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2011年1月24日 (月)

【マクロ経済(3/4)】政府支出と内需喚起策と経済学者の奴隷

 続きです。

=====≪quote≫
> ②政府支出とバイアメリカン条項
>
> 今日のお話にあった、デフレ景気化の政府による財政支出の有効性に関連して、
> アメリカ政府が現在行っている政府支出における原料調達をアメリカのメーカーから
> 行うというバイアメリカン条項に関して質問があります。
>
> 政府支出における、原料の調達はレオンチェフの乗数効果で考えられると思います。
> この観点から見ると、バイアメリカン条項は国内需要創出の観点からより有効な
> 施策であると思います。ただ、一方でそのような条項は保護貿易主義の
> 引き金になりかねないとも思います。また、長期的な観点から見れば、非効
> 率な市場からの調達を行うことによる、長期的な競争力の低下などの問題を
> はらんでいるように感じます。
>
> 実際この場合、バイアメリカン条項による「レオンチェフの乗数効果による
> 景気刺激策」と「長期的な視点での市場の効率性」のトレードオフは
> どのように捉えるのでしょうか?
> 個人的には、長期的な市場の効率性を重視するべきかと思います。
> (私は、リバタリアンに共感しているので・・・(笑))

⇒ 政府支出が最初の契機(車輪の第1回転目)となって、それを受け取った経済主体(一般企業)が、ある事業やサービスを行う上で必須となる原料・部材を 調達し(その企業の原価を構成)、その残りが同企業の所得となりますが、他の経済主体からさらに原料・部材を調達するといったように、特に売上高に関し次 々と波及する効果をレオンチェフ効果(第1次波及効果)と言いますね。

 そして、当該企業が得た所得を、その企業や従業員(消費者)が消費する、その波及効果が、勉強したとおり、ケインズ乗数効果(第2次波及効果)となりますので、「バイアメリカン条項は国内需要創出の観点からより有効」と言えましょう。別途、後述します。

 ただ、「そのような条項は保護貿易主義の引き金になりかねない」の件、さほど心配する必要はないでしょう。バランスの問題だと思います。

 確かに、米国のみならず欧州諸国のような大需要国(新興国にとっての輸出市場)が一斉に、保護主義になれば、深刻な事態をもたらします。

 しかし、大供給国の中国や日本などは、“リーマン・ショック”後の米欧市場の需要減退期にあっては、すぐに米国から欧州へ、そして最近では欧州から新興国市場へと軸足を変えています。
 他方、先進国からは、それら新興国への資本投資や資本注入(資本収支である直接投資や証券投資に加え、経常収支に分類される、ODAなどの経常移転赤字)がなされ、新たな需要を創っています。

 米国は自国の実物経済への梃入れ(輸出増と内需拡大)について、オバマ政権になって熱心になりましたが、有り余る金融資本を上述の通り、新興国へ注ぐことで、自国企業や多国籍企業の後押しをしています。

 他方、米国でも国内の雇用問題は深刻ですので、政治家が自身の得点を稼ぐ意味でも、バイアメリカン条項による自国購買力増強、ひいては自国企業の元気を取り戻すことのポーズとなるシグナルを、例えば、ウォール街などへ送っていることは自然な流れでしょう。
 失業対策をしているというポーズを何としてもとっておかないと政権運営としては大変であり、それは他国からの保護貿易主義批判など意に介さないぐらい深刻だということだと思います。それでなくとも、経済政策の司令塔であるサマーズ(Lawrence Henry Summers)国家経済会議(NEC)委員長らの辞任が年末(2010年)に相次ぎ、オバマの政権求心力はかなりの程度失われつつあります。

 大きな内需を抱える国(特に米国や日本)においては、自国経済の内需をコントロールすることが重要です。米国は世界最大の内需大国(日本は2番)です。

 米国も、“リーマン・ショック”後にデフレに突入し、企業や金融機関は、負債デフレ(バランスシート不況)に陥っていますので、米国内に有望な投資案件が見出せず、借金返済に注力しつつあります。これではお金が回らず、リバタリアンが信奉するような市場メカニズムがうまく機能しませんので、経済が立ち行 かないことになります。

 金融恐慌後の構造的なデフレという現象(真に非効率な市場の典型的な現象)を、甘く見ることはできません。市場は既に不均衡な状態にありますので、均衡を前提とする、伝統的なLéon Walras流の『一般均衡理論』のアプローチでは解決できません。もちろんミルトン・フリードマン流のアプローチでも無理です。かえってデフレを固定化することになると思います。

 特に恐慌に近い構造的なデフレ経済には、ケインズ流のアプローチに加え、ケインズも十分扱っていなかった、金融資本主義がもつ本質的・内在的にもつ矛盾解決策を示している、ハイマン・ミンスキー流のアプローチが不可欠でしょう。
 市場メカニズムなる自浄作用は、大きく失われていますし、過度な金融経済による悪弊が、実物経済の市場メカニズムを狂わせています。この現代の金融経済のもつ不具合の遠因は、マネタリスト派の元祖であるフリードマンのアプローチにあったとも言えるでしょう。

 「長期的な市場の効率性を重視するべき」なる言は、フリードマンなどの主流派経済学が、ケインズと議論を戦わせた時のものと同じですね。
 それには既にケインズが「長期的にはみな死んでいる」という有名な言葉で返しています。もはや古典的なやり取りとなっています。経済学の使命は、短期の現実の経済的課題を解決することにあると思います。長期的には、現下の当事者は誰も存在していないのですから、そのような学説・アプローチは、真摯なものとは言えないでしょう。

 繰り返しですが、、不均衡市場に直面している、今の現実を解決できない経済学は無用のものでしょう。経済学は、実務的な社会科学でもあるべきだからです。

 ケインズは、『一般理論』(1936年)の最終章(第24章)の最後(本文の最終ページ)で、次のようなことを言及しています。
 ≪経済学者や政治哲学者の思想は、それらが正しい場合も誤った場合も通常考えられている以上に強力である。実際、世界を支配しているのはまずこれ以外のものではない。誰の知的影響力も受けていないと信じている実務家でさえ、誰かしら過去の経済学者の奴隷であるのが通例である。虚空の声を聞く権力の座の狂人も、数年前のある学者先生から自分に見合った狂気を描き出している。≫

 最後の文面は、1933年に政権をとったナチス・ヒトラーや、リバタリアンのハイエクらが毛嫌いしたスターリンらを指すのではないかと思います。

 私も昔は、ハイエクが批判の矛先を向けた共産主義のことを勉強して、ハイエクの主張には大いに鼓舞されたものです。残念なのは、その共産主義に振り下ろしたハイエクの鋭い大鉈が、勢い余ってケインズまで斬ってしまったことです。それでハイエク信奉者がケインズに興味を持たなかったことが、世界にある種の悲劇や誤解を生んだ温床になったものと思います。この辺りのことは、丹羽春喜氏(大阪学院大元教授)が著書の『謀略の思想「反ケインズ」主義』(2003年)で的確に描いていると思います。

 前半の文章は、現代の日本でも十分通用するものではないかと感じます。その日本人が、一般人ならともかく、政治家や官僚であれば、直接私たちの生活に関わる、多大な影響を及ぼします。

 また知的ワークに携わる専門家・プロフェッショナルであれば、それはまたそれで関係する人々を、正しくも誤った方向にも引っ張って行ってしまいかねない恐れがあります。その意味で、自戒の念を込めて言えば、まだまだいろいろな考え・思想を知り、それを勉強していくことに意味があろうかと思います。
=====≪unquote≫

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