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2010年3月 1日 (月)

【マクロ経済】アブダクション法を通じた経済学の理解

 先日(2010年2月24日)の夕刻に、当社(日本総合研究所)の会議室にて、社員を対象とした国内外の経済見通しに関する、「3部門将来構想会議」主催による勉強会がありました。

=====≪quote≫
第9回タウンミーティング開催
【3部門将来構想会議内】
(2010/2/24 東京:一番町ビル会議室)

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 3部門将来構想会議内「組織活性化タスクフォース」主催で2月24日18時30分より一番町101会議室で第9回タウンミーティングが開催されました。

 このタウンミーティングは日本総研の次世代を担う社員へ第一線で活躍する諸先輩方から、研究員としての心得や今までのキャリアの道のりを「伝授」することを目的とし、全社員を対象に開催されているものです。

 今回は○○○○調査部(シニア・エコノミスト)による「2010年の経済環境~進展する世界経済の構造変化~」。
 約40名の参加者が集まり、日本のみならず、新興国、アメリカ、ヨーロッパなどの2010年の行方についてレクチャーを受けました。
=====≪unquote≫

 「3部門将来構想会議」の「3部門」とは、総合研究部門(主に企業の経営戦略や国向けの政策提言に関するリサーチ・コンサルティング機能を担う部署)、創発戦略センター(主に環境・エネルギーや自治体・コミュニティや農業などに特化した事業開発やコンサルティング機能を担う部署)、および調査部(主にマクロ経済や金融問題の分析機能を担う部署)のことです。

 その3部門が、「次世代の国づくり」なるコンセプトを実現すべく、協力・連携して現在様々な取り組みを行っています。その一環としての勉強会です。

 当日の勉強会に参加するために、私の方から、レクチャー担当者へあらかじめ、下述の通り質問を投げました。

≪レクチャー前の質問≫もしくは私の関心事
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①当社のマクロ経済モデルの考え方、他社(野村、みずほなど)・他機関(内閣府、日銀)との違いは、どのようなものでしょうか?
 例えば、デフレギャップの大きさや乗数効果(乗数値)を、当社はどのように推定・算出しているのでしょうか?

財金分離という政策アプローチには、問題はないのでしょうか?
 今年行うべき財政政策(例:プライマリー・バランス化と緊縮財政積極財政)とは、あるいは金融政策(量的緩和もしくは物価制御の目標レベル)とはどのようなものでしょうか?
 なぜ政府やマスコミは“財政危機”のことを強調するのでしょうか?
 本当に日本にはこれ以上の財源(特別会計含め)もなく、“財政危機”に陥っているのでしょうか?
 欧米諸国と比べて非課税項目が極めて少ない「消費税」増税を、今後本当に行う必要があるのでしょうか?

③中国による米国債売りが始まっているように思えますが、彼らの動きをどのように見るべきでしょうか(米国国債の価値、米ドルの価値、日本国債や円の価値、中国人民元の存在感の見通し)?
 それに伴い、日本国民が成すべき防衛策としての、資産のポートフォリオ(預貯金、株式、国債などの金融資産、不動産や金・ゴールドなどの実物資産など)の例とは、どうあるべきなのでしょうか?

④資源(原油、穀物、レアメタル)バブル、CO2デリバティブ(インデックス)バブルの行方(投機筋による影響)はどのようなものと予測しているのでしょうか?

⑤経済環境を見通す上で、大事な経済以外の(もしくは通常の経済では見通しがたい)要素(例:政治力、タックスヘイブンの存在と簿外での資金力)とはどのようなものでしょうか?

⑥最も信頼する経済学説や経済学者(国内外)とは、どのようなもの/どなたでしょうか?(あるいは、最もお奨めの経済学や財政学や金融論に関する教科書・書籍とはどのようなものでしょうか?)
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 レクチャーの冒頭、ほぼこの質問についての回答がありました。6問に対して10分程度の時間でしたので、ごく簡単にポイントのみ、といったものでした。
 またレクチャー後、追加で3問の質問をしました。

■≪レクチャー後の追加の質問≫
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⑦上記②に関し、「お金がじゃぶじゃぶ余って」おり、必ずしも財政危機でないのであれば、なぜ財政危機がこうも何度も、マスコミや当局から喧伝されるのでしょうか?
 
⑧「じゃぶじゃぶ余っている」のならば、なぜ日本ではデフレ不況が10年以上続き(マクロ面では実態経済にお金が回らず)、ミクロ面での企業の売上高や支出規模(R&D、設備投資など)が減少し続けるのでしょうか?
 「じゃぶじゃぶのお金」は、どこでどのようなメカニズムで滞っているのでしょうか?

⑨上記③に関し、中国が米国債を一部売却する一方、英国や台湾が米国債を中国からのある種の委託行為により購入していて、差し引き中国が保有する米国債の規模はそう変わらず、従って、「米国債や米ドルのクラッシュはウソ」だとのことでしたが、もし
米国の債務率が実際は700%にも及んでいるとすれば、話は違うのではないでしょうか?
 しかしながら、基軸通貨である米ドルは、他国(過去のメキシコ、アルゼンチンなど)のようなデフォルト(債務不履行)には、簡単にはならないでしょう。その意味ですぐに「クラッシュ」しないだろうと想像しますが、それではどのような状態に達した場合に(あるいはどのような条件で)、本当に「クラッシュ」するのでしょうか?

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 これら質問に対する回答内容については、ここには記しません。
 私とは見ている対象やスコープがかなり異なったものでありましたが、結論のうち半分以上は私の見解と一致したものであり、安心しました。(^-^)

 ただ、結論は一致していても、なぜそのように考えるかの要因認識や分析の仕方、あるいは見ているデータが、私とは随分異なっていたような感想を持ちました。

 また、残り半分近くは、私とはかなり見解を異にするものでした。恐らく同じデータを見ても、理解(推論)の仕方が違うのかも知れません。
 あるいは、経済学説・経済モデルに対する心的態度(ある種の価値観に裏付けられたもの)が異なるのかも知れません。
 時間が短かったこともあったせいか、別途時間をつくってしっかり確認したいところです。そして、“3部門連携”がうまく図れることを願うものです。

 私のように学生時代は、「理論物理学」を元々学んできた、言い換えると、事個々のデータ・事象から、事象間の本質的な結合関係や因果関係を推論し、結論として一般的原理を導く方法としての〔A〕「帰納法」(induction)に親しんできた者にとって、「経済学」は随分と違った景色に見えます。

 何となれば、経済学は「社会科学」の1つとは言え、特に、新古典派経済学(新自由主義的なアプローチ)については、一般的原理(経済学説など)から論理的(恣意的?)推論により結論として個々の事象を導く方法である〔B〕「演繹法」(deduction)の学問・アプローチかと思うからです。

 両者が平行線であり、常に〔A〕か〔B〕の推論方法を採る、ということではありません。両方のアプローチが不可欠です。

 また両方に加え、あるデータから、それを成り立たせている基盤原理を仮説として導くと、他のデータが上手く説明される場合その仮説は真であろうと推定する、あるいは結果的に創造的発見を生み出すとされる〔C〕「アブダクション」(abduction:仮説設定法)なるアプローチがあります。

 日頃私も、この第3アプローチを意識して、経済学についても勉強しているつもりです。なかなか「アブダクション」なる“閃き”の境地には至らないものですが・・・^^;

 ある個別の事象を最も適切に説明しうる仮説を導出する推論としての「アブダクション」は、アメリカの論理学者、数学者、哲学者、科学者であるチャールズ・サンダース・パース(Charles Sanders Peirce)〔1839年9月10日~1914年4月19日〕により、「演繹」(deduction)、「帰納」(induction)に対する第3の方法として命名されました。

 この「アブダクション」を具体的に説明するにあたり、伊東義高氏(1934年生まれ。東大経済学部卒、新日鉄・他を経て、ヤルデア研究所設立)による、次の説明が大変優れており、また、その意味に包含させている教育哲学的な考察に共感しました。そこで、ここに出所を明らかにした上で抜粋します。

=====≪quote≫
■みる・きく・よむとアブダクション
 ヤルデア研究所 伊東義高
http://homepage2.nifty.com/yarudea/mirukikuyomutoab.html

(注)以下、新保が箇条書きにして、若干の整理を行っています。

(1) みる

◇「見る」(to see)
* 受動的・消極的。
* 漠然と見ていて、稀にabductionする場合、あるテーマについて熟慮熟考を重ねているも結論を得るに至らない時期(暖め期間 = 無意識的 incubation期間)に見ているものと、考えているテーマとの異質結合という類比的発想をする場合である。

◆「観る」(to watch)
* 能動的・積極的態度。

⇒ 「観察」 :「観測」と「推察」。
* 研究者が対象物を「観察」している場合にもabductionする場合がある
* よく観てどこがどうなっているかを測ることによって、対象物の表面的な詳細情報(1次的情報)が得られる。
* 不十分なそれら観測情報から内面的情報・本質・原理(2次的情報)を推察(類推・察知、to analogize, to guess)することである。
* 正確で十分な観測データがあれば帰納法的推論ができるが、いかに実験計画法に沿うものであれ、個人の一定時間内の観測では所詮サンプル観測にすぎない。そこから一般通則・公理を導き出すのは所詮「統計学的仮設設定(abduction)」である。まして非計画的な(いわゆる偶然の)一、二回の観測から公理を閃くのは完全なるabductionである。

(2) きく

◇[聞く」(to hear)
* 受動的・消極的。
* 人の話を漠然と聞いている時に閃くことがある。

◆「聴く」(to listen)
* 能動的・積極的態度。
* 膝を乗り出して聴いている時に閃くことがある。

⇒「理解」と「理会」へ。

◇「理解」(to understand)
* 話の意味、つまり論理構造が分解・解析されて吸収され諒解される。
* 相手に自分の話を理解させたかったら、易しい言葉で、ゆっくりと分けて話せば解かり易くなる。

◆「理会」(to comprehend)
* 相手の話しを理解した上で、その真意・深意が自分の考えとのつながりにおいて会得される。
* 一般に自分流に、独善的に会得・会悟・会了される。
* 換言すれば、構造化されている相手の話全体の中から、自分の体系に馴染む要素・部分・文脈を抽出して再構造化して、自分のスキームに収め込み、「そうだそうだ、納得できる」、「我が意を得たり」と感激する。
* 相手の論旨を自分流に再構造化したり、自己同一化を図るということは一つの仮設設定、abductionである。
* 逆説的にいえば、自分の価値構造・思想体系・知識蘊蓄の豊かさと相手の話の中身の独自性・崇高性・広域性があれば、その融合化には必然的にハイグレードのabductionが惹起される可能性が高い。
* 侃侃諤諤(かんかんがくがく)の研究会で閃きの多いのはその議論のレベルの高さよりもラベルの違いによるものであろう。
* その逆も言える。井戸端会議は、融合エネルギーを必要としない、緊張のない、閃くことも極めて少ない話の場である。この両極が人間の幅であり、それを綜合化(synthese)すれば、また新しいabductionが産まれる。

(3) よむ

◇「読む」(read)
* 受動的・消極的。
* 何気なしに電車の吊革広告や週刊誌を読んでいる時に閃くことがある。
* 多くは「そこには何が書かれているのか」正確に理解しようという心的態度であり、著者の話を聞かされている状態で、マジメな姿勢である。極に達すると、辞書を引き、傍線をを引き、ノートに取ることさえある。試験勉強には欠かせない。

「覚える」に対応
* 人の知見を自分の頭の中に取り入れることで、物知りとはアパートの大家のように自分の家に他人をたくさん住まわせて、部屋の番号管理をしっかりして、間違いなく呼び出しをしている人である。大家は店子がおとなしくしている限り、部屋に入り込んでアパート管理規則を強要することはない。

◆「講(よ)む」(peruse)
* 能動的・積極的態度。
* 何かの問題解決のために目的的に講(よ)む専門書や資料集からより多く閃くことがある。
* 「何故そういうのか、こうであってもいいではないか?」と掘り下げ・展開しようという欲求から、著者に問い掛け、話し掛ける状態で、入れ込んでいる姿勢である。私はこれを「インターラクティヴ・リーディング」と称している。

「考える」に対応
* 自分の既存の知識・理論体系と著者の主張するそれとの融合・共生を図る新規事業である。
* もともと違うものを合一・綜合しようとするのは無理なことである。無理とは今までの論理の枠組みに収まらないということ。
* 「講む」という心的エネルギーがその無理を押す。新しい道筋・論理を引くことになる。これは仮設設定である、abductionである。実りの多さは「聴く」場合に通じるが、心理状態の平静さから、著作の内容が貧困の場合でも征服者的、呑み込み的なabductionが得られることもある。

(4) みる、きく、よむ

◆情報体系である人間が環境から「みる、きく、よむ」というルートを通じて様々の情報を入手し、咀嚼・消化・吸収・排泄しながら自己同一的な成長を続けている。
◆受動的に取り入れる学習と能動的に働きかける研究の両端の中には「帰納的推論」、「演繹的推論」、「仮設設定的推論」が綾なしている。

良いか正しいかというOR的選択ではなく、いずれをもとり込みながら偏らず・拘らず・捕われずのAND的包含が大切である。
◆その意味において学校教育にはあまり馴染まないとされてきた主観性・特殊性の強いabduction、証明の面倒くさいabductionを、新時代創造の一つの切り口として意識的に研究する意義は大きい。

◆諸学会の在り方についても「実証主義」中心から「仮説提唱歓迎主義」に幅を広げていく流れにも意味を提供する。
◆その一環として学習・研究の手段、情報処理の方法である「みる、きく、よむとabduction」を考えてみた。

●通じて言えることは、最も大きなファクターは学歴・職歴よりも、当面する問題解決に対する生物的欲求の強さではなかろうか。それは単なるスカラー値ではなく、前向きか後向きかという方向性をもつベクトル値である。

●abductionで得られた仮説の証明方法については別途の研究や第三者協力を考えてもよいのではなかろうか。
* 「みる、きく、よむ」を通してのインプットから生まれた仮説は、「つくる、はなす、かく」を通して積極的なアウトプットされることを期待したい。

* 「自信がない」、「突っ込まれそう」、「笑われそう」という不安が引っ込み思案にしてしまうが、世の中に「珍説」、「奇説」、「怪説」…はあっても「誤説」、「謬説」、「違説」…はない。

* 「珍説」、「奇説」、「怪説」…を「通説」、「俗説」、「学説」…と異なるという故を以って嘲笑する人達はその「珍説」、「奇説」、「怪説」…から何の閃きも得られないコチコチのdeductionistに過ぎないのである。

* 確かに世の中には、deductionist(演繹主義者)が多いが、稀にabductionist(仮説設定法主義者)もいる。

【新保注】「deductionist(演繹主義者)」の例の筆頭が、新古典派経済学者(新自由主義者、グローバリスト)だろうと考えています。

* abductionistがその「珍説」、「奇説」、「怪説」…に触れればまた何か閃くかもしれない。そして更なる「珍説」、「奇説」、「怪説」…を産出して、新世紀の人類社会に予想外の貢献をする可能性がある。
=====≪unquote≫

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