今般の金融危機であり、今なお続く金融恐慌なのですから、市場機能に任せておきさえすれば、市場の不均衡(失敗、危機・恐慌)が是正されるなどと考えることこそ、教条主義の最たるものと言えましょう。

 1929年のNYウォール街の株式暴落に始まる世界恐慌からの、各国の脱却アプローチなどは、みなケインジアン的な政策による「政府介入」だったのです。

 ちなみに日本が世界の主要国に先駆けて、恐慌(デフレ)を脱しました。かの「高橋財政」(達磨大臣、高橋是清による積極的な財政出動)を通じ、見事に景気回復を実現しました。

 実施前(1930~31年)には、平均-10.3%だったGDPデフレーターは実施後(1932年~36年)で同1.5%となりデフレ脱却を果たし、また実質GDPは同0.7%から同6.1%へと急速に好転しました。このように見事に「成功」した例は、近年の財政政策による成果を含め、幾つもあるのです。

◆最近の株価の乱高下の背景にあるメカニズムPKO

 ≪ダウの上昇に釣られ、日経平均も反転≫とありますが、昨今(特に、「リーマン・ショック」以降)の株価は、本来の株式の定義である、日米ともに選定された代表的な企業の価値を表したものの反映とはなっていません。1週間でダウで数百ドル、日経で数百円も上げ下げしている状態が、今春頃から続いています。そのような短期間で、企業の価値(正確には将来キャッシュフローの正味価値)がそんなに変わるはずがないのです。

 従って、単純な米国株との連動による「反転」などではないのです。米国も日本も、政府・中央銀行が買い支えていると推察できます。特に日経平均の場合、次のような事情があるとされます。

【1】年金基金による株式買い(東証株価対策)
 * 東証の株式取引額 :1日に1.4兆円程度の薄商い状態
 * 2008年秋から2009年3月まで :東証株価の買い支え   ⇒上限に・・・
 * 年金基金の総運用資金117兆円の11%(13兆円) ⇒国内株の枠(毎月約1兆円)

【2】政府による株式買い(PKO)のアナウンス
 * 年金基金の買い枠が上限に近付いたため
 * 株価が下がれば、政府系機関による50兆円枠での買い発動を準備
(出所:産経ニュース「株購入で政府保証枠50兆円 自民党、追加経済対策了承」2009年4月9日)

 「PKO」とは、橋本内閣でも行われていたとされる「Price Keeping Operation」のことです。 本日(2009年7月29日)の日経平均1万円超えなど、ともて通常の経済・財務的なパフォーマンスが反映された実力値ではありえません。そのことは、読者の皆さんもうすうす感じているのではないでしょうか。^^;

◆マクロ経済学の意味するところ

 次の洞察、≪マクロ経済学は、国家が「閉じている」ことを前提≫、あるいは≪サプライサイド、ディマンドサイドの理論はともに、グローバル化した世界では通用しない。≫については、確かにその通り、ということが現実にはあります。
 昨今のボーダーレス経済についての核心を突いています。そして、ある意味、不可避な流れであったことも認めざるを得ません。

 何となれば、ケインズ政策は、基本的には「国家」を対象としたものである一方、その対極にある新古典派経済学(新自由主義、グローバリズム)とは、国家を超えたグローバル市場において、多国籍企業や国際金融資本家らが、最も効果的に富を最大化できる仕組みを理論化する代物だと言えましょう。

 後者の流れがこれまで主流だった実態はありますが、何もかも国を「開いておく」ことを前提とするかどうかは別です。例えば、農業、医療・健康、社会インフラ(交通、通信、空港・海運)、環境・エネルギー(電力、ガスなどの産業インフラにつながるもの)について、国を完全オープン化することは宜しくありません。幾多の弊害が考えられます。

 そして、その弊害を生む最たるものが、金融だと思います。実体経済の10倍ほどにも大きくなった金融産業が、私たちの生活と仕事に甚大な悪影響を及ぼしているのですから。

◆国をオープン化することの是非

 つまり、マクロ経済政策が効く程度に、国(市場)のオープン化に一定の制限を加えることが、求められるところです。これは、わが国の国益(他国からの富を呼び込むことの面+国防などの安全保障面)と生活者の生活防衛のための両方に、不可欠なことだと思います。

 無闇に国をオープンにすることで、日本から流出する分の富の大きさを考慮することが重要なのです。外国人投資家や外資企業の中には、ターゲット国からの富を収奪しようとする動機をもっている人々も、少なからず存在するのです。また、同国人の中には、グローバリズムやボーダーレスを称して、そうした外資経済主体と、(結果的に)行動を共にする場面が実態としてはありえるのです。


◆ケインズの乗数効果は生きている

 ボーダーレスの流れの勢いに乗って、(無意識下のことかも知れませんが)ケインズ的政策を否定するような、≪公共投資の乗数効果にしても、いまや0.3程度≫ということが、何度も何度も喧伝されます。

 しかし、この見方は誤っていると思います。丹羽春喜氏(筑波大学元教授、大阪学院大元教授、経済学博士)や宍戸駿太郎氏(旧経企庁審議官、筑波大元副学長)に加え、電中研の門多治氏(上席研究員)らの研究成果でも、「公共投資の乗数効果」は、2年目にして2.5程度、以降は3.0程度の効果があることが示されています。

 内閣府モデルなどでは、同乗数が2年目以降でマイナスにもなる、とても非現実的な数値が示されています。どうやら同モデルが間違っているとのエコノミストからの声も最近では大きくなっているようです。

 また大新聞などでも、この種の数値(マイナスでなくとも1.0未満)について報じられることが、「失われた10~15年」のこれまでのなか多くなりました。こうした世の中をミスリーディングするような情報によって、多くの産業界のキーパーソンですら認識を見誤っていることが推察されます。


◆経済・財政指標を見る限り日本の財政破綻はほど遠い

 加えて、≪
すでに日本の財政は破綻≫なる主張も、特にわが国では、あたかもそれが“常識”であるがごとく繰り返されます。しかし、これも認識を誤っていると言えましょう。

 まず、日本の長期金利(プライムレート)は、世界の先進国の中で最も低位の水準(直近で2.1%程度)です。国債価値(価格)と同金利(正確には1+IRR)は、反比例の関係にありますので、わが国の国債価値は高い、つまり投資家からの評価が高いことを意味します。言い換えると、財政破綻から最も遠い状況にあることを示します。IRRとは、内部収益率のことです。

 また一歩(百歩かな?)譲って、日本国の債務残高が850兆円(粗債務)ほどあり、その対GDP比が170%にも達し欧米諸国と比べ大変高い、ということの(あまりない)意味を考えてみましょう。
 これらの数字(〔a〕債務残高の絶対値と〔b〕GDP比による国際比較)が示され、日本は国家破綻の瀬戸際だとよく報道されます。それゆえ、今や日本国民はこのことを信じ込まされ、恐怖に慄いているのですが、これも過度な反応かと思います。


〔a〕 本当の実態を知るには、まず「債務残高(粗債務)の絶対値」で見てはいけません。
 よく報じられる債務(粗債務)の値ではなく、「純債務」(=粗債務-金融資産)を対象にすべきであることは、本物の専門家(例:文京学院大学教授の菊池英博氏ら)が以前から指摘していることです。
 日本の場合、欧米に比し郵貯や年金残高などの「金融資産」があり、その額が膨大なのです。

〔b〕 次にGDP比による国際比較をする際、この純債務で見ると、日本の純債務残高のGDP比は58%ほどになるはずです(私の試算)。
 こうなると、最近の欧米諸国における50%弱~40%台と遜色ありません。あるいは、1990年代半ばのカナダや米国とほど同水準ですし、両国はその後、景気回復し、現在は同比は20~40%台へ推移しています。日本も同様に純債務のGDP比を減らせる可能性は十分あるのです。

 景気が回復すれば、財政状況は必ず好転しますので、国家破綻だと無闇に騒ぐことを、欧米ではしません。世界の中の日本の非常識を、ボーダーレス時代の認識、としているとすれば、問題の核心をはずしていることになりましょう。

◆財政出動による赤字は国民が背負う負債ではない

 ≪さらに選挙対策の15兆円の財政出動となれば、次の世代が背負う重荷は大変なものになるだろう。≫とあります。これも“常識”のように考えられていますが誤まりです。

 まず、国の債務は、同時に国民(非政府部門:金融機関や個人投資家ら)の金融資産でもあります。「世代が背負う借金」などではなく、政府への貸付である、と認識を変えることが重要です。

 また、今回の財政出動の規模が物足りず(本来はこの数倍が欲しい)、目に見えるような景気回復は期待薄ですが、必ず景気が上向く要因になるはずです。15兆円の「自生的(独立的)有効需要支出」が政府により成されれば、ケインズの乗数効果に従い、その分が消費性向(GDPの約6割)ほどの効果をもたらすことになります。

 ここまで記事内容を見て来ると、この≪日本のように納税者の負担で景気を刺激する、というのは愚の骨頂で、多くの政府は国民に迷惑が掛からないよう、世界の“ホームレスマネー”を引き寄せることに知恵を使う時代になっている≫というメッセージが、「愚の骨頂」であることが判明してきます。

◆管理通貨制度の元でのシニョリッジ策の有効性

 繰り返しですが、「納税者の負担」ではなく、「政府の負債」に裏付けられた財源なのです。ここが金融や財政のプロにも、なかなか分かりにくいところなのです。

 現下の「管理通貨制度」の元では、国家がシニョリッジ(独占的な通貨発行益)に関する権限を持つことを許しているのです。いわば、各国政府は通貨発行権を保持しています。従って、その権利に基づき、通常は国債を発行し、それを市中が購入することで、日銀がマネーを創ります。また、最近のFRBは、自ら米国財務省発行の債券(米国債)を直接引き受けることで、米ドルを創っています(信用創造しています)。

 インフレにならないよう金利を操作する(上げる)ことで、デフレギャップの大きさ分(日本の場合は、GDPの3~4割にも達している可能性あり)、政府もしくは日銀が創ったマネーを経済に投入することで、経済を一気に回復できるはずです。これがデフレ脱却の基本的な方策となります。インフレを制御する方法は簡単です。

 この基本的なメカニズムをプロも十分理解できないため、上述のようなメッセージが溢れることになります。^^;

 また、「世界のホームレスマネー」のように実体経済を遥かに凌ぐ過大なマネーが、従来の銀行による信用創造と、レバレッジ乗数を用いた総合証券会社(投資銀行)による新たな信用創造により創られました。これが悪さをしているのですから、それを「引き寄せる」ことは禁物です。

◆中国も米国も今は財政出動が基本
 

 ≪4兆元の公共工事を打ち出して安心感を与え、株価を下支えした中国政府の手法≫にオバマが学んだとありますが、中国が米国や日本の経済・金融手法を学んで、いまの経済成長につなげている、という方が正しいでしょう。

 「リーマン・ショック」以降の米国経済の舵取りは、ケインジアンないしニューケインジアンにより成されていると言えましょう。また、特定産業への銀行融資による産業育成を通じた経済成長は、「窓口指導」によるものです。かつての日本が行っていたやり方です。

 中国のGDP(MER:為替レートベース)で4.4兆ドル(約440兆円)ですので、4兆元(約52兆円)公共投資は、GDP比で12%にも及びます。この程度の規模があれば、そしてこれが2年~3年続けば確実に経済成長につながるはずです。ケインジアン的な政策を地で行っているのです。米国も中国もプラグマティズムの国ですので、現下の経済情勢から自ずと、この基本的な政策を採ることになったのでしょう。今はこれ以外にはないと思います。

◆「心理経済」と「心理」の研究対象とは誰のことか?


 従って、≪ボーダレス経済下における「心理経済」とでも呼ぶべきもので、いかに人々の心理に働き掛け、余剰資金を引き寄せるかで、その勝負は決まる。≫といった類の経済論は、亜流と言うべきものでしょう。

 「心理経済」の対象とする「人々」とは誰か。単なる消費者ではなさそうです。「人々の心理」とは、「余剰資金」をコントロールしている米ウォール街や米シティに群がる投機屋の類と言うべきところではないでしょうか。そして、それら「人々」は、さらに上層に位置する国際金融資本家により、その「心理」を研究尽くされている、というのが核心部分なのでしょう。

 ある意味、「余剰資金を引き寄せる」そのメカニズムやその心理戦が、勝敗を決するのでしょうが、そもそもそのような戦いに過分に臨むことがよいことなのでしょうか。仮にそれを自ら望んで挑んでいったとしても、日本の「サラリーマン」投資家・専門家・官僚では、とても勝ち目はありません。勝ち目の無い戦いは避け、戦わずして勝つ方策を見つけることが、孫子の兵法の基本でもあります。

 そう考えると、≪心理経済学こそが活用されるべきなのだ。≫と主張することは、随分と浮いたメッセージであるように感じられます。

◆個人金融資産1,500兆円の実態(動員可能性は2割弱)

 ≪1,500兆円といわれる莫大な個人金融資産がある。これが消費に回るだけで、景気は一気に回復してしまう。≫の文面にも、大きな誤まりがあります。「個人金融資産」の実態は次のように推定されますので。

 丹羽春喜氏の指摘を参考にし、内閣府「国民経済計算」ベースの2007年度末残高を概算しますと、次の通りです。

   現金              43兆円
 + 預金              732兆円
 + 保険・年金準備金     403兆円
 + 株式・債券・その他     278兆円
 = 総資産計         1,456兆円

 しかしながら、実際は次のような引き算が必要です。

 - 総負債           381兆円
 - 保険・年金準備金     403兆円 〔#1〕
 - 個人企業の剰余金  
  120兆円 〔#2〕
 - 株式・債券・その他    278兆円 〔#3〕
 = 個人資産の動員可能性 274兆円
                   (18.8%)

〔#1〕 総務省「家計調査年報」ベースのデータをつき合わせると半分は重複分、もう半分は年金積立金管理運用独立行政法人の運用資産などですので、実質動員不可。
〔#2〕 間非金融法人企業の(現金・預金+貸出・借入+株式以外の証券+株式・出資金)×0.3(個人企業の営業余剰は民間非金融法人企業の約3割)、と試算したもの。この「剰余金」は実質動員不可。
〔#3〕 株式・債券を一定量用いた場合、市場が暴落するため、やはり実質動員不可。

 このように見ると、世の中で真実のごとく報じられる、「個人金融資産1,500兆円」と言うものの実態として、うち19%程度の270兆円ほどしかないことが推察されます。

 また、〔あ〕デフレで貯蓄を取り崩して生活している世帯に、これ以上の消費を期待することは無理です。それに、〔い〕景気回復には、個人(世帯)のマネーを使わずとも、財政出動のかたちで政府が支出することで十分可能ですし、デフレによる不況下はそうすることが常道です。

 景気回復すれば、税収が増えますので、政府は財政出動による赤字を低減できます。問題は赤字額(借金の残高)そのものではなく、実質債務(債務残高のGDP比)であり、その適正水準に管理しておきさえすればよいのです。

 所得が減って追加的な消費のできない家計や、借金返済でバランスシート改善を強いられている企業、そして貸出先が見つけられない銀行と言う3部門の経済主体間で必要なマネーが創られ回らない場合、政府が代わりに消費(支出)することの意味が経済システムにはあります。ここが政府の役割として、他経済主体との決定的な違いのひとつです。政府の支出(=赤字)は、経済全体を活性化する際、特に現下のデフレによる不況下では、必要なことなのです。ここが普通、なかなか理解されないのです。

 以上、「1,500兆円」を元手に景気回復する見方は、〔あ〕と〔い〕の二重の意味で間違っているのです。

◆中古自動車の買取り策と定額給付金政策との共通点とその違い

 苦境にある自動車産業の刺激策として、国は余計な条件を付けないで、「中古車をすべて50万円で買い取る」べきであり、また≪50万円で200万人なら、総額でも1兆円である。定額給付金総額の半分で、日本は盆と正月が一緒に来たような好景気を迎える≫とあります。

 同じ1兆円に対して、前者では「中古車を国が買い取る」(恐らく助成金を出す?)と、後者の「定額給付金総額の半分」を比較しましょう。ともに政府支出となりますので、それが有効に支出され、消費につながれば(総需要を喚起できれば)、景気には多少のプラスになるはずです。
 確かに前者のように、用途が車の購入というように消費に限定されていれば、後者(貯蓄に回る可能性も高い)よりもましでしょう。しかし、所詮その程度でしょう。

 つまり、今の日本経済を浮揚させるには、一定の規模(例えば、50兆円相当)が不可欠です。従って、O氏の案では、残念ながら「盆と正月」を迎えることは無理でしょう。文中ではドイツやフランスなどの例が挙げられていますが、深刻なデフレが続く日本とはマクロ環境が異なります。同じ施策を実施しても、同様の効果があるだろうと考えることは誤まりだと思います。


 以上のように考えると、≪先進国では国民の皆に蓄えがあるので、国が使わなくても心理的に刺激さえすれば、わずかのシードマネー(種まき)で大きな経済効果が得られる。財政などのマクロ政策で経済刺激策をやるのは間違いだ≫と主張するのは、間違いだということが分かるはずです。

 この≪
定額給付金のバラまき方は最悪である。一度銀行口座に入ってしまえば、そのお金をそこから動かすのは容易でないからだ。≫という主張の前半は間違っていますが、後半は正しいと言えましょう。繰り返しですが、前半部分のポイントとして、「定額給付金」による方法の筋はよいのですが、規模が不足しているだけです。

◆「不況に飽きる」ことで不況を脱する方法?

 ≪「失われた10年」といわれた1990年代もそうで、皆が「不況で大変だ」と騒ぎ、廉価なもつ鍋と焼酎がブームになった。しかし、3年余り騒いだあとに国民自身が不況に飽きて、いつの間にか焼酎は高級ブランド化してしまった。≫とありますが、「不況」に飽きて、飽きたことで遠ざけることができるのでしたら、それに越したことはありませんね。(^-^)

 どの国も深刻な不況が続くようであれば、国民が一丸となって「飽きて」しまえば、経済対策など不用なのでしょうから、経済金融大臣などは、国民が早く「飽きる」ような「心理」を研究する経済学でも、しっかりと勉強するのがよいと言うべきでしょう。

 ≪つまりは当時、日本は不況ではなかったのである。なぜなら不況時には本来、国民の金融資産は大きく目減りするものだ。しかし逆に日本では、700兆円程度だった金融資産が気が付けば、1,500兆円にまで膨らんでしまった。今回の危機にしても同じだろう。じつは本音レベルでは、国民はいまが不況とは誰も思っていない。選挙を目前に控えた政治家たちが大騒ぎしているだけである。だからこそ、消費者心理をうまく刺激する効果的な政策を打つだけで、日本経済は一気に反転するのだ。

 当時も今も「不況」だと考えない人々がいたとすれば、それは国民の感覚からは大きくずれてはいないでしょうか・・・

 「選挙を目前に控えた政治家たち」が行っていると想像できることは、前述のPKO(株価維持対策)などであって、「不況でないことを不況だ」と騒いでいるとはとても思えません。もしかすると、私の感覚が狂っているのでしょうか。


◆「上昇気流に乗る日本経済」が結論になるのか?

 さきほど(2009年7月29日午後)のヤフーニュースでは、「景気判断 5年ぶり上方修正」と「6月小売販売 10か月連続で減」なる見出しが同時に出ていました。

 このような経済を占う、特に前者に関する指標そのものについてのデータ取得の方法に問題があるのでしょう。景気判断は心理的な側面もあって、マスコミやインターネットで間違ったメッセージが大量に出続けることでも左右されます。

 いずれにしても相反する内容です。ここでも、今の一貫性のない一コマを目にするようです。デフレによる不況下にあって「上昇気流に乗る日本経済」など、記事で示されたような真っ当な経済原則からはずれた方法で、果たして実現するものなのでしょうか・・・

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2009年7月23日 (木)

【経済教室への感想】邦銀再生と低収益体質の関係に垣間見えるからくり

■タイトル :邦銀再生の視点(下) 低収益体質の脱却急げ(貸出金利引き上げも:信用保証、再検討が必要)
■媒体と掲載日 :日本経済新聞『経済教室』2009年6月9日
■論考の書き手 :大手外資系コンサルティング会社Hディレクター
 (備考 :米名門P大学WビジネススクールMBA、専門はファイナンス)
■「ポイント」 :
 * 邦銀の利ざや、欧米銀行から大きく見劣り
 * 取引先の株式保有も低収益体質の一因
 * 適切な金利設定、資金の借り手も理解必要
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■「ポイント」の有効性 :【×】(私の感想)


 当論考は、大手企業や日本政府を主たるクライアントとし、このようなクライアントもしくは関係業界(金融など)に対し、少なくともちょっと前までは絶大な影響力を及ぼしていた、大手外資系コンサルティング会社幹部による、企業サイド(ミクロ経済面)からの発想で見た場合の、邦銀再生に向けた金融業界(ひいては日本経済というマクロ経済面)への提言に関するものです。

 私の感想をまず一言示すとすれば、MBAホルダーや経営コンサルタントが陥る(あるいは、意図的に仕掛ける)、特定組織への利益誘導に向けた、自社の経営戦略上の(≒ご都合主義的な?)メッセージと言えましょう。

 米国のビジネススクールで学んだ程度の知識や、経営コンサルティングなどの仕事のみにずっと従事しているだけではどうしても、その知識や発想・考え方に偏りが出て来ます。私もそのことに気付かず、ずっとそうでしたので。^^;

 Hディレクターの仕事と私の仕事は同業でもあり、恐らく日本の大型M&A(私の場合は情報通信産業やハイテク産業が主)に関するビジネスでは、これまで競合になった場面もあったはずです。最近の情報通信産業での案件では、クライアントは外資よりも日本企業へ(あるいは両方へ)相談することが増えているように感じます。

 前回同様、Hディレクター個人を批判するものではありません。ある意味同業者だから分かる、その考え・発想の傾向・特質についての、私の感想を示したいだけです。

◆欧米銀行から大きく見劣りする「邦銀の利ざや」をマクロ面で見ると・・・

 当論考で示されている通り、邦銀の収益源には、次のようなものがあります。

① :スプレッド(貸し出し金利と関係コストとの差)。
   関係コストとは、預金や市場から資金を調達する際の金利やその他コストのこと。
② :手数料(金融商品・サービスの提供による対価)。
③ :金融資産の保有・売買から得られるリターン

 まず①「スプレッド」について。

 Hディレクターは、≪金融機関の法人貸し出しの収益性」というグラフを示しつつ、「邦銀のスプレッドは欧米に比べ顕著に低い状態が続き、2007年度では欧州の銀行の75%(例:2%に対し1.5%程度)、北米の銀行の半分(例:3%に対し1.5%程度)に過ぎない≫と記す。
 そして、続けて≪その主因は、日本の法人顧客向け融資の金利が、欧米に比べ低い水準(安い価格)にある点にある。(略)「銀行間の競争が厳しく、金利が上げられない」という声がよく聞かれる≫と。

 ミクロ面では、このような実態があることは確かでしょう。
 ただスプレッドを決める「関係コスト」については、邦銀も欧米諸国の銀行もそう変わらないと推定されますので(かつては確かに邦銀従業員の平均人件費等は米銀の役員並みに高かった)、問題は引き算される側の「貸し出し金利」に集約できましょう。つまり、日本では長期金利が低く、欧米ではそれが低いという、ここ最近のマクロ構造そのものに関することです。

 となると抜本的な問題は、「グローバル・インバランス」が背景にあります。経営コンサルタントの通常の仕事では、あまり意識しない領域でしょう。

◆背景には「グローバル・インバランス」がある

 「グローバル・インバランス」とは、文字通りには、世界的な経常収支の不均衡のことです。しかし、この説明では分からないでしょう。2つの側面から、補足します。

〔A〕政治的な思惑・駆け引き
 米国という世界最大の債務国にとって、これまでずっと毎年のように約100兆円(@1ドル=100円換算)ほどマネーが足りず(最近では200兆円規模)、放置しておけば財政破綻(ドル暴落など)につながりかねない状況にある一方、債権国の国々(中国と日本のほか、アラブなどのGCC諸国)からの証券投資(金融資産投資)により、米国へマネーが循環しているメカニズムがあります。
 このような世界の覇権国を下支えする、政治的な思惑・駆け引きが存在します。

〔B〕投機マネーによる撹乱
 また、米ウォール街や英シティあるいはカリブ金融センターなどに出入りする膨大なドル資金の流れがあり、これが投機マネーとして、各国の国内経済に多大な影響を及ぼしています。 

 以上のような、特に「グローバル・インバランス」の背景にあって、日本経済に必要なはずのマネーが米国へ流出(循環)している実態があります。
 日本が低金利であり(にしており)、逆に米国が高金利である(にしている)ゆえ、この循環が成り立ちます。両国の為替担当者の思惑が感じられるところです。

【補足】より正確にマネーの行き来のドライバーを考えると、必ずしも「(名目)金利の高低」ではなく、実際は「実質金利」を見るべきでしょう。
 つまり、「物価上昇率の高低」を考慮することが求められます。言い換えると、両国の富を生みだす企業の「国際競争力」は、この「物価上昇率の高低」に規定され、そこで通貨の強さ(為替レート)も決まります。
 このように競争力の高い国へマネーが流れる、という見方ができるはずです。

◆為替のマジックと資産バブルの後遺症

 もちろん、米国の証券投資のかたちで、米国の金融資産をもつことになります。そして、その多くはTB(財務省証券=米国債)であり、たいがい10年か30年物の米国債なのですが、その期間中には利子は付きません(リターンを生みません)。

 従って、注意すべきは、ドル高・円安時期に購入したドル建て米国債(例:利子率7%)に、例えば、10年後に元金と合わせて約2倍のリターンとなったと思いきや、なぜか2倍ほど(例:1ドル=200円が100円へ)円高に触れることで、手にするマネーはほぼ元本そのもの、ということも少なくないようです。これが為替のマジックです。^^;

 「邦銀のスプレッドが欧米に比べ顕著に低い」のは、このようなグローバル・インバランスという、債務国と債権国との間の掟・取り決めによるものがマクロ面での背景として透けて見えているのです。

 また、日銀の超流動性過剰策を通じ生成された、1980年代後半の土地・株式の資産バブルが、1990年以降一気に大蔵省が土地関連融資の抑制を行うことで、急速に破裂させてしまったがゆえに、膨大な資産バブルの後遺症として、金融機関に多額の不良債権の処理を強いることになりました。

 この後遺症は向こう15年ほど続くことで、邦銀の企業への融資が滞りました。一方で企業もバランスシートを毀損していましたので、負債を減らすことが迫られました。
 また、家計(一般の消費者)もデフレゆえの不況により所得が増えないため、貯蓄を食い潰してしか消費(生活)ができません。

◆異常な資金循環

 つまり、邦銀の最大の借り手である法人企業において、資金を借りるニーズが大きく減少し続けました。この異常な資金循環により、何もしなければGDPはマイナス成長に落ち込みます。辛うじてそうならずゼロ成長に留まった最大の要因は、政府がマネーを使っていた(政府支出=財政出動があった)からでした。

 本来であれば、バブル崩壊直後の1991年頃までのように、家計の豊富な貯蓄が邦銀の負債を形成し、その負債を基に邦銀が企業(非金融法人企業)に貸し出すことで、同企業は資金を調達できます。
 その資金で設備投資ができ、この投資により商品・サービスが市場に提供され、それが購入されて収益を生みます。GDPも増加します。これが正常な資金循環ループでした。

 ところが前述の通り、ここ15年以上の日本経済の資金循環は異常なトレンドとなっています。今も続いています。これでは経済成長などできるはずがありません。

 このように正確には、「銀行間の競争が厳しく、金利が上げられない」と言うよりも、両国の為替担当者の絶妙な為替管理、言い換えると“呼吸・息づかい”や、日本経済が陥って久しい異常な資金循環ループが背景にあるのです。このからくりは、エコノミストの間でさえ十分には知られていないようです。ましてや、経営コンサルタントにとっては論外でしょう。

◆市場重視の(?)為替介入ゼロの5年間

 当論考では≪日本のスプレッドの薄さは、資金の貸し手にとって、「日本で貸し出しを行う方が収益性が低い」ことを意味する。逆に、借り手からみると、「日本の方が有利に調達できる」ことになる≫とあります。

 円キャリートレードなどは、この後半の箇所に起因する代物です。「日本のスプレッドの薄さ」(≒低金利で調達できる円通貨)が、海外の投資家や投機屋に利用された訳です。

 つまり、結果的にはからずも(?)、日本の為替政策が収益獲得の機会を彼ら外資に提供していたのです。

 ちなみに、先日(2009年7月14日)退任したS財務官(伊ローマのG7で、泥酔したN前財務大臣が記者会見した際の左隣りに着席)や前任のW財務官が勤めた約5年間での、為替介入(財務官の権限)はゼロだったそうです。

 為替相場を放置しておく(≒市場原理に任せる)ことが、日本の国益にとって果たしていかがなものだったのでしょうか・・・

◆外資系アナリスト・コンサルタントに見られる思考パターン

 次に③「金融資産の保有・売買から得られるリターン」について。

 ≪筆者が注目するのは、邦銀の株式の動向である。(略)証券取引所に上場する企業の株式のうち、邦銀と地方銀行が保有するシェアは、時価総額ベースで、1990年の15.7%から06年には4.6%に低下した。ところが、07年末には4.7%へと上昇に転じている。これは、会社法の改正やファンドの台頭に伴い、敵対的買収を憂慮した銀行に自社株式の保有を依頼する動きが目立っているためと思われる。≫

 こうありますが、その保有時価総額が「07年末には4.7%へと上昇に転じている」と言っても、この時期は世界的なバブル時期であり(当然、ピーク水準に株価はあった)、デフレが続く日本でさえも、輸出による変則的な好況要因だったとは言え、その例外ではありませんでした。従って、時価総額が高いのは当たり前。

 つまり、邦銀に自社株式保有を依頼した上場企業が、必ずしも敵対的買収を憂慮したことが要因だったかは分からないでしょう。

 ≪日経平均株価が低迷するなか、邦銀の株式保有は収益の圧迫要因になっている。(略)景気が悪い時期は株価が下落した会社をM&Aできる好機であるが、邦銀は収益の重しがあるため、M&Aによる思い切った収益向上策をとる機会を逸している。≫

 これは現在(2009年6月)の話しです。
 どうやら邦銀に積極的なM&Aを勧めているようです。確かに邦銀の収益源としての、上記①スプレッドで見込めないのであれば、残りは②手数料や③金融資産の保有・売買から得られるリターンとなります。
 M&A市場が活発になれば、邦銀も外資コンサルティング会社も収益機会を見込めますね。

 ≪日本市場では信用市場が発達しておらず、貸出債権は転売しにくい。その結果、邦銀のバランスシートが水ぶくれし、これが企業の資金調達にマイナスに働く側面も見逃せない。欧米では金融機関の貸出債権の転売が活発である。(略)今回の金融危機では、市場が機能不全を起こすことがある点が広く理解され、間接金融の重要性が再認識されたともいえる。≫

 このような書き方は、新古典派経済学に影響された(グローバリズム信奉者)の、外資系のアナリストや経営コンサルタントに、よく見られます。

 貸出債権などの金融商品の中には、リスクの高い債権もあるでしょうから、そのリスク込みの債権を転売し、それがまた転売されるなどのリスク拡大の連鎖が、サブプライムローン問題に端を発した「リーマン・ショック」以降の「今回の金融危機」につながったのではないかと・・・

 当論考の主張と今の金融危機とは、同じようには比べられないでしょうが、仮に邦銀のバランスシートが膨らむことが多少あっても、健全な日本の金融市場を維持するためには、欧米のように貸出債権の転売が活発であることが、果たしてよいことなのかどうか・・・

 また、今回の金融危機の原因を「市場の機能不全」に帰するのは考え物です。
 「市場」のような顔のない漠然としたものに、原因をなすりつけても真の解決には至りません。真因は別のところの顔の見えるもの(者?)だった可能性はないのでしょうか。
 本当の金融のプロであれば、私の言っていることがきっと分かるのではないかと思います。

◆国による信用保証制度がなぜ問題なのか?

 ≪この際に問題となるのは、国による信用保証制度のあり方である。これは、民間金融機関による中小企業向けの貸し付けに対し各地にある信用保証協会が保証を付けて、中小企業の資金調達を円滑にする仕組みである。(略)この制度が、実は一方で貸出金利の構造をいびつにする側面を持っている。(略)期待損失と資金調達コストを下回る金利で貸し出しが行われていることを裏付けるものだ。その差額は保険で補てんされることになる。≫

 とありますが、国による信用保証制度が果たして問題なのでしょうか。

 貸出金利の構造については、前述の通り、世界経済における「グローバル・インバランス」や国内経済での「異常な資金循環」が真因なのですから、この制度が同構造をいびつにしていると考えるのは、的をはずしているか、恣意的な自社経営戦略上の打ち手に過ぎません。
 恐らく両方でしょうが・・・

 その差額(=期待損失-資金調達コスト)を下回る金利での貸し出しリターンを同保険で保証し、中小企業を支援することは、真っ当なことでしょう。

 日本経済全体として、金融機関の数が多いことは、システミック・リスクを軽減することでも重要かつ健全なことです。

 1998年の外為法大改正、同年末の金融再生委員会設立(以降に始まる大蔵省解体)などに見られる「金融ビッグバン」により、邦銀の数は大幅に減少しました。金融ビッグバンなど、わが国とは事情が大きく異なる英国の物まねに過ぎなかったのです。

 結果、例えば、GDP比で当時2倍ちょっとあった米国の金融機関数は、日本のそれと比べ約5倍もあったにも拘わらず(ドイツでも類似の状況)、日本の金融システムにとっては、むしろ「いびつな構造」をつくってしまったのです。こちらの方がよほど大きな問題なのです。

 また、中小企業を救済・支援することは、雇用面などの社会的な意味があります。また、日本の労働者の圧倒的多数が働き口が中小企業なのですから、圧倒的な消費者(国民)の所得(購買力)が下げれば、大企業の収益をも引き下げるのです。これがデフレ経済の特徴です。
 つまり、デフレによる不況下にあって、中小企業を救済・支援しないことは、却って日本経済全体を悪化させることになるのです。
 新古典派・構造改革派的な発想をすると、このような事態に陥るのです。


◆信用保証制度の見直しと持ち株保有の依頼への拒否という結論では・・・

 最終パラグラフには、≪(略)信用保証制度の見直しを求め、既存の制度が信用市場に与える影響を検討すべきである。(略)持ち株保有の依頼に対し毅然とした態度をとることも必要である。≫とあります。

 このあたりが、当論考の結論なのでしょう。

 しかし、この2点(信用保証制度の見直し、持ち株保有の依頼への拒否)により、いったい誰が得をするのでしょうか。日本経済や日本国の国益にとって、こうすることがどのようなメリットをもたらすのでしょうか・・・

 また、邦銀の収益体質に関しても、以上のマクロ経済面での課題を解決することなしには、つまり当論考で示された方法では、決して抜本的な改善には向かわないのではないでしょうか。

 このコラムの読者には、これ以上の説明は要しないと思います。^^;
 

PS:
 何だか前回に続き、冗長な文章になってしまいました。書き記しておきたいことがふっと浮かぶものですから、つい脱線してしまいました。言い訳です。^^;
 
 

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2009年7月22日 (水)

【経済教室への感想】情報化投資の成否が中期的な経済成長を決めるのか?

■タイトル :中期的な日本の経済成長(情報化投資の成否が左右)
■媒体と掲載日 :日本経済新聞『経済教室』2009年7月20日
■論考の書き手 :国立大学経済学部のS教授(日本○○○○センター主任研究員)
 (備考 :情報経済学を専門とする経済学博士)
■「ポイント」 :
 * 中期的な経済成長、悲観・楽観とも禁物
 * 2010年代に新たな情報化の投資機会多く
 * あらゆる分野でのIT利活用へ環境整備
=====================
■「ポイント」の有効性 :【×~△】(私の感想)


 この論考の特徴は、典型的なサプライサイド派の主張となっていることでしょう。

 サプライサイド派とは、広く古典派・新古典派(ニュークラシカル派)に属する、現実の経済や社会の問題解決と言うには、かなり浮いた、最初から決まっているような、観念的なあるべき姿が陽に陰に見え隠れしている経済学の考え方と言うべきものでしょう。

 S教授とは、国のある研究会などで、よくご一緒しますし、そのお人柄など存じ上げていますので、個人的な攻撃をしようとは、全く考えていません。
 むしろ、私もかつて同様な発想を持っていましたので、そのささやかな気づきを感想として示しておきたと思うだけです。

 この種の発想・考え方が、どうやら実は経済成長には、殆どつながらないだろう、ということが自分なりに段々分かって来たからです。

◆クライン(Lawrence Klein)博士の主張を巡る誤解

 霞が関の官庁エコノミストは、特に安倍政権以降、“上げ潮”派という呼び名の人々は、生産性向上を通じ、GDPを増やすこと(経済成長)を重視します。

 当時のY財務大臣らの主張する増税派(消費税値上げ派)とは、一線を画したアプローチを強調します。ただ経済成長という効果面では、同じ穴のムジナなのかな、と感じていますが・・・

 ちなみに、“上げ潮”派とは、Lawrence Klein博士(ペンシルベニア大学教授)を中心に多数の経済学者で著した著書"The Rising Tide"に起因したネーミングだろうと言われています。
 同著書は、1990年代初頭の低迷する、特段深刻なデフレ下にあった訳ではない、米国経済を活性化させるための方策をまとめた論文集のようです。

 このKlein博士は、新古典派総合(ネオクラシカル)派に属すると言われますが、この派は、紛らわしいのですが、新古典派(ニュークラシカル)とは全く異なるグループであり、博士はケインジアンと言ってよいでしょう。つまり、デフレ下においては、生産性の向上などよりも、財政出動による有効需要の効果を重視します。

 実際2004年10月、あるシンポジウムが東京都の九段で行われ、そこに招かれた教授は≪1~2%の低い成長を目指すのならそれでも良いが、4~5%といった比較的高い経済成長率の達成には、日本は財政出動(教育関連支出含む)を考えるべき≫と語ったそうです。

 一方、自民党上げ潮派(当時のN幹事長ら)やこのS教授、あるいはKlein博士の元で勉強した、また日本経団連の21世紀政策研究所のプロジェクトの確か実質リーダーであったK氏(ペンシルベニア大博士。専門は計量経済学)らが、同教授にアドバイスを受けつつ、あるレポートをまとめました。

 そのレポートの概要は、K氏は2008年12月5日付の『経済教室』の「ニューエコノミー下の実体経済 3~4%の成長を目指せ」と題する論考で、示されました。
 ここで、Klein博士は≪日本の潜在成長率を1.5%程度と見込むのは低すぎ、ICT(情報通信技術)の積極活用を図れば3~4%の成長が可能≫とアドバイスしたようです。

 Klein博士は恐らく、財政出動を進める中で、ICTの積極的活用をご提言されたのではないかと感じます。
 同博士の主張は矛盾していません。財政出動(マネーの新規投入)で総所得(購買力)を増やせば、総需要が喚起されますので、企業の収益が増大します。そうなれば、ICT企業も設備投資余力が出てくるため、ICTの積極的活用を促すことの意味が出てきます。

 どうもICT産業やICT行政に従事する皆さんは、ICTに関連する部分のみに着目して物事を捉えようとする(我田引水の)傾向がありますので、そのメッセージの受け手では、メッセージの内容を都度整理しておくことが求められます。つまり、主従関係や優先度の類です。この場合には、あくまでICTは「従」である、ということなのです。ミクロはマクロに抗し難い・・・

◆IT導入による生産性向上はそれほど効果があるのか?

 当論考では、その生産性について、「製造業の設備過剰が問題となる一方、医療サービス業の一部は供給不足が深刻で、IT導入による生産性向上が求められている≫と示されています。

 生産性向上は、現下のデフレ経済では、それを強調するのは考えものです。確かに、特に地方の医療現場などでは、十分な医療機器が導入されておらず、また医師の不足などもあり、供給不足の状態にあると言えましょう。しかしながら、本文にも製造業では設備過剰とあるとおり、経済全体(マクロ経済)を見ることが重要です。

 経済全体では、デフレ状態にあるということは、総需要が総供給を下回っていることを意味します。つまり、労働と資本設備の両投入量が非稼動な状態にあるのです。しかも、その非稼動なボリュームは膨大です。どこかで記したいと思いますが、資産すると実際のGDPの30%近いギャップ(=GDPギャップまたはデフレギャップ)が存在すると思われます。政府内閣府がこれまで公表してきた「±4%前後」とは大きく異なります。最近でも、8~10%といわれるデフレギャップですが、それよりもはるか上に潜在GDPの天井があると考えられます。

◆イノベーションとしての新技術が登場しても却ってデフレが固定化することも・・・

 当論考では、≪今回の不況で旧来型の輸出主導による成長の限界が露呈したが、企業投資、特にイノベーションの中核にある新技術への投資が低調では構造変化が進むはずもない。≫と続きます。

 前半部分は正しいと思いますが、後半の分析はかなり違うかなと思います。

 前半部分の解説をすると長くなりますので、別の機会に譲りポイントのみ示します。
 日本経済の膨大な貯蓄が国内経済で使われずに、海外にその投資先を求めるかたちでマネーが流出(正確には、米国等の金融資産をドルで購入してそれを所有)して来ましたので、ドル高・円安が生じ、輸出企業には追い風となりました。
 つまり、輸出主導による経済成長モデルなどは、そもそも貿易黒字大国で、一方の赤字国に雇用面などでネガティブな影響をも及ぼしているわが国にとっては、デフレ現下の、そして今後のあるべき(To-Be)モデルとは言えません。内需主導が求められます。

 後半の「企業投資」や「イノベーションと新技術」に関するものも、発想がサプライサイドなのです。繰り返しですが、今の日本経済は総需要が不足しているのですから、これ以上の総供給を増大させる方策は、その新技術により低価格化が進むほど、一層デフレ経済を固定化させ、ますますデフレ脱却から遠のいてしまうのです。

 論考では、≪2010年代には次世代携帯電話事業、地上デジタル放送への完全移行、空帯域を利用した携帯電話端末向けマルチメディア放送など新たな投資機会が数多く待ち受けている≫とあります。

 これも説明が必要でしょう。これら「新技術」や新サービスは、確かに「イノベーション」プロセスを通じ生み出されて来るなど、日本が世界に誇れる素晴らしいものばかりと言えましょう。

 しかし、これら新技術・新サービスが登場しても、思ったほどの収益機会とはならないでしょう。
 2010年代となっても、このままデフレが続くことが濃厚でしょうから、そうなれば依然、総需要ないし購買力が乏しい状況下、消費者はサービスを購入しようにも購入できないことが容易に推察されます。

 抜本的な解決方法としては、新たなマネー投入(通貨増発)による総需要の喚起しかないでしょう。
 そのことで現下、不稼動・非稼動の状態にある資本設備や労働力が甦ります。こうなって初めて、これら新技術・新サービスは日の目を見ることになるのです。

 もちろん、新サービスによる市場はそれなりの大きさに拡大することは考えられます。ただ、GDP(経済全体のパイ)が増大していなければ、他の産業セクターから購買力が移動(マイグレーション)するだけとなりますので、やがて関係企業の売上高は減って行くか、頭打ちになること必至です。このことを15年も、日本経済は続けているのです。

 S教授と国のある政策系研究所のI部長との共同で、≪不況克服の過程で経済構造の転換につながる企業投資が活発になった場合、中期の経済成長率がどの程度加速しうるかを・・・から成るマクロ計量モデルを用いて試算≫した内容が、この論考に示されています。

 例えば、≪企業投資全体に占める情報化投資の比率が2%ポイント上昇するなどの要因が加われば、第一に、基本予測では1%台半ばとなる成長率は、全要素生産性の向上などで2%台半ばに高まる。≫とあります。

 「マクロ計量モデル」の内情を知る身としましては、どれほどの精緻さと仮定・仮設が置かれているか、結果そのものへの解釈への恣意性が入っている余地はどれほどかなど、この計量モデルの限界について、本音が聞きたいとことです。(^-^)

 それはさておき、ソロー(ノーベル経済学賞受賞者)が“残差”として表現している、「全要素生産性」の測定は難しいものです。
 つまり、全要素生産性の経済成長への寄与率がどれほど正確に特定できるか難しい訳ですので、その全要素生産性の向上をもって、経済成長がどれほど増大するかと言う、よくありがちな見方については、あまり意味がないのではないでしょうか。

◆実質債務への言及には同感ですが・・・

 同論考には、さらに≪第二に・・・失業率は0.2%ポイント低下、第三に生産性の向上を通じ賃金上昇率は0.8%ポイント高まる、・・・第四に雇用情勢の改善で消費も刺激されるため、内需拡大効果で輸出依存度が低下、第五に財政赤字のGDP比は基本予測に比べ2.4%ポイント抑制される。≫とあります。

 このうち「失業率」や「賃金上昇率」なる数量的な改善度合いについて、同「マクロ計量モデル」の信憑性もさることながら、もしかすると「企業投資」による効果としては、そんなものかも知れません。
 ただ核心は、「中期の経済成長」には、「企業投資」のみではさほど大きな効果はなく、前述の通り、むしろデフレを固定化させる要因となることで、逆効果となってしまうことすらある可能性があります。

 また「内需拡大効果で輸出依存度が低下」について、この論考では、総需要増大策が何も見当たりませんので、現実性は乏しいのではないでしょうか。

 ただ「財政赤字のGDP比」を取り上げていること、そしてその重要性が示されていることには同感です。財政赤字そのものの大きさ(=名目債務)は、さほど意味がない一方、財政赤字のGDP比(=実質債務)は重要なことです。

 つまり、国の債務が現在800兆円ほどあって、それが膨大で国家破綻だと言うエコノミストが多いのですが、本当にわが国が破綻状態にある国であれば、国債の金利はとうの昔に上昇しているはずです。
 にもかかわらず、いまだ世界一というほど低金利で推移している現状からは、政府と日銀の国債の保有率が他の主要国に比べ高いとは言え、極めて日本国債は市場から信用されているという状況下にあることを物語っているのです。

 一方、本来の景気対策、つまり、総需要を喚起するための新たなマネー投入(通貨増発)を講じることになれば、第一~第五に示されたような数量的な改善度合いなど比ではないでしょう。もちろん、実質債務をもっと大幅に軽減できます。従って、増税派の財政均衡(2011年のプライマリー・バランスの実現)などは、主客転倒のアプローチです。デフレ下では財政出動による通貨増発は、世界の常識です。デフレ下で財政均衡をはかろうとすると、却って実質債務を悪化します。失われた15年間、実際そのようになっています。

 エコノミクスの基本に立ち返れば、言い換えると新技術やら企業投資などのサプライサイド要因のみに、その打ち手をフォーカスせず、(また増税派のような財政均衡実現至上主義に走らず)、本来の対策を実施できれば、劇的な改善がはかれるはずなのです。

◆企業投資が強調されても中期経済成長率は期待できない

 結論的なメッセージとしてこの論考では、次のことが示されています。

 ≪企業投資に主導された成長加速の時期が訪れないと、情報化の波に乗った構造変化が進まず、1%台半ばの中期成長率達成さえ難しい。(略)企業の投資行動は、期待成長率と表裏一体でないと、一時的に盛り上がったとしても短期で終息してしまう。≫

 このような見方は、世界の経済対策などと比較すれば、周回遅れ、もしくは大きくポイントをはずしているのではないかと考えています。

 欧米や中国では、いま財政出動型の景気対策ないし経済浮揚策が採られています。このメッセージのようなサプライサイド派(ある種の新古典派、構造改革派)ではなく、ケインジアンそのものの政策です。

 米国も中国も、プラグマティズムの国ですので、一見美しく見える新古典派経済学の市場原理主義や構造改革などは二の次なのでしょう。
 米国は日本へは、構造改革を毎年要望しますが、自国では殆どやりません。2001年にWTOに加盟した中国も通貨(人民元)を不当に低いままに放置したまま、その構造を抜本的に変えようなどの改革には着手しません。これが世界の現実です。

 こうしたメッセージは、例えば米国の1990年代中頃からのインターネットが普及し出した当時の、そして「インフレ無き成長」とグリーンスパンらに形容された、シリコンバレー型産業が牽引した経済モデルであれば、あるいはKlein博士らが"The Rising Tide"と形容した経済パターンであれば、それもある程度理解できます。

 しかし、日本経済は深刻な総需要不足(≒通貨が回っておらず購買力が乏しい状況)なのですから、上記メッセージは的外れになっている感が否めません。企業投資が強調されても、そうできない次のような2つの事情があります。

① :一部の大企業や輸出型企業を除き、1990年代の土地・株式の資産バブルの崩壊度合いが余りにも大きく(GDPの2.7年分)、それゆえ長い後遺症(失われた15年)が続いていた関係で、毀損したバランスシート改善のために、手持ち資金は借金返済に回らざるを得ず、新たな設備投資ができないでいるのです。
 野村総研のリチャード・クー主席研究員も指摘していることです。

② :今の日本の実態として、期待収益率が見込めない投資案件ばかりの状況にあります。
 言い換えると、総需要がない(買手である消費者や購入企業の購買力がない)ため、新技術を用いて高機能・高品質かつ適当な価格帯の商品・サービスであっても、それを購入する余力(可処分所得)がないのです。

 マクロ経済とは、その国の経済が置かれた状況(インフレ気味かデフレかなど)や、あるいはいつの時代に主流として採られた方策なのかの選択性(とその能力)などを、総動員して取り組まれるべき対象だと考えます。

 今回は触れませんが、別の要因、例えば、一国の経済やグローバルな経済の動静を決定している、経済主体(消費者などではなく、多国籍企業の経営者や国際金融家ら)の思惑・利害までも勘案して初めて理解できる、総合的な研究対象または生活ための対象(≠単なる学問対象)が、マクロ経済なのだと考えています。

 以上、当論考につきましては、殆ど文章も推敲せず、またこのコラムの構造やストーリーなどにもおかまいなしで、思いつくままに書き記しました。辛抱強いお付き合い、有り難うございました。(^-^)

PS:
 よほど仕事が多忙を極めない限り、以降、当コラムは1週間に1度程度のアップを目標としたいと思います。どうぞ宜しくお願い致します。

 

 
 

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