これまでの3回分の続きです。今回はその4回目で、これで終わりです。
=====≪quote≫
>
この問題の根本は、国のGDPと乗数効果が及ぼす範囲(バウンダリー)をどのように
>
考えるのか?だと思っておりますが、認識としては正しいのでしょうか。
>
この辺りの問題の整理で悩みます・・・
⇒ 「バウンダリー」が、その「国」の内外の境界を指すのでしたら、重要な疑問だと思います。
GDPとは、国民総生産のことですので、日本なら日本だけの総生産額(付加価値の合計)です。他方、グローバル経済という開放経済にあっては、再びGNPで見るべきという人々も最近では出て来ています。
つまり、乗数効果が国外は漏出してしまうのではないかという視点です。
得られた所得がにより消費される波及経路で、消費が海外でなされる部分は、国内経済(GDP)には寄与しなからです。ただ、海外での消費、すなわち輸出
(国内での漏出、輸出国での需要収奪)、もしくは投資(海外の金融商品や不動産などを購入)することで、程度にもよりますが、円高傾向になり(国際競争力減)、結果、景気回復しないとする、マンデル=フレミング効果などをあげつろう人々もいます。
しかし、このマンデル=フレミング効果は、かなりの制約条件下にあって成立するかどうかと考えられる代物であり、円高そのものは、抜本的には経常収支問題(大幅な黒字の結果)です。
勉強会でもやりましたが、国債購入で民間資金減(Liquidity減)により相殺され(LM曲線左シフト)、結果、金利上昇が起こり、円高になるよう
なことは、少なくとも、日本の今のデフレ経済ではまず有り得ません。実際、いくら国債を発行しても、依然ノンリスク債権とみなされ、従って買手が国内に十分いますので、金利は一向に上昇しませ
ん。
他方、経常収支が過多である場合、特段の為替介入などを行わない限り、円高基調となります。
しかしそれでも、内需をしっかりコントロールしていけば、本来円高になる懸念は本来殆どありません。
別の基本的な視点を、念のため示します。
ケインズの乗数効果とは、所得の波及効果であり、所得は、「生産(国民総生産)=分配(国内所得)=支出(国内総支出)」の三面等価でみるGDPの構成要素です。GDP=総所得ともなります。
============================
(注)GDPの三面等価に関する基本的な事柄:
*
GDP = 生産額から原材料の投入額を引いた付加価値の総額。
*
生産(国民総生産) :
企業は「生産」活動により原材料を加工し、価値を付加した製品を供給。
他方、「生産」につき、生産要素(労働、資本、土地など)に対し、付加価値から対価(賃金、利子、地代など)を支払います。
*
分配(国内所得) :
付加価値から対価を差し引いた利潤が、企業の「所得」となります。
付加価値は、最終的には必ず誰かの「所得」となりますので、GDP(国民総生産)=「所得」の総額(総所得)となります。
*
支出(国内総支出) :
支出には、経済主体別に、大きく3種あります。
消費支出(家計が財を購入する)、投資支出(企業が機械設備として需要するなど)、政府支出(政府が公共事業やその他の公務のために購入する)です。
これら「支出」=国内総支出。
「生産」された財は、結局誰かによって購入されます。売れ残りは、在庫投資として投資の中に含まれますので。
従って、国内総支出=GDPとなります。
*
以上により、「生産(国民総生産)=分配(国内所得)=支出(国内総支出)」の三面等価となります。
============================
最初の経済主体が「生産」して得た「所得」を原資にし、それが「支出」(家計の消費支出、企業の投資支出、政府支出)につながっていく過程が、乗数効果ですね。
例えば、バイアメリカン条項により、米国政府が、何かの政府支出(環境関連などの公的な投資や、郵便サービスなどの公的なサービスの購入、政府による請負契約)が成された際、その資金を得た民間企業などに所得が生まれ、ハードウェア的なものや複雑かつ大規模なシステム(例:都市・農村部連携新型コミュニティ開発、石炭ガス化複合発電またはコンバインド発電システム〔燃料電池+マイクロ・ガスタービン〕、資源探索・開発・商品化一貫システム、宇宙開発など)であればあるほど、それが他の経済主体まで波及します。
他方、その企業や個人のみで生産が可能であり、それ以上他社に効果が及ばないソフトウェアなどのサービス性の高いものですと、そこで波及効果は終わります。「経済のソフト化」が進むと、このレオンチェフ効果は小さくなっていきます。日本経済で「波及効果」が小さくなったのではないかという議論は、ケインズ乗数のことではなく、このレオンチェフ乗数のことです。両者の区別を知らない人々は少なくありません。
授受されるその財・サービスによりますが、大型プラントや巨大なシステムなどでは波及効果が続きます。その続き方として、〔A〕関わる経済主体の連鎖が長い・複雑なものもあれば、〔B〕予算単年度を超え数年がかりで波及するものもあるでしょう。
マクロ的にみれば、米国の場合、消費性向が7割ほどありますので、乗数効果=1÷(1-
0.7)≒3.3近くあるはずですし、日本の場合は6割ほどですので2.5近くになります。
ただこの効果が出るには、モノによりますが2~3年ほどはかかるでしょう。毎年、同程度の有効需要支出が成されることで、この効果がもたらされます。
この通り、「乗数効果が及ぼす範囲」とは、財・サービスの性格により、〔A〕経済主体の面々は変わりますし、また〔B〕時間的な広がりも変わります。
ついつい長くなってしまいました。しかし、このあたりのことは重要なことだと思います。
=====≪unquote≫
最近のコメント