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2009年5月 5日 (火)

【寄稿】『エコノミスト』:日本経済(+ICT産業)発展の方策

2009042720095512  弊社の広報部経由で、毎日新聞『エコノミスト』誌から、「世界不況が迫る経済の構造転換_産業大革命」なる特集に関する寄稿依頼がありました。

 先日(2009年4月19日)脱稿したものが、同誌に掲載されました。(^-^)
 私の原稿(ほぼ最終稿)を、ここにバックデートでアップしておきたいと思います。

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■「ICT鳩山プラン_ICT産業と適切なマクロ政策で日本経済は発展できる」
 
 ICT(情報通信技術)関連産業の市場規模を15~20年時点で200兆円に倍増させることを目指す「ICT鳩山プラン」。実現させるためには何が必要か。

 新保豊(日本総合研究所理事・主席研究員)

 総務省は2009年3月17日、鳩山邦夫総務相の私的懇談会による「ICT(情報通信技術)ニューディール」の提言を踏まえ、当面3年間の重点施策として「デジタル日本創生プロジェクト」(ICT鳩山プラン)を取りまとめた。このプランは、現在100兆円弱のICT関連市場規模を2015~2020年時点で200兆円とすることを狙ったものだ。ブロードバンド基盤の整備や電子政府の促進など打ち出した米オバマ政権の戦略の「物真似風」である一方、その実現方法は、経済の原理原則を無視しており、とても無理な話だ。

 プランはICT産業のみに目を奪われていて、経済全体の量に関する視点が欠如している。日本は先進国のなかで唯一デフレが経済を長期間下押ししているなかで、今般の金融危機が実体経済への縮小に追い討ちをかけている。この観点からは、実はICT産業の成長にも、経済全体の浮揚が第1の鍵となる。

 ICT産業は最近の実質国内総生産(GDP)成長率への寄与の4割を占めるとされ、産業界からも大きな期待が集まる。しかし、本格的なデフレに突入する前年の1997年から2007年までの実質GDPの年平均の成長率はたかだか1.2%に過ぎない

 主流エコノミストは、日本経済は、資本設備と労働力が余剰にある飽和状態にあると捉え、成長の第三の要素として生産性を持ち出す。特に労働生産性(=付加価値÷労働投入量)の低さが成長を阻んでいるとする。これは間違いだ。デフレ(総需要不足)状況では売上高が減少するが、グローバルな株主資本主義のもとでは、高水準の株主配当を維持するには人件費を下げざるを得ない。生産性が低いのは、GDP=付加価値(≒営業利益+人件費+減価償却費)が伸び悩んでいるからだ

 政府のデータから計算すると、労働生産性の年平均伸び率は、基本的にデフレ状況にあった2000~2007年は1.84%であり、バブル経済期を含む1980~2000年の2.43%より低い。一方、生産性のGDPへの寄与率(生産性上昇率÷GDP成長率)では、2000~2007年が1.18と1980~2000年の0.88より高いが、これは、分母のとなるGDP成長率が小さかったからに過ぎない。経済低迷の真の原因はデフレだから、生産性向上を目指した構造改革を継続しても、これ以上効果はない。原因と結果が逆なのだ。

◆経済全体の浮揚が必要

 まず経済全体の浮揚が先決だ。2007年の実質GDPが561兆円に対し、「失われた10年」がなければ潜在実質GDPは、ドイツやフランス並みの成長を続けることで817兆円にも達していたとみられ、その場合のGDPギャップ(=デフレギャップ)は255兆円(ギャップ率マイナス31%)にも開いている可能性が高い。

 土地バブルやIT(情報技術)バブル前後に株式市場は高値をつけたが、国内で低金利政策を続けた結果、高利回りの外国証券購入取引が増え、株式市場からを含め数百兆円もの膨大なマネーが海外へ流出したのだから経済が成長するはずもない。

 「鳩山プラン」を従前のような方策(多少の設備投資)で進めても効果はない。問題は資本設備や労働力の不稼動状態、すなわち総需要不足にある。構造改革は総需要をしぼませデフレを固定化させた。

 他方、国債発行の日銀引き受けなど、政府債務を増大させるマネー投入は結局、国債購入によって民間部門からマネーが引き上げられるだけなので、現存する購買力の再配分に過ぎない。新たな購買力を生まないために経済成長には中立的だ。

 解決の方策はそこにはない。今着手すべきなのは、日銀に負債を持つ必要のない「新たなマネー」である、現行法で可能な政府貨幣を発行することだ。大きなデフレギャップがあるためインフレの心配はない。決して奇策などではなく、丹羽春喜氏(大阪学院大名誉教授)も以前から指摘している。

 具体的には、経済全体で毎年250兆円(=国民1人に月20万円の臨時ボーナス)なる新たなマネーを効果が出るまで(最長3年程度で最大750兆円ほど)投入し、消費者物価上昇率が2.0~2.5%程度のインフレになれば停止する。この規模が大胆過ぎて不安であれば初年度は半分(100兆円規模)でもよい。

 ICT産業には、このうち年50兆円の新たなマネーを3年間、累計150兆円ほど投入もできる。投入方法は、用途限定・期限付きの「ICT消費券」等の配布などが有効だろう。3年間の消費者の旺盛な購買力(総需要)増大が企業の投資原資となり、これでICT産業は一気に浮揚する。3年間で平均10%成長が達成でき、それ以降も続けば2017年には「鳩山プラン」の目指す市場規模200兆円突破も夢ではない。

◆未来のICT産業

 このようにICT産業が浮揚すれば、消費者・生活者は、真に豊かで愉快な生活実現に一歩近づく。内需分野での健康・医療(有害物質対応)、住環境・交通・防災(大気汚染、地震・原発災害対策)、燃料電池・太陽光によるエネルギー分散化、教育・学習、食・農業(無農薬化、非競争的な消費者支援化)分野で、ICTとの接点を見つけ創意工夫することなどは日本企業の得意領域であろう。

 ICT企業は、光ファイバーやモバイルなどの次世代通信網や各種ICTプラットフォームの整備、さらにはICT関連機器や各種サービス・コンテンツ開発につなげることで国際競争力も向上しよう。政府は、これまで、デフレ下なのに競争政策を継続して結果、産業界を疲弊させてきたが、国民経済の視点に立脚し、まずは産業規模拡大など国内の重点産業の強化をはかり、その上で競争促進策を講ずれば健全な市場形成がなされる。

 日本のICT企業は、グローバル市場の時流に乗って、商品が良ければ売れると安易に考え海外進出を試みたが、競争相手に比し規模と範囲の経済性を十分発揮できず、また現地の商慣行や実業史に関する研究不足や、業界だけではどうになならない為替変動に翻弄され、現在まで海外市場で勝てなかった(擬似的グローバル展開に留まった)。

 いわば「1カンパニー&1擬似グローバルシステム」であったICT企業は、今後マクロ経済面で有効需要が喚起され、本来の経済成長が達成できる必要条件が整えば、再編統合を行わず、企業数はそのままで業界新生も十分可能だ。日本には1国経済に不安定さを与えかねないノキアやサムスン型の巨大な「グローバル・トップワン」企業は不要だ。

 適切なマクロ経済対策と、内需の成長分野への取り組みがなされれば、企業は、日本の市場に適した技術・経営システムを確立し、そこで稼ぎ出した利益で培った体力と経験を通じて真のグローバル展開を図るという「1カンパニー&2システムズ」を達成できる。そうすれば、日本のICT産業は「飛躍の10年」の未来を謳歌でき、また世界の経済社会の発展にも貢献できよう。

【図表】 ICT産業が目指すべき未来の発展パターンと「飛躍の10年」
20090505 (注)「BOP」:Bottom Of Pyramidの略で未開拓の40億人市場。
(出所)新保豊(日本総合研究所)が作成

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◆デジタル日本創生プロジェクト(ICT鳩山プラン)とは
 総務相のICT(情報通信技術)分野の懇談会「ICTビジョン懇談会」(座長、岡素之・住友商事会長)の緊急提言「ICTニューディール」を受けて、総務省が3月にまとめたプロジェクト。
 ICT関連の設備投資を促進することで、今後3年間で数兆円規模の市場と30~40万人の雇用を創出し、中期的には、現在100兆円弱の市場規模を2015~20年時点で倍増させることを狙う。
 具体的には、▽電波の有効活用によるデジタル新産業の創出▽「クラウドコンピューティング」などの新技術を活用した革新的電子政府の構築▽デジタル・ディバイド(情報格差)の解消された先進的デジタルネットワークの構築──などの目標が盛り込まれている。
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 なお、同誌特集の目次は、次の通りです。
 私の原稿は、下の方に「エコノミスト・リポート」として掲載されています。例によって、私の見方は、新古典派・構造改革派とは異なりますので、他氏と比べかなりの異説内容になっていようかと思います。

 ただ、上記原稿本文でも示しましたように、この見方は、丹羽春喜氏(元大阪学院大学教授)らがずっと以前から主張されたいたものです。私がICT産業発展・復興のために、若干のアレンジをして記述した程度のものです。

 そしてこの方法は、金融危機から実体経済の恐慌状況を呈しつつある米国において、バーナンキ(FRB議長)らが“ヘリコプターマネー”として、やはりかなり前から言及してきたことなのです。深刻なデフレ状況にあり、なおかつ金融危機最中の異常事態では、絶大な効果があるものであり、デフレギャップの膨大な日本経済ではさしたる弊害も出ないでしょう。

 にもかかわらず、わが国のエコノミスト諸氏は、頭が固い。物事の大局と本質を知っている欧米・中国・ロシア・インドなどのエコノミストや政策担当者は、とっくの昔に舵取りの方向を変えていると言うのに・・・^^;

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『エコノミスト』(特集:世界不況が迫る経済の構造転換_産業大革命)2009年5月5・12日合併号

Part 1 転換期に直面する日本の産業

・潮流は「ハード」から「ソフト」 技術立国日本がやるべきこと_木村英紀(理化学研究所/東京大学名誉教授)
・自動車:電子化技術で先端を行く日本 自動車が「電気製品」と呼ばれる日_河村靖史(ジャーナリスト)
・電機:新成長市場は環境、健康など 海外生産で新ビジネスモデル構築_長田貴仁(経済学者)
・化学:石化コンビナートは国家戦略的な再編が不可避_黒澤真(CLSA・カリヨン証券シニアアナリスト)
・鉄鋼:需要急減で再編は必至 高炉5社体制は崩壊へ_真田明(ジャーナリスト)
・小売り:コンビニが「日本のインフラ」へ進化 イノベーションでコスト構造改革_清水倫典(キャピタル・パートナーズ証券調査部長)
・不動産:地価、オフィスビル、マンション すべて変化の節目を迎えている_石澤卓志(みずほ証券チーフ不動産アナリスト)
・問われる状況把握力:日本経済の転換期を生き抜くための4つの視点_小峰隆夫(法政大学大学院政策創造研究科教授)
・過去の危機克服:長期的視点と競争力強化への投資で困難を乗り越えてきた日本企業_橘川武郎(一橋大学大学院商学研究科教授)

Part 2 日本の未来を切り開く工夫

・2次電池:太陽光発電、電気自動車-次世代エネルギーインフラに不可欠_井元康一郎(ジャーナリスト)
・農業:自由競争で成長できる日本の農業 輸出に大きな可能性_昆吉則(『農業経営者』編集長)
・医療:「マーケット・イン」の視点で医療をサービス産業として育てよ_真野俊樹(多摩大学統合リスクマネジメント研究所教授)
・インタビュー:佐伯啓思(京都大学大学院教授)「日本を真に豊かにするために『脱成長社会』の道を探れ」

◇史上最大 15.4兆円 追加経済対策効果の測定

・効果がある政策、ない政策を理論的に見極める_熊野英生(第一生命経済研究所主席エコノミスト)
・「賢明な支出」より「大規模」を優先_尾村洋介(『週刊エコノミスト』編集部)
・国債増発懸念で長期金利上昇_島本幸治(BNPパリバ証券チーフストラテジスト)
・国債大増発だけでは解決しない 現役世代の1人当たり所得を増やす政策こそ必要だ_藻谷浩介(日本政策投資銀行国際部所属参事役)

◇読書の達人5人が選んだ20冊 ゴールデンウイークに読むべき本

・伊東光晴/松本健一/池内了/久田恵/成毛眞

◇エコノミスト・リポート

・中国:アジアを中心に世界は深刻な水不足時代に入った_柴田明夫(丸紅経済研究所所長)
・成長力:ICT産業と適切なマクロ政策で日本経済は発展できる_新保豊(日本総合研究所理事・主席研究員)
・経済政策:不安を克服すれば日本経済の日の出も遠くない_浜田宏一(エール大学経済学部教授)
・貧困:「貧困大国・日本」の現実を直視せよ_宇都宮健児(弁護士・反貧困ネットワーク代表)
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