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2008年3月 7日 (金)

【一言】国民皆保険制度の改悪化への警笛

20080301  著名な宇野弘文氏の論考がネットに出ていました。

 日本の医療問題(国民皆保険制度)に関する重要な点の、ほとんどすべてが言い尽くされているのではないかと思われますので、みなさんにご紹介したいと思います。

(青の太字下線は、私が付しました。写真は、2007年7月27日『日経エコロジー』のECO JAPAN インタビュー 記事にあったもの)

=====≪quote≫
日本の医療崩壊と後期高齢者医療制度 世界に誇るべき国民皆保険制度 完全な崩壊への決定的一歩 【特別寄稿 宇沢弘文東大名誉教授)】
(2008年2月22日、全国保険医団体連合会(保団連))

http://hodanren.doc-net.or.jp/iryoukankei/seisaku-kaisetu/080222uzawa.html

 4月1日から後期高齢者医療制度がスタートする。同制度の問題点について、宇沢弘文東大名誉教授に寄稿いただいた。(中見出し編集部)。

◆給付の平等性とフリーアクセスの原則

  1961年に発足した日本の国民皆保険制度の下、国民のすべては、何らかの公的医療保険によってカバーされる。公的医療保険は社会保険としての性格をもつ。すなわち、保険者は市町村または健康保険組合であって、各人はそれぞれの医療保険が特定する要件をみたすときには、保険に加入することが強制される。

  国の定める療養規定の範囲に限って、診療報酬の支払いがなされ、保険料はもっぱら、市民の基本的権利の充足、社会的不平等の解決という視点から決められる。
  とくに、社会保険としての公的医療保険については、各保険者の経営的赤字は、憲法第25条にしたがって、最終的には国が補填するのが基本的原則である。

  国民皆保険制度の基幹的原則ともいうべき、給付の平等性とフリーアクセスの原則を貫こうとするとき、個別的な保険者について、保険収支のバランスを想定することは不可能である。

◆皆保険制度を守る医療関係者の努力

  国民皆保険制度はもともと、すべての国民が斉しく、そのときどきに可能な最高の医療サービスを受けられることを社会的に保障するという高邁な理想を掲げて発足した。しかし、理想と現実との乖離は大きかった。

  その乖離を埋めるために、医師、看護師を中心とする医療にかかわる職業的専門家の献身的な営為と、医療行政に携わる人々の真摯な努力がつづけられてきた。

  病院の物理的条件も医療設備も必ずしも満足できるものではなかった。日本の医師、看護師などの医療専門家の、人口当たりの人数は極端に少なく、その経済的、社会的処遇も、諸外国に比較して極めて低く、また勤務条件も過酷であった。しかし、大多数の医師、看護師たちは、高い志を保って、患者の苦しみ、痛みを自らのものとして、献身的に診療、看護に当たってきた。

  日本の国民医療費はGDP当たりでみるとき、OECD諸国のなかで最低に近い水準にある。しかし、日本の医療
はどのような基準をとっても、最高に近いパフォーマンスを挙げてきた。
  国民の多くはこのことを高く評価し、医師、看護師をはじめとして医にかかわる職業的専門家に対して、深
い信頼と心からの感謝の念をもってきた。

◆高齢者を犠牲にした極端な医療費抑制

  この理想に近い状況は、度重なる乱暴な医療費抑制政策によって維持しつづけることが極めて困難になってしまった。日本の医療はいま、全般的危機といっていい状況にある。かつては日本で最高水準の医療を提供していたすぐれた病院の多くが経営的に極めて困難な状況に陥っている。

  とりわけ地方の中核病院の置かれている状況は深刻である。数多くの医師、看護師たちは志を守って、医の道を歩むことが極めて困難な状況に追いやられている。

  この危機的な状況の下で、本年4月1日、医療費抑制をもっぱらの目的に掲げて、後期高齢者医療制度が発足する。この制度は、75歳以上の老人すべてを対象として、他の公的医療保険制度から切りはなして、新しく組織される広域連合を「保険者」として、地域的に分断して、運営しようとするものである。

  保険料は、もっぱら広域連合の経営的観点に立って(おおむね2年を通じて財政の均衡を保つように)決められ、75歳以上の老人は、生活保護世帯に属するもの以外すべて、これまで扶養家族だった人も含めて個別的に保険料を支払わなければならない。

  医療給付についても、信じられないような条件が課せられている。たとえば、闘争、泥酔、著しい不行跡、あるいは自殺未遂で負傷したり、病気になってしまった場合、療養の給付はカバーされない。

  とくに深刻な影響を及ぼすことになるのが、被保険者資格証明書の制度が全面的に取り入れられることである。保険料の未納が1年を超えると、健康保険証を取り上げられ、代わりに被保険者資格証明書が発行される。
  しかし、この資格証明書だと、かかった医療費をそのたび、全額、病院の窓口で支払わなければならない。未納保険料を全額支払わないかぎり健康保険証は返してもらえない

  「医療費の適正化」という市場原理主義的な名目を掲げて、主として「高額医療費」と「終末期の入院医療」に焦点を当てて、75歳以上の老人を犠牲にして、極端な医療費抑制を実現しようというのが厚生労働省の意図である。

  社会的共通資本としての医療を具現化するという高邁な理想を掲げて、1961年発足した、世界に誇るべき日本の国民皆保険制度は、その完全な崩壊への決定的な一歩を歩み始めようとしている。

◆日本の医療はなぜ深刻になったのか

  日本の医療は、何故このような深刻な事態に立ちいたってしまったのだろうか。この深刻な事態を招来させた、そのもっとも根元的なものは、市場原理主義とよばれる似非経済学の思想である。市場原理主義は簡単にいってしまうと、もうけることを人生最大の目的として、倫理的、社会的、人間的な営為を軽んずる生きざまを良しとする考え方である。

  市場原理主義は先ず、アメリカに起こった。そして、チリ、アルゼンチンなどの南米諸国に始まって、世界の数多くの国々に輸出され、社会の非倫理化、社会的靱帯の解体、格差の拡大、そして人間的関係自体の崩壊をもたらしてきた

  この市場原理主義が、中曽根政権の下に始まって、小泉・安倍政権の6年あまりに日本に全面的に輸入され、日本の社会はいま、戦後最大の危機を迎えている。
  日本では、市場原理主義が、経済の分野だけでなく、医療、教育という社会的共通資本の核心にまで、その影響を及ぼしつつあるからである。

  中曽根「臨調行革」路線の下で、厚生官僚によって「医療亡国論」が声高に主張され、医療費抑制のために医師数をできるだけ少なくする政策が取られはじめた。医に経済を合わせるという社会的共通資本としての医療の原点を忘れて、経済に医を合わせるという市場原理主義的主張に基づいた政策への転換を象徴するものだった。現在の極端な医師不足、勤務医の苛酷な勤務条件を招来する決定的な要因がすでに形成されはじめていたのである。

◆市場原理主義は国民の願いに逆行する

  1980年代、財政赤字と貿易赤字という双子の赤字に悩むアメリカ政府は、日米構造協議の席上、日本政府に対して執拗に内需拡大を求めつづけた。その結末が、日本が10年間で公共投資を430兆円行うという国辱的ともいうべき公約であった。

  「増税なき財政再建」の旗印を掲げながら、アメリカからの、この理不尽な要求を可能にするために政府が考え出したのが、地方自治体にすべてを押しつけることであった。国からの補助金をふやさないで、すべて地方自治体の負担で、この巨額に上る公共投資を実現するために、詐欺と紛う、巧妙な手法が用いられた。

  この流れは、小泉政権の「三位一体改革」によって、さらに拍車を掛けられた。その「地域切り捨て」政策と、度重なる暴な医療費抑制政策の及ぼした弊害はとくに深刻である。

  市場原理主義の日本侵略が本格化し、社会のほとんどすべての分野で格差が拡大しつつある。この暗い、救いのない状況の下で行われた昨年7月29日の参議院選挙の結果は、国民の多くが望んでいるのは、市場原理主義的な「改革」ではなく、一人一人の心といのちを大切にして、すべての人々が人間らしい生活を営むことができるような、真の意味におけるゆたかな社会だということをはっきり示した。

  しかし、今回発足する後期高齢者医療制度は、この国民の大多数の願いを裏切って、これまでの長い一生の大部分をひたすら働き、家族を養い、子どもを育て、さまざまな形での社会的、人間的貢献をしてきた「後期高齢者」たちの心といのちを犠牲にして、国民医療費の抑制を図ろうという市場原理主義的な「改革」を強行しようとするものである。

=====≪unquote≫

■私の見方:
(ビジネスパーソンも知っておきたいマクロ経済学的な視点)

 宇沢弘文〔注〕氏とは、1989年日本学士院会員、1995年米国科学アカデミー客員会員、1997年文化勲章、Econometric SocietyのFellow(終身)であり、1976年から1977年までEconometric Society会長です。

 また、経済学者の浅子和美氏、吉川洋氏、小川喜弘氏、清滝信宏氏、松島斉氏、宮川努氏、小島寛之氏、ジョセフ・E・スティグリッツ氏(ノーベル経済学賞受賞者)らは、宇沢氏の門下生だとされます。弟子の方が先に、ノーベル経済学賞(=スウェーデン中央銀行賞)を受賞してしまったという訳です。

 1928年生まれですので、今年の7月で80歳になられます。宇沢氏の経歴を示しましょう。

≪補足≫『ウィキペディア(Wikipedia)』から:
=====≪quote≫
〔注〕宇沢弘文(うざわ・ひろふみ)

経歴
 鳥取県米子市に小学校教員の次男として生まれる。宇沢家はもと西伯町法勝寺出身でのちに米子に移り代々米屋を営んでいた。父、祖父共に宇沢家の婿養子であり父は春日村の農家の生まれ。祖父は大工。宇沢が3歳の頃、父は教師をやめ家屋を処分し家族を連れて東京に出た。父は東京で商売に失敗し家に寄り付かなくなったという。

 一中、一高を経て東京大学の理学部数学科で学び、その後も数学科の特別研究生となったが、社会の病を治そうと経済学の道へ進んだ。戦後の数理経済学の牽引役として時代の最先端を行き、不均衡動学の分野で世界的な業績を挙げた。新古典派の成長理論を数学的に定式化し、二部門成長モデルや最適値問題の宇沢コンディションも彼の手による。かつては、森嶋通夫と共に、ノーベル経済学賞の有力な日本人候補と言われていた。

 やがて公害などの社会問題が酷くなると、現実から切り離され形骸化した数理的経済理論から、公共経済学などの現実経済の研究に進んだ。特に自動車の外部不経済性を痛烈に批判し、自らも自動車や電車を使わずに毎日ジョギングで通勤していた。成田空港問題の平和的解決にも尽力した。

 また著書『日本の教育を考える』(1998年 岩波新書)にて、数学オリンピック予選参加者の指導者・子供らに批判的な考察を加えている。

年譜
1928年7月21日  鳥取県米子市に生まれる
東京府立第一中学校(現東京都立日比谷高等学校)卒業
1948年 第一高等学校理科乙類卒業
1951年 東京大学理学部数学科卒業、1951年から1953年まで同特別研究生
1956年 スタンフォード大学経済学部研究員、1958年同助手、1959年同助教授
1960年 カリフォルニア大学バークレー校経済学部助教授
1961年 スタンフォード大学経済学部準教授、
1962年 経済学博士(東北大学) 博士論文:「レオン・ワルラスの一般均衡理論に関する諸研究」
1964年 シカゴ大学経済学部教授
1968年 東京大学経済学部助教授、1969年同教授、1980年同経済学部長
1989年 東京大学を定年退官し新潟大学経済学部教授に就任、東京大学名誉教授
1994年 中央大学経済学部教授(1999年定年退職)
1999年 中央大学経済研究所専任研究員、国連大学高等研究所特任教授
2000年 中央大学研究開発機構教授
2003年 同志社大学社会的共通資本研究センター所長

=====≪unquote≫

 宇沢氏は初期に、「新古典派の成長理論を数学的に定式化」するなどの業績で世界に名を轟かせます。そして、36歳の若さで、新古典派経済学の本山「シカゴ大学経済学部」の教授にもなります。絵に描いたような新古典派のパス(出世コース)ですね。

 しかし、この論考が示すとおり、「市場原理主義の日本侵略が本格化」を嘆き、やがて「すべての人々が人間らしい生活を営むことができるような、真の意味におけるゆたかな社会」を理想とすることを強調するようになりました。

 新古典派経済学の“真骨頂”とは、「市場原理主義」を推し進めるところにありますので、お決まりの新古典派経済学者であれば、その主張にいささか矛盾を感じるところです。しかしながら、宇沢氏は初期の頃から「社会の病を治そうと」していたようです。

 多くの新古典派経済学者は、この弊害に大概気づきませんので、それに警笛を鳴らすこともありません。従って、宇沢氏の主張は、とても意義深いものだと思います。偉そうですみません(^_^;) 。

 なお、「全国保険医団体連合会」とは、ウィキペディアによりますと、二大目的として「開業医の医療、経営を守ること」および「社会保障としての国民医療を守ること」を掲げ、運動しているところだそうです。日本共産党との関係を指摘する人がいるかも知れませんが、私の信条とはまったく関係ありません。ただ、この問題は、日本のよき仕組みを守ると言う点で、本来「右も左もない」ことです。

 年金制度に加え、医療保険制度は、一国の安定増進と貧困抑止などに大いに役立ってきたものです。従って、これらを改革することには慎重さを期することが求められます。ましてや改悪になるようなことなど、もっての他でしょう。

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