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2010年11月28日 (日)

【中国経済】スタグフレーション状態をうまく脱することができるか?

 日本企業を含め世界は、「これからは中国だ、乗り遅れるな」と、“BRICs”という言葉を編み出した、ロンドンに拠点をもつGSI社やマスコミに乗せられたかのように、いまだその市場進出熱は冷めやらぬ状況ではないかと感じます。
 しかしながら、当の中国市場には、当面の投資先としては、黄色から赤信号に変わりつつある幾つかの警戒すべき兆候が見えています。

 その辺りの、ある方(輸出が主力のある大企業に勤務)とのやり取りの一部を、ごく簡単に中国経済を考察した際の備忘録として記しておきたいと思います。
 個人が特定できないよう、ご質問の表現には、多少手を入れています。

=====≪quote≫
(略)

> 市場にお金が余っている状況のようです。中国政府も、消費者の所得向上といった
> 名目で市場にお金を流し いる模様です。海外投資家からのお金の流入も増える
> 一方です。資金流入は株向けに30%で、物品向けに70%だそうです。物品をストック
> して、ある程度の高価になってから市場に放出するため、物品の価格はどんどん上
> がってきます。

⇒ 中国経済は典型的な「資本と人」を呼び込むタイプの経済発展パターンでした。このことは、1970年代末当時の政治トップであった鄧小平氏と米国大統領(および大資本家)により、スタートしました。

 そして、サブプライムローン金融危機前には、デリバティブ商品を含め膨大なマネーが中国経済に流入したものと思われます。それらの多くは、不動産や株式市場に流れ、一般の人々(中間層が主)には行き渡っていません。
 実体経済へお金が回らず(従って、少し前には49%ほどあった、中国GDPに占める消費の割合=消費性向は最近では37%に過ぎず)、バブルを形成しています。90年の日本と似ていますが、そのバブル形成の速度は中国の方が断然速いです。

 中国政府も、少し前の経済がデフレ気味(過剰設備状況)であったこともあり、約500兆円のGDPを持つ中国経済へ、2年間で中央の約54兆円(4兆元)に地方分の投資額(18兆元)を加え、計234兆円に近い資金を投入することを目論んでいます。この財源確保の方法は公表されていません。私は恐らく授業で取りあげた第2の方法(中央銀行による直接引受け)によるものではないかと想像しています。

 名目で約500兆円余の日本経済において、そのデフレギャップは膨大なため(試算では350兆円ほど)、年間120兆円の資金を市場に投入してもインフレにはなりません。しかし、中国経済の場合はさほどのデフレギャップはない(恐らくせいぜい20兆~30兆円ほど?)と考えられますので、お書きの通り、年120兆円もマネーを注入し、しかもその大半が実体経済に向かわないとすれば、原理原則、今後インフレ傾向を強めていく可能性が高いと思います。

 他方、下述の通り、膨大な失業者を抱えていますので、この高いインフレ傾向が重なった、“スタグフレーション”状態にあると言ってよいのではないかと思います。中国政府の経済に対する舵取りは、相当難しいと思います。

> 結果として、海外メーカーからの最近の値上げは異様です。狂っています。
>   1回目の値上げ申請に対する承諾をま出していないにもかかわらず、
>   2回目の値上げを要求しているような実態があるようです。全くこれでは対応
>   しきれない状況です。

⇒ 中国の沿海州では人件費も高騰し、また人民元安(通貨安)の政策を政府は堅持していますので、原油、部材、組み立て加工装置などの資本財や食料など、輸入物資の価格が割高になります。
 従って、これまで人件費も材料費も安かったことで魅力を感じていた海外メーカーは、値上げなしにはとても乗り切ることのできない、コスト面で厳しい状況に直面しているのでしょう。

> どうして中国でこのような状況が起きっているでしょうか。いつまで続くで
> しょうか。方向性は全く見えなくなってしまいました。教えていただけます
> でしょうか。

⇒ 幾つかの問題が重なっていると思います。

 例えば、上述の通り、外国からの資本(設備・技術+マネー)を大量に導入し経済成長を急ぐ、典型的な“東アジア型の経済成長”〔ポール・クルーグマン〕のパターンだったということ、そして不動産・株式といった非実体経済(金融経済)での急成長が重なり、実体経済と金融経済の均衡ある経済発展に齟齬が生じてきていること、さらにはその中で貧富の差(所得格差)が拡大したことで健全な中間層の発達が損なわれ、消費が不十分であることなどです。

 “リーマン・ショック”前の中国GDP成長を支出面でみると、民間投資(外資が主)を呼び込み、純輸出を増やし、消費もそこそこ(消費性向でピーク時49%。先進国では60%近く)であった外需志向のパターンでした。

 そして“リーマン・ショック”後、外資などの民間投資が衰え始め、最大の輸出先である米国の大需要が急減しました。そこで政府は、大規模な政府投資(公共投資)を主とする内需志向の経済発展を目論んでいますが、それには健全で分厚い中間層の存在が不可欠になります。しかし、消費性向が僅か37%しかないように、経済的な存在感としては全くの力不足です。均衡ある経済発展はこのままでは難しいでしょう。

 輸出先を米国から、最近ではその次に大きな市場であるEU(欧州)に向け始めましたが、欧州の経済状態は米国の半年遅れで悪化しています。サブプライムローン問題では、米国よりも深刻であり、結果、アイスランド、ギリシャ、アイルランド、ポルトガル、スペインといったような国々の需要は急減しています。

 中国全体のGDPは、地方政府の“成果”としてかさ上げされています。従って、実際のGDPの額や成長率は、報道されているものよりも小さいでしょう。それは中国でのエネルギー消費量の伸びなどと比較すれば、一目瞭然です。

 別の大きな問題は、地方での暴動の規模と数(少し前に年間10万件と公表されていましたが、その後非公表となっています)、そして、沿海州などの都市部と地方・農村部での格差の問題でしょう。
 地方もあわせ、約2億人いるとされる失業者に対して、GDP成長率が8%を切るとそれ以上の失業が増え、国家が転覆しかねない深刻な状況となり得ますので、このことを政府は決して看過できないでしょう。失業がこれ以上になった場合、政権崩壊の憂き目になる公算が高いからです。このようなことが、中国のエコノミストらからも指摘されています。

 中国経済のバブルは崩壊しており(既に実態はそうなっているはず)、そのため当面、政治・軍事主導の強権的なスタイルにより、何とか国を治めているという一昔のスタイルが復活するかも知れません。

 しかしながら、中国経済の潜在性はやはり大きなものだと思います。その後、政治的な安定を取り戻せば、もう少し緩やかなペース(しかし、大きな失業を出さない程度のGDP成長率を維持しつつの速度の、ある面経済の舵取りにおいて決して易しくないペース)の状況が実現できるかも知れません。
 ただその際の、資源確保(食料や天然資源)と、地球環境負荷といった問題は、依然大きなグローバル規模の問題として懸念されるところだと思います。

 中国の場合も、一部の支配者勢力への富(資産や資源)の集中を和らげ、国内での均衡ある再分配がなされることが、持続的発展には必須と思われます。

 その意味で、お金(マネー)の持つ自己増殖的で、富の集中をそのメカニズムに内在させる性質に絡む抜本的な問題の解決なしには、世界の将来は決して明るくないかも知れません。

 人口面、政治・経済面、軍事面でも、中国の存在は今後まずます大きくなると思われますので、これまでのグローバリズム(アングロサクソン型の新自由主義的な現代のコロニアリズム)が必然的にもたらす破壊的で貧富の差を拡大する流れを、ロシア・インドそして日本らと組み、うまくその流れを牽制していければ、世界の将来をそう悲観視する必要はないかも知れませんね。

 今日はここまでにしておきます。
=====≪unquote≫

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