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2008年9月11日 (木)

【掲載】ワイヤレスブロードバンドの国際競争力強化(CIAJ月刊誌)

20080911ciaj 今年(2008年)の6月に情報通信ネットワーク産業協会からのご依頼により、次の「えくすぱーと・のれっじ・セミナー」の講師を引き受けました。

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「えくすぱーと・のれっじ・セミナー」
http://www.ciaj.or.jp/content/seminer/pdf/080610.pdf

 会員限定セミナーのお知らせ

「ワイヤレスブロードバンドの国際競争力強化に向けて」
 講師:新保 豊 氏
 (日本総合研究所 理事・主席研究員)

日 時 :2008年6月10日(火)10:00-12:00
場 所 :情報通信ネットワーク産業協会 B~E会議室
    (秀和第一浜松町ビル3 階)
    港区浜松町 2-2-12 TEL 03-5403-9358
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 その時のことは、このBlogの【講演】CIAJ主催の「ワイヤレスブロードバンドの国際競争力強化に向けて」でも概要を示しています。当日の講演資料は、CIAJの会員ページから得られるようです。

 その後、当日の講演内容を基に、『CIAJ JOURNAL』2008年9月号向けに原稿依頼がありました。
 もう随分と時期も経っていることですし、その原稿をここにも掲載しておきたいと思います。

=====≪quote≫
■「ワイヤレスブロードバンドの国際競争力強化に向けて」
(~グローバリズムに乗るのか超えるのか~)
(情報通信ネットワーク産業協会『CIAJ JOURNAL』2008年9月号)
http://www.ciaj.or.jp/content/info/journal/backnum/0809.html

日本総合研究所 理事・主席研究員 新保豊
 (2008年8月11日記)

 情報通信産業の牽引役としてワイヤレスブロードバンドの今後の趨勢に大きな関心が持たれている。それを例に国際競争力強化についての基礎的な考え方を示すにあたり、特にマクロ経済的な視点を持つことの重要さを強調しておこう。

■グローバリズムの潮流を知る

 読者の多くは、企業経営(マネジメント)や情報通信産業の行方に関心があるはずだ。CIAJのスタッフや幹部あるいは規制・政策当局の一部幹部ともなれば別だろうが、大概の日本人は産業レベルましてやマクロ経済(やパワーポリティクス)の視点で物事を捉える訓練を受けていない。従って、「経営(学)」は、「マクロ経済(学)」に規定されていることがよく分からない。前者は船、後者は大海の潮流。大海の潮流を知らずして、船の適切な舵取りは不可能なのだ。そして、船の集合体である産業の競争力の強化など所詮できない。ここが、そもそも国際競争を考える際のポイントとなる。

 世界の潮流となった“グローバリズム”の定義を確認しておこう。すなわち「古典派・新古典派経済学を基礎とし、民営化・自由化競争・規制緩和などを標榜する、ワシントン・コンセンサスに基づく国際機関(世銀、IMF、WTO)との連携を前提とする企業・銀行・政府という連合体(コーポレートクラシー)による道徳性をもたない神学」(カナダ・ブリティシュ・コロンビア大学ジョエル・ベイカン教授に加筆)と言ったところだろう。

 つまり、グローバリズムとは世界市場における覇権国(通貨基軸国)の国家戦略ないし演繹的な世界観なのだ。繰り返しながら、本気で国際競争力を強化するためには、この国家戦略の正確な理解なしには無理だ。わが国の産業界では一部の例外を除き、大企業の経営幹部であっても殆ど把握できていない。私が接する経営コンサルティングの現場からほぼ断言できよう。ただわが国の一部政治家と高級官僚はこのことをよく知っている。分かっていながらグローバリズムの潮流に押し切られている(または迎合している)のが現実と言えよう。

 MBA(経営管理修士号)を持っている読者も少なからずいるだろうが、その大半は“世界ルール”を学ぶのが精一杯の状態にあるはずだ。世界(日本を除くG6+ロシア・中国など)の常識であっても、日本の非常識ということは意外に多い。

 例えば、時価会計主義だ。〔1〕総合エネルギー取引とITビジネスを手がけた米エンロンで1990年代のうちに大々的に採用(“創造的会計(creative accounting)”を発明)され、〔2〕日本にも導入されたことで潰れなくて済んだ銀行が消えた(2001年の「竹中ショック」)。この時、独仏など欧州では2005年まで簿価主義を堅持していた。そして、〔3〕最近G7では放棄の構え(簿価会計回帰)が表明されている〔2008年4月の米FRBバーナンキ議長談〕。

 このように“世界ルール”とは都合よく変更されるものであり、それは世界の国家戦略であるがゆえ、その時々の世界の趨勢(通貨の相対的な価値など)により、覇権国にとって最も競争優位を実現できそうな(もしくは不利を被らないような)代物にとって替わられる。その意味を知らない日本企業は、悲しいかな、もう15年間以上も同ルール・戦略に翻弄され続けている。

 このような潮流にあって、ワイヤレスブロードバンドの国際競争力をいかに捉えるべきだろうか。

■モバイルWiMAX方式採用の意義

 目下、世界の「ワイヤレスブロードバンド」市場の趨勢は「LTE」(携帯電話の高速データ通信仕様の一種)が支配的だ。米国ではAT&T、べライゾンが、また欧州勢では英ボーダフォン、仏フランステレコム/オレンジ、独T-モバイル、伊テレコムイタリアがそう表明している。ただし、LTE向け電波の帯域確保の点などもあり先行きは必ずしも透明ではない。

 米スプリント・ネクステルはモバイルWiMAXを担いでいる。携帯電話市場25億加入(2006年末)に対し、2011年頃の将来見通しとしてWiMAX加入はその1.1%程度。また金額ベースでは、携帯電話端末市場11.5兆円(2005年)に対し、同WiMAX機器市場はその3.4%程度との予測(米調査会社)がなされているが、何れにしろ本丸の携帯電話と比べ、需要規模としては補完的な存在に過ぎない。

 ただ、特定エリアでのワイヤレスブロードバンド需要の喚起を通じた、“新データ通信”によるARPUへの寄与分も期待でき、通信キャリアにとって新たな次世代サービス需要の牽引役として大きな存在感はある。また、地域WiMAXを利用すれば、既存サービス(CATVなど)とのバンドリングサービスも可能となり、競争上の有力な武器になろう。

 WiMAX方式を巡って、日本の多くの通信機器・端末メーカーらが今後、グローバル市場で弾みをつけるに当たり大きな期待がもたれた。にもかかわらず、日本国内のモバイルWiMAX方式採用の仕方は、“国益”追求の視点に乏しい結果になってしまった。結局、電波の割当て対象(全国バンド)の半分(30MHz幅)を確保するに留まった。地域バンドとの干渉対策などを考慮すれば、潜在的な生産規模の2分の1未満となる。これでは国際競争の観点で、コスト競争優位を保持できるかどうかなど不安材料が残された。

 今般のモバイルWiMAX方式は実質米Intel主導下にある。今後も同様だろう。本来であれば、かつてのTRONチップ、あるいは最近のRFIDを巡る国産技術の育成と世界市場での浸透を目指すことが、ピユアな“国益”追求には最も望ましい。

 しかしながら、生産財メーカー(電子部品など)を除き、過去15年ほどの日本企業の国際事業展開は見るべきものがなかった。1986年の「前川レポート」発表以降、過度な貿易黒字減らしの中で、不適正・不自然だった金融政策(特にマネーサプライ)のもと1990年の土地・株式投機が煽られバブルは破裂。その後、金融機関は不良債権の処理などに手間取り、また情報通信系企業の多くで収益の大幅減少に悩む中、内需・内向き志向の傾向が過分に強まった。海外展開どころではなかった。

 その前に、既に日本市場に参入を果たしている海外メーカーの攻勢を通じた市場シェア低下(収益力の減退)を引き起こす可能性や、無闇な国内メーカー同士の市場再編で、外資ファンドらによる草刈り場になる可能性は小さくない。

 たとえWiMAXなる通信方式を採用するにしても、例えば、同通信方式を利用した、原丈人氏(DEFTA会長)の言う“パーペイシブ”な端末の造り(小型低消費電力で使っていることを感じさせない)が期待される。そうした独自性さえ堅持していれば、何でも日本発でなくともよい。ただその際、グローバルビジネスの基本は、OS(基本ソフト)であれ端末であれ、コスト競争力が競争力全体を左右することは肝に銘じなくてはならない。

 言い換えると、“規模の経済性”(量産効果)が十分発揮できることが基本だ。この点、日本の生産財メーカーは得意(中間需要を予測した上での効率的な体制を確立済み)なのだが、最終需要財メーカーではこの点が難しい。最終需要が中間需要に比し読みにくいからである。従って、今後は需要を“読む”よりも、需要を“創造していく”(仕掛けていく)ことが求められる。

■グローバル市場に向けた国内産業育成

 ところで、日本の情報通信(ICT)産業の国際競争力は本当に低いのだろうか。「わが国の携帯電話端末メーカーの国際競争力は低く、それは“ガラパゴス列島”での内向き市場でメーカーがあくせくしているからだ」などの声がよく聞かれる。半分当たっているがもう半分は外れている。私は総務省の「ICT国際競争力」関連の研究会などにも関わっており、日頃からそう感じている。

 明確に言えることは、「国際競争力生産財と最終需要財とでは国際競争力は異なる」ということだ。携帯電話1台あたりに搭載される電子部品数は500~700個もあり、日本メーカーはそのおよそ6割も世界に供給しているのだ。

 実際、電子情報技術産業協会の資料「電子情報産業の世界生産動向調査」(2007年3月)を見ると、わが国の生産財の国際競争力は極めて高い。電子部品(生産財)では依然世界の49%にも及ぶ。ここで日本のGDP約5兆ドルが世界のGDP合計47兆ドルに占める割合は9.3%であるため、この5倍超の存在感があり、国際競争力は絶大だ。ただし過去と比べ“低下”傾向にあるのは事実だろう。


【図表】 世界および日本における電子情報産業における生産額内訳(2005年)
(クリックすると拡大します)
20080911caij
(注)
☆「有線通信機器」:電話、FAX、交換機、ルータ、ハブなど。
☆「電子応用装置」:X線装置、超音波応用装置、産業用テレビジョン装置など。
☆「事務機」:「主に複写機」で、デジタル複合機等のプリンタ機能を持つ製品は、情報端末の「プリンタ側」に含まれている。
☆「内訳と合計値」:四捨五入の関係で合わない場合がある。
(出所)電子情報技術産業協会(JEITA)「電子情報産業の世界生産動向調査(第1回)」(2007年3月)を基に日本総合研究所作成

 一方、電子情報産業において日本がこの比率を下回っているのは、ソフトウェアとパソコンの2分野のみであり、弱いとされる「携帯電話」(最終需要財)でさえ同17%はある。前述のガラパゴス現象を象徴する「携帯電話のシェア4.7%」(=5,230万台÷11億2,550万台)というのは、出荷台数のことだ。端末価格は世界平均の2.7倍(=40,426円÷14,935円)で購入されており(それだけ価値があるとみなされ)、金額ベースではそこそこの存在感はある。

 以上、総じてICT分野で「国際競争力が低い」とするのは見当違いであり、意図的な喧伝・情報操作さえ想起させる。この動きの背景にある本質を見誤ることにもなりかねない。法人税率を下げ、その分を消費税値上げで代替する動きにつながるとすれば用心が必要である。

■国際競争力の強化

 それでも当面、企業の成長や国富増大の観点からはグローバル展開が不可避だ。安倍政権以降、特に強調されている「経済成長」とは、突き詰めれば金融機関への「負債の返済」だからだ。日銀を起点とし市中銀行が創った通貨総額(マネーサプライ)に対する、金利支払い分だけのGDP成長が必要とされる金融メカニズムが、現下の経済社会システムに組み込まれている以上、金利よりも高めの(例えば年率で3%前後の)「持続的な成長」が今後も求められることとなる。つまり、企業も家計(消費者)も、借り入れ返済のために成長し働いているのが正しい理解なのだが、世相の慌しさの中にあって通常このことを意識する人々はまずいない。当然、政府もマスコミもこのようなことには触れない。

 輸出志向の企業などへ有利になるよう実効法人税率を下げようと努力している政府は、このメカニズムに奉仕する立場となる。従って、「コーポレートクラシー」にあっては、この世で一番パワーがあるのは①(国際)金融機関であり、次に②多国籍企業、そして③政府の順となる。この日本の“非常識”(序列・傾向)はアングロサクソン諸国では際立っている。グローバリズムを目指すということは、この並び順に経済社会を「構造改革」することに他ならない。このことにわが国の政策・規制当局も日夜邁進している。

 また成長の源泉とは、適度なマネー流通のもとの、実物経済取引での購買力の増加にある。今や「実体経済」(2004年の世界の全貿易取引額9.3兆ドル)は、その83倍にも及ぶ「金融経済」(同年の外為・店頭デリバティブ取引額775兆ドル)に振り回されている。世界のGDP(47兆ドル)との比でも16倍余にもなる。デリバティブ(=投機)マネーが、サブプライムローン問題で株式への投資リターンの最近の悪化を嫌い、その行き場として穀物や石油の高騰をもたらしている。グローバル市場の健全な発展のためには、この影響を減じていくことが不可欠だ。この前提なしに国際競争力を問うたとしても、その影響の甚大さに重要なポイントが隠れてしまう。

 国際競争力の強化とは、グローバル市場構造でのよきポジションの確保に他ならない。グローバル市場とは、世界が供給側と需要側の2者のみであるかのような単一市場につくり変えられたものである。そこではマクロ経済では無視しえない、余計な商取引上の障壁は存在してはならない。商取引や会計上のルール(株主価値=企業価値といった見方など)も“世界標準”なのだ。MBA流の経営を世界中で学んでいるのも、当人は気付かなくとも、実はこのルールやその共通言語を習得するためにある。

 言い換えると、中国やインドなどBRICsでの低労賃による世界の工場機能を担う供給者と、企画・設計などの主機能を担い消費が中心の需要者(G7など)との間で、商取引が効率的に進むよう、つまり規模や範囲の経済性が最大限効いてくるような仕組みに、日本企業がいかに順応できるかにかかっている。前述の古典派・新古典派経済学が唯一対象にしてきた、「需給は常に均衡している」とする“ミクロ経済”の世界で話は閉じてしまう。

 従って、この世界では最も効率的な企業または国のみが勝者となりえる。勝ち組と負け組がはっきり分かれる冷徹な仕組み・構造となっている。グローバリズムに“乗る”とは、この容赦ない世界に日本企業が本格的に足を踏み入れることに他ならない。ここへ軸足をたとへシフトしていくにしても、競争相手のルール(手の平)に乗っている以上は、どうしても有利な戦いはできない。

 グローバリズムとは切り離して考えることはできない、最近流行りの「オープンイノベーション戦略」然りだ。例えば、a)Intel、b)Microsoft、c)Qualcom、d)Walmartなど勝ち組企業による、相手国政府へのロビイング・設計・流通・マーケティング・販売・オペレーションなどでのイノベーションの仕方がその典型だ。
 
 同戦略の本質は、a)CPU、b)ソフトウェア、c)無線、d)RFID(ICタグ)などの自前コア技術の確立であり、製造や販売網では、グローバルな資源(ヒト・モノ・スキル)を“有効活用”することが基本となる。そしてこの資源は、政治・軍事力を背景にした、供給側の国々からの安価で適度にスキルフルな労働力の獲得、立地条件の確保に加え、国際金融機関との連携などを通じて得られるものである。かつてのコロニアリズムの延長にあるビジネスモデルなのだ。このことが日本企業にできるだろうか。

 たとえ模倣するにしても、そのノウハウやパワーの獲得は一朝一夕では困難だ。ならば別の手立てを思慮すべきだ。第1段階として、生産財ビジネスモデルで規模の経済性を追求しつつ、成長市場や互角の勝負が可能な市場で、既に勝ち組である日本の海外生産財メーカーへの生産委託などを視野に入れることも手だろう。また第2段階では、将来需要の先取り、ないし需要創造を行う。例えば、前述のパーペイシブな端末とサービスとの連動により、模倣困難要素を自社のビジネスモデルに組み込む。紙面の都合で詳述できないが、この需要創造の段階では“多産多死”的なトライ&エラーを、国内外の関係者を加え、いかに加速的に行える仕組みを構築できるかがポイントだ。

 そのためにも、近隣国(韓・中・露)と東南アジアに加え、インドや中東・トルコまで含めた新アジア・ユーラシア圏構想まで含めた、今の“世界ルール”とは一線を画したグランドデザインの構築が不可欠だろう。当面はアングロサクソン型グローバリズムへの発展的牽制・超克こそが、真の国際競争力強化につながるに違いない。

=====≪unquote≫

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