« 【講演】2008年通信業界には何が必要か | トップページ | 【掲載】2008年の通信(制度・政策編)・私はこう見る »

2007年12月27日 (木)

【一言】次世代高速無線通信の免許決定に想う

 昨日は久しぶりに大阪出張でした。年末、若干慌しいこともありまして(主に私の怠慢で)、このBlog更新が滞っていました。

 今般の「次世代高速無線通信」の免許の行方について、下述の記事のとおり、12/21(木)に正式に決定したようです。この件では、いずれ【一言】を記すつもりでいました。読者の方からのお問合わせもありましたので、本日の午後のある案件の前に(合間を縫って)、簡単に示しておきましょう。

(青の太字下線は、私が付しました。画像は記事に付されていたものです。)

(注1)「当初Blogアップ後の読者とのQ&A」を文中に付しました。
(注2)「地方バンド」の記述が不明瞭であることに、さきほど(23時前)気づきましたので、修正し更新致します。


=====≪quote≫
次世代高速無線通信免許、KDDIとウィルコムが取得
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20071221AT1D2108G21122007.html
(NIKKEI NET、2007年12月21日)

 総務省は21日、2009年に始まる次世代高速無線通信の免許をKDDIなどの事業グループとPHSのウィルコムに交付した。同日午前、電波監理審議会(総務相の諮問機関)にこの2陣営に免許を与える案を諮問し、即日で総務省案を認める答申を受け取った。2つの免許を4つの事業会社が競い合う激戦だったが、迅速なサービス展開を目指すKDDI陣営とウィルコムに軍配が上がった。

 次世代無線は屋外で電車や車で移動していてもパソコンなどの通信端末から高速インターネットに接続できる新しいサービス。当面はパソコンにカードを差し込む通信サービスになる見通しだが、将来は携帯端末などへの搭載も期待される。

 総務省は2.5ギガ(ギガは10億)ヘルツ帯の周波数を30メガ(メガは100万)ヘルツずつ2グループに与える方針を示しており、KDDI、ウィルコム、ADSL大手アッカ・ネットワークスとNTTドコモ、ソフトバンクとイー・アクセス連合の計4陣営が競っていた。
=====≪unquote≫


 昨日、Blogの読者から次のような書き込み(コメント)を頂きました。拙稿(私の備忘録のようなもの)にもかかわらず、お読み頂き有り難うございます。

=====≪quote≫
(略)
 いつもブログを興味深く拝見させていただいております。
 通信業界といえば、先日2.5GHzが、KDDIとウィルコムに割り当てられました。この決定を新保様は、どのようにお考えでしょうか?
 私は、決定プロセスを含め、今回の総務省の決定は、まったく納得がいかず、将来的に国益を損ねるものだと思っています。
 少なくとも国際規格であるWimax陣営2社に免許を交付することが将来的な国益、消費者利益に繋がることであったと考えます。
 また、KDDI確定の情報が各社ヒアリングの前に多数の報道機関で報じられ、結果その通りになったことも、今回の審査が「出来レース」であったとの懸念を生じさせます。
 この決定プロセスの不透明さ、秘密保持能力の無さは、決して許されることではありません。
 新保様のお考えを、ブログにてお聞かせいただければ幸いです。

=====≪unquote≫

 ごもっともなことだと思います。別途『エコノミスト』の新年特集号で、「次世代高速無線通信」について、一般読者向けの原稿を求められていました。先日の日曜に脱稿しましたので、それを参考にポイントを記しておきたいと思います。
(『エコノミスト』の原稿では、問題の所在が把握しやすくなるよう、図表もいくつかお付けしていますので、発刊された後には、こちらもどうぞ)

■私の見方:
(ビジネスパーソンも知っておきたいマクロ経済学的な視点)

 まず、『次世代高速無線通信」において免許の対象となった無線方式は、主に米インテルが推す①モバイルWiMAXと、②“国産”次世代PHSの2つに大別されました。お詳しい読者には、釈迦に説法でしょうが、簡単に特徴を整理しておきたいと思います。

モバイルWiMAX
 これは基本技術に「OFDMA」(直交波周波数分割多重)を用いたものです。
 通信速度はそれぞれ毎秒約40メガビット。従って、無線LANよりも若干遅いと言えましょう。

 WiMAXもマイクロセル化も可能ですので、下述の次世代PHSとその点で本質的な違いはありません。

======
(注)当初Blogアップ後の読者とのQ&A
 次世代PHSが自立分散制御を取り入れているのに対してWiMAXは導入していません。
 インターネットで調べたところ 、「(WiMAXは制御チャンネルを周波数で分けているため)
セル形状が複雑化する都市部等ではある一定以下にセルを小さくすることはできません」 (次世代PHS完全解説:
http://www.phs-mobile.com/data/xgp.html)という情報を見つけました。
 これが本当なら、都市部においてWiMAXは次世代PHSよりマイクロセル化が難しい事を示すと思うのですが、どうお考えでしょうか。


⇒ 私の記述は、「マイクロセル化も可能」というものです。ご指摘のような違いがあることは、PHS事業者からもWiMAX事業者からも聞いたことがあります。厳密な意味では、都市部のインフラ整備において、PHSのほうが有利な状況はあるのでしょう。
 獲らぬ狸の何とかになりますが、WiMAX整備において規模の経済性がやがて追求できるようなレベルになれば、両者(PHSとWiMAX)の整備コストの差は縮まっていくことでしょう。
======


次世代PHS
 こちらは「OFDMA+マイクロセル」を用いたものです。
 通信速度はそれぞれ毎秒約20メガビット。WiMAXや無線LANよりも、通信速度は遅いものです。

======
(注)当初Blogアップ後の読者とのQ&A
 次世代PHSは下り方向の通信だけでなく上り方向も20Mbps以上の通信が可能であり、下りの速度だけをWiMAXと比べて「遅い」とおっしゃるのは不公平ではないでしょうか。

⇒ ご指摘有り難うございます。そうでした。実際には、20メガも40メガも体感速度としましては、そう変わらないでしょうね。むしろ、「上り方向」の速度のほうが将来は重要だと思います。
 下述で少し触れます、来る「プラットフォーム層」や「Media2.0」の市場では、特にユーザーの参加・体験という観点から、これまでのユーザーの行動を変えるものに成りうるからです。経済的主体から社会的主体に。その意味では、別途上りが速い「HSUPA」の本格的な普及も望まれるところですね。
======

 上述のとおり、実は技術的にはWiMAXと同類(通信の物理層はほぼ同じ)です。つまり、「現PHS」は国産技術(正確にはNTTの技術)に拠るものですが、「次世代PHS」はこれとは異なり、米国の技術(主にインテル社)に負うところが大きいものです。

 同じPHSでも「現」と「次世代」が頭に付くだけで、まったく異なるものなのです。次世代高速無線通信問題で、いろいろとマスコミから取材を受けますと、このことを知らない方が意外に多いことに気づきます。また、免許申請の始まる前には、総務省担当者の間でも(政治家はほぼ確実に)、状況は同じだったのかも知れません。技術的な違いとそれに付随するライセンス問題(“国産技術”の次世代PHSは外国の技術に大きく負っているゆえのコスト負担の問題)のことなど、十分お分かりになっていたかどうかと。。。

 もっと明瞭に申し上げれば、次世代PHSサービスを実現するための肝になる機能を盛り込んだチップは、米インテルの意思(設計など)に左右されているはずです。また、ウィルコムの資本構成を見ますと、カーライル(GEの元CEOジャック・ウェルチさんが率いる買収ファンド)が6割ほどの大株主なのです。

 私はウィルコムにも大いに頑張って欲しいと思いますが、マスコミが報じるような、何から何まで“国産”というイメージとは、かなりほど遠い存在になっていることを、ここに記しておきましょう。
 
 さて、事実上2つの技術方式をかついだ、4つのグループが免許獲得に凌ぎを削った結果、KDDIグループとウィルコムに免許されました(2007年12月21日)。

 私がこのBlogでも繰り返し述べている点になりますが、審査過程では、〔A〕経済成長という量の拡大、ひいては〔B〕通信市場拡大、〔C〕国際競争力強化という視点が十分反映されていたのでしょうか。ここが実は大変重要なポイントだと思います。多くの皆さんは、ある局面や狭い領域のみを考えがちになり、結局“合成の誤謬”(≒自縄自縛)にいつまでもトラップされ続けています。

 KDDIグループとウィルコムの2陣営のサービスは、2009年前半に始まる予定のようです。この次世代無線技術は、既存携帯電話技術の4Gに至る流れに対し、あくまで補完的な位置づけ(携帯電話との併用)だと思います。ただ同時に、将来の通信市場への重要な布石となるとの期待もあり、各社陣取り合戦をしてきた(している)ということだと思います。

 ところで、免許対象の電波の配分方法は、どのようになっているのでしょうか。

免許対象の電波帯域
 全国バンドを2つに分け各30MHz幅(計60MHz幅)、その間に地域バンド10MHz幅が用意されています。米国や台湾でのWiMAX向け190MHz幅の割当てと比べますと、通信機器の量産効果は出しにくいでしょう。

 総務省はICT国際競争力会議を主催しています(私もそのWGの構成員ですが)。上記〔C〕国際競争力強化の観点から見劣りする状況にあります。もちろんお国の事情(これまでの電波の有効方法)の違いがありますので、一概にわが国規制当局に瑕疵があったなどとは言えないでしょう。わが国の現況では精一杯だったのかも知れません。

 2011年に向けての地上デジタル放送の移行が予定通り進んだ後の2012年には、新たな電波再編が予定されています。その時には、今般の2.5GHz帯の両側の帯域(現在のN-Star向けとモバ放!向け)もその再編の対象になる可能性があるでしょう。

 次に、今回の免許獲得合戦において、意外に知られていないことを記しましょう。

地方バンドの行方(隣接する全国バンドとのマッチング問題)
 地方バンドは既にWiMAXに確定していたようですので、今回の決定により、地方バンドと全国バンドとがお互い異種システム(WiMAXと次世代PHS)となります。すると例えば、周波数帯域は、「次世代PHS(全国) ─ WiMAX(地方) ─ WiMAX(全国)」 といった並びになります。

  その結果、【1】割当て電波帯域60メガ幅をフル活用できず規模の経済性が発揮できません。ひいては、国際競争力の強化(⇒上記〔C〕)にも影響が出ることでしょう。
 もしも、全国バンドの2枠ともWiMAXであったならば、その間に挟まれた地方バンドがWiMAXであるため、ガードバンドを無くせるか、そのバンド幅を縮小することもでき、1つの方式により、最大限の規模の経済性を追求できるようになるはずです。

 また、【2】全国バンドと地方バンドとが異種システム(WiMAXと次世代PHS)となったため、特に全国バンドの「次世代PHS」の当該地域でのサービスインの状況しだいでは、同地域の地方バンド版WiMAXサービスに支障が出る可能性があります。こうなると、総務省が進めている「全国ブロードバンド・ゼロ地域解消化」とのミスマッチも懸念されます。

 このあたりの議論は、免許審査決定プロセスにおいて、どうだったのでしょう。。。

 これら2つのことを考慮しますと、次世代PHSには「2.0GHz帯」で大いに存在感を示して頂く案も捨てがたいものだと思います。こうなれば、WiMAX陣営の2グループが、2.5GHz帯を利用でき、次世代PHSも新たな追加電波枠(2.0GHz帯)を利用可能になる(もちろん、別途正規な手続きは必要になるでしょうが)。

 この2.0GHz帯は、IPモバイル社が資金繰りの問題もあって、免許が返上された帯域です。現PHSの基地局は16万ほどもあり、この有益なインフラを利用しない手はありません。ただ、今般の2.5GHz帯でなくとも、今からでも2.0GHz帯向けに切り替えることは、そう難しくないはずです。

(普通でしたら、このようなBlogで、1企業の行方をどうこう書くのははばかられることですが、今回は電波という貴重な国の資源をいかに有効利用するかの問題ですので、敢えて触れました。)

MVNO市場の活性化の面から

 さらに総務省が推し進める、【3】MVNO(携帯電話等の無線インフラを他社から借り受けてサービスを提供する事業者)の参入による、電波有効利用ならびに市場活性化の出鼻をくじくことにならないでしょうか。

 「MVNO中心主義」を謳うソフトバンクやイー・アクセスの市場参入が果たせない場合、このMVNO市場活性化への影響は大きそうな気がします。

 もしMVNO方式によりディズニーなどの異業種からの新規参入を促せば、これまでにない発想のサービスも期待できると思います。また、将来の多様なイノベーション創出につながるプラットフォーム(場)ともなりえることでしょう。総務省も、このプラットフォーム市場の発展には大きな関心をもっているはずです。

 私はプラットフォーム層とは、将来「新たなメディア(Media2.0)」になるようなポジションを占めるものだと考えています。これまでの「通信と放送の融合」問題は、Media2.0への流れの中で理解されるようになるのではないかと。詳しくはまた別途としましょう。

マクロ経済面から

 一定の信用創造が伴う経済政策を通じ(潜在成長率に達する手前までのマネー供給策ではインフレの恐れはないはずです)、無線市場に新たな購買力が喚起されたとしましょう。
 こうなればそれは、「総需要=総所得」の増大が見込めますので、高速無線サービス市場は拡大するでしょう。そして、現下の飽和感漂う携帯電話(将来の情報通信)における端末の多様化とその量の拡大につながり、メーカーへの波及効果も期待できるのではないかと思います。国際競争力の強化にもプラスにつながるはずです。

 こうなれば消費者にとっては、当面月額3,000~4,000円ほどで、全国のスポットでリッチな映像などを楽しめ、コミュニティ内の自身の作品を共有することも容易になるでしょう。またビジネスユーザーにとっては、高速で便利な“モバイルオフィス”機能を享受することにつながることでしょう。

 適切なマクロ経済政策とのセットで進める次世代高速無線通信インフラの整備は、ユーザーの利便を高めると同時に、TFP(全要素生産性)を増大させることにもつながるはずです。

 政権は安倍さんから福田さんに移り、「経済成長と生産性」に関する関心事は薄れているかも知れません。また、生産性のみを全面に押し出すサプライサイド派の考え方では、必ずしも必要十分な政策とはなりませんが、「生産性の向上」が1つの鍵を握ることも確かでしょう。

 以上、今般の2.5GHz帯を巡る問題は、無線通信市場というミクロ経済面のことだけではなく、プラットフォーム層を含む情報通信産業全体の発展や、関係機器などの国際競争力強化の鍵をも握っているうえ、地方活性化(そのためのインフラ整備の促進)、さらには国の経済成長にも関わる要素を含んでいます。

 今般の免許決定では、結果、これらの要素を反映したものになりにくい(ほとんどならない)のではないか、つまり、真の国益追求の観点からは将来に禍根を残す決定となったのではないか、このことが懸念されるところです。

 そして、このようなマクロ経済的な視点が、たいがいいつでも欠如していることが、いつまで経っても閉塞感から抜け出せない大きな問題であろうと感じています。
(今回は、このようなご回答で宜しいでしょうか。。。)

|

« 【講演】2008年通信業界には何が必要か | トップページ | 【掲載】2008年の通信(制度・政策編)・私はこう見る »

3.情報通信・メディア・ハイテク産業」カテゴリの記事

コメント

はじめまして。ackyと申します。
2.5GHz帯割り当てについての記事を大変興味深く読ませていただきました。

そこで質問なのですが

・次世代PHSは「通信速度はそれぞれ毎秒約20メガビット。WiMAXや無線LANよりも、通信速度は遅いものです。」

とのことですが、次世代PHSは下り方向の通信だけでなく上り方向も20Mbps以上の通信が可能であり、下りの速度だけをWiMAXと比べて「遅い」とおっしゃるのは不公平ではないでしょうか。

ご存知のとおりCDMA2000 1X EV-DO Rev.AやHSUPAにおいても上り方向の高速化が図られており、これからはモバイルアクセスにおいてもアップロード速度が重視されることになるものと思います。


・また「WiMAXもマイクロセル化も可能ですので、下述の次世代PHSとその点で本質的な違いはありません」

とのことですが、次世代PHSが自立分散制御を取り入れているのに対してWiMAXは導入していません。

インターネットで調べたところ

「(WiMAXは制御チャンネルを周波数で分けているため)セル形状が複雑化する都市部等ではある一定以下にセルを小さくすることはできません」

(次世代PHS完全解説
http://www.phs-mobile.com/data/xgp.html)

という情報を見つけました。
これが本当なら、都市部においてWiMAXは次世代PHSよりマイクロセル化が難しい事を示すと思うのですが、どうお考えでしょうか。

投稿: acky | 2007年12月27日 (木) 12時38分

昨日、コメントさせていただいた後藤です。
私のコメントに対し、お忙しい中、詳細に回答していただき、誠にありがとうございました。
大変参考になりました。
新保様の仰るとおり、今回の決定は、将来に禍根を残す結果となることが懸念され、大変残念に思います。
また、次世代PHSについての、技術的理解、ライセンス問題への理解が、少し前まで総務省担当者を含む関係者の間で、あまり認識されていなかった可能性があるとのご指摘は、初めて知りました。
国の重要な決定をする人達が、こんなにレベルが低いとは・・・。
それにしても、なぜ総務省は、このような愚かな決定をしたのでしょうか。本当に理解に苦しみます。
彼らは「国益」という観点で、マクロ的に物事を考えることはできないのでしょうか。
今回の決定を見ると、彼らには「国益」よりも優先すべき何かがあるとしか私には思えません。

2.5GHz帯は、MVNO中心主義を謳うイーアクセス、ソフトバンク陣営とKDDI陣営に免許を与える(その結果、アッカネットワークスは、イーアクセス、ソフトバンク陣営に新たに出資、合流、もしくはMVNOとして事業展開する)。
アイピーの跡地である2.0GHz帯は、基本的にウィルコムの次世代PHSに利用させることを第一優先に今後早急に議論、対応する。

・・・という「全ての事業者がある程度納得でき、なおかつ国益にもかなう決定」を当然総務省がするものだと私は考えていました。
本当に残念です。


投稿: | 2007年12月28日 (金) 02時07分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/408903/9591178

この記事へのトラックバック一覧です: 【一言】次世代高速無線通信の免許決定に想う:

« 【講演】2008年通信業界には何が必要か | トップページ | 【掲載】2008年の通信(制度・政策編)・私はこう見る »