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2007年9月 2日 (日)

オリジナル原稿(今秋の次世代高速通信の行方予想)

 この文章は、9/3(日曜)の夜半に、翌日の「WiMAX Japanフォーラム 」招待講演向けに、頭の整理のため書いておいたものです。
 その後の9/6(木)、NIKKEI NET(BizPlus)の「コラム」、この短縮版が掲載されましたので、アップしておきます。

≪オリジナル版≫(やや長いです)
■第16回「今秋の次世代高速通信2.5ギガヘルツ帯の行方は予想できる」 (2007/09/02)

 いま2.5ギガヘルツ周波数帯を利用した次世代高速通信サービスを巡る動きがとても熱い。

 総務省はこのサービスの事業化に向けた免許申請について同年9月10日に受け付けを開始すると発表、締め切りは10月12日の見込みだ。移動体通信サービス用途として、免許が与えられるのは2事業者のみだ。総務省は免許付与の条件として第3世代携帯電話事業者(ドコモ、KDDIほか計4社)単独での事業化を認めず、関係会社を含めて出資比率を3分の1以下と制限している。この条件を前提に今秋の動きを予想してみよう。

パブリックコメントにおける主要な留意点または論点

 総務省による免許付与(今回は全国バンドに限定)の際の、主要な留意点または論点(7月のパブリックコメントにおける各社の意見)を列挙しよう。

免許割当て: 
 
a)免許認定から3年以内にサービス開始、b)5内以内に人口カバー率50%、c)無線設備の開放については、各事業者はそのまま受容しているようだ。
将来の2.5GHz帯の再再編: 
 隣接衛星通信サービスとの共用、調整〔インテル、三洋電機など〕はどうか。この点は後述のとおり、今回および次回の免許付与に大きな影響を及ぼしそうだ。

技術間競争性: 
 4ないし現実的な2つの技術競争が有効、実質はWiMAX(ワイマックス:長距離伝送が可能な無線通信規格)と次世代PHSの2つの技術方式による競争が有効ではないか。
規格統一性: 
 システムの規格統一による効率化(ガードバンド圧縮)〔イー・モバイルなど〕はどうか。規格を統一してしまった方が、すなわち、同一技術方式(実質WiMAX?)を採用した異なる2社(2グループ)間の競争の方が、国際事業展開もしやすいのではないかという考えもあろう。

国内のローミング性: 
 公正さ、協力度合いなど〔イー・アクセスなど〕はどうか。この点、MVNO(仮想移動体通信事業者)の日本通信とドコモとの間で、最近料金面で折り合わず両社に禍根を残した経緯がある。
国際事業展開性: 
 能力と意欲など〔日本通信など〕はどうか。総務省のICT国際競争力会議がスタートしており、今回の電波再編にも注目が集まる。この基準も無視し得ないものだ。

市場の関心は2点に集約されている

 最近の各社の意見を汲み取ると、市場関係者(携帯電話会社、その関連サービス事業者、メーカー、関係業界団体など)、あるいはブロードバンドをもっと自在に使いたいと感じているユーザーの関心は、概ね次の2点に集約されるであろう。

(1)対象となる「4つの技術方式」のうち、事実上有力な「2つの技術方式」(モバイルWiMAXと次世代PHS)がともに選ばれるのか、それとも国際標準の取り組みで一歩も二歩も進んでいるWiMAXのみとなるのか。

(2)今回の免許割当ては2社(または2グループ)となるが、その2社(2グループ)はどこになるのか。その際の選定基準やロジックはどんなものになるのだろうか。

 これらのことを予想してみよう。

次世代PHSを含む2方式が選ばれるのか、それともWiMAXのみとなるのか?

 まず(1)について。「4つの技術方式」を、慣例的な言い方で示すと、インテルほか日本の多くのメーカーや携帯電話会社4社が推すモバイルWiMAX、ウィルコムが推す次世代PHS、クアルコムの提案に基づく拡張FlashOFDM、京セラの提案に基づく拡張iBurstということになる。

 では事実上有力な「2つの技術方式」とはどういうことか。それはそれぞれの方式を、国際標準化の進展状況、主な開発主体の存在感(発言権)、国内での実験状況、そして各国の導入実績などの観点から判断すると、WiMAXと次世代PHSの2つであり、マスコミの論調も一見この2つで決まりのように報道している。もし「国内」競争の枠に留まるならば、この選択肢も無いことはないだろう。

 問題は、今秋の免許の決定時に、【A】2技術方式を残し、“技術間競争”を想定しているのか、あるいは【B】事実上最有力の“国際標準的”なWiMAXのみを残すのか、その選択が私たちの国益にいかに適っているのかの点にある。

 まず【A】について。「次世代PHS方式」を加えた、「2技術方式モデル」を最終的に残すケースは、将来に禍根を残すおそれがある。「PHSは国内と海外に実績がある」と言われる。実際、国内市場の契約数は500万超、人口カバー率99.3%、基地局数約16万のネットワーク網を構築している(携帯電話会社のそれは多くて4万程度)。また中国市場では、“小霊通”(シャオリントン)として、契約数にして1億2,000万超もの実績がある。“日本発”の通信系技術による海外での数少ない成功例と言えよう。霞が関や永田町ではよく知られた、彼らにとっても誇らしいケースだ。さぞかしシンパシー(共鳴感)を誘っているのではないだろうか。私はこの一見心情的にしか映らない背後に、経済合理性を踏まえた「国内戦略と海外戦略」があればそれでよいと考える。

 しかし、「現PHS」と「次世代PHS」の技術はまったく異なる。後者について記そう。通信技術は厳密には7つの階層で表現される。その基底を成す物理層は「WiMAX」とほぼ同じであるとのことだ。こうなると仮に今秋、次世代PHSをウィルコムに免許した場合、目下同社は次世代高速通信市場に単独で進出しようとしているため、実際のビジネス展開で特許権の使用料がかさみ、いずれ競争力を失うことにならないか。ましてや国際競争力の強化につながることは極めて期待薄となる。頼みの中国であっても、現PHS(小霊通)は日本と同じ1.9ギガヘルツ帯を使用しているのであり、次世代高速通信向けの国際標準的になりつつある2.5ギガヘルツ帯とは異なる。中国政府も自国の利益を考えると、この帯域でまだ何の実績もない次世代PHSに免許することはとても考えにくい。

 では【B】についてはどうか。事実上最有力の“国際標準的”なWiMAXのみを残す「1技術方式モデル」となるのだろうか。この場合、免許は2社に付与されることが決まっているので、このモデルを採る場合、誰・どこに免許されるのかに関心が向く。

2社の顔ぶれはどうか、選定はいかなる基準とロジックとなるのか?

 続けて(2)の「誰・どこ」について予想してみよう。株価の短期予測と異なり、予想する際の与件がある程度絞られているので、特段の非合理的な要素が紛れ込まない限り、あらかた推定はできる。

 「1技術方式」の場合、つまりWiMAX陣営で2社が選定される際の、「今回」の合従連衡の様子と“次回”を概観して見よう。既存携帯電話4社による今秋の想定免許事業者への経営関与度は、「議決権の1/3未満」に制限されているとは言え、特にドコモとKDDIの事業に関する「意欲と能力」は絶大であるから、さまざまな打ち手が出てくるだろう。各社の思惑を想像することで、次のようなシナリオが描けよう。

シナリオA: ソフトバンク=イー・アクセス陣営はかなり有望?

 携帯電話市場の上位2社に比べ、割当て帯域幅が少なく、いち早くパートナーシップに動いた「ソフトバンク=イー・アクセス陣営」(イー・モバイル含む)は、かなり有望ではないか。

 帯域幅が少ないことについては、実際ソフトバンクの松本徹三氏(執行役副社長で技術統轄兼最高戦略責任者)も再三指摘しているところだ。したがって、「ソフトバンク=イー・アクセス陣営」は、ドコモ陣営やKDDI陣営よりも、免許取得において有利だろう。

 また、規制当局は日本の携帯電話市場がまだ非競争的であるとみなしていることだろう。このことは、HHI指標(ハーフィンダール・ハーシュマン・インデックス)でも示される。これは、ある産業の市場における企業の競争状態を表すもので、1社で市場を独占する場合その値を1万とする。数字が小さいほど競争的であるとみなす。日本のHHI指標が3,800弱であるのに対し、主要国の携帯電話市場のHHI指標は、ドイツ3,000余、英国2,300余、米国1,900余といった具合でかなり低く、競争的であるとされている。同市場シェア1位(52%)のドコモや同2位(28%)のKDDIに対し、同市場3位のソフトバンク(市場シェア16%)と同4位のイー・アクセス(同ほぼ0%)へ免許することの根拠が、この点からも見出される。

シナリオB: WiMAXを担ぐ2グループを巡る場合の合従連衡は混沌?

 WiMAX技術方式に2グループが割り当てられる場合、残り枠は1つ。ドコモ陣営かKDDI陣営かになろう。もし市場1位のドコモが当確となれば、これまでのドコモやソフトバンクらとの競合関係から、市場2位のKDDI陣営が現在有望と推定される「ソフトバンク=イー・アクセス陣営」に接近することが考えられる。

 寡占市場で有効なゲーム理論のペイ・マトリクス、すなわち2~3社程度の少数企業が支配する市場下であれば、それら企業にとっての経済的利得を分析(どのような行動選択が最大の利益を生むかを考察)することにより、このように落ち着くことが示されるだろう。

 ここで補足をしておこう。ADSL通信事業者の「アッカ」を中核事業者として担ぎ、そこに日本通信や楽天、あるいは外資を含むファンドやメーカーが寄り添うパターンも可能性としてはあろう。しかし残念ながら、総合的な実力や実績を考えるとその可能性は高くないだろう。アッカについては、ここ数年NTTの求心力圏を脱しようとする動きあり、ドコモ以外と組む可能性も予想されたが、最近はドコモとの提携を積極的に模索しているようだ。

シナリオC: ウルトラC(将来の可能性)はあるか?

 WiMAX技術方式に2グループが割り当てられ、かつ「ソフトバンク=イー・アクセス陣営」が有望であれば、ドコモまたは KDDIは参入機会を失い、片陣営は今回蚊帳の外に置かれる。ただここで気になるのは、両社(ドコモとKDDI)がいつに無く嫌に大人しいことである。ではここで、「すべての主要プレイヤーを満足させる方策はないだろうか」。規制当局はこう思慮しているかも知れない。ウルトラCになるが、ないことはない。免許対象の両側の隣接領域を開放し、ここをドコモ陣営とKDDI陣営に貸与する方策だ。

 今回の割当て帯域より低い側の周波数を用いて現在、衛星移動電話サービスである「ワイドスター」がドコモにより提供されている。また、同帯域よりも高い側の周波数を用いて、モバイル放送株式会社(東芝、シャープ、トヨタなど90社が出資)により、モバイル放送の「モバHO!」が提供されている。

 前者の「ワイドスター」の現行契約数は2万程度であり、全国の自治体や企業のバックアップなどに使われている。また後者の直近の契約数は公表されていないため推定ではあるが、その数は微々たるものだろう。つまり、国民の財産である電波の希少性を考慮すると、安全保障やセキュリティー面に支障さえなければ(他の手段で代替できるのであれば)、この両側の帯域の有効活用をはかる(経済価値を最大化する)べく電波の再再編がやがて浮上する可能性もあるのではないか。

 「ワイドスター」の免許は2007年10月27日に切れるし、「モバHO!」のそれは2008年10月31日までだ。ドコモまたはKDDIが今秋、もし“落選”の憂き目に会うとすれば、水面下ではそれに見合う落としどころが、すでに関係者によって模索されている可能性があるのではないか。

まとめ1 (規格統一か技術間競争か?)

 以上まとめよう。最も国際標準的なモバイルWiMAXのみに「規格統一」されるか、次世代PHSも加えた2技術方式による「技術間競争」のどちらを描くのか。どちらを選定するかは、真の国益を最大にできるかどうかにかかっている。海外でも、また技術仕様でも、WiMAXビジネスが整備されつつある直近の足元のみを見れば、ともにWiMAXを担ぐ2陣営間の国内競争を優先させよう。ひいては、国際競争力の強化にもつながる可能性が高そうだ。

 ただし、日本企業(特にメーカーら)にとって、米クアルコム社の特許戦略(高額の使用料を日本企業が現在も支払わざるを得ない状況)に比べ、WiMAX推進者(米インテルら)とはその点でも組みしやすいパートナーシップとは言え、規模の経済性(スケールメリット)を追求できるビジネスモデルが本当に描けるのか。ここは依然懸念される。

まとめ2 (国は何をどう選択するか?)

 別のシナリオも存在する。規制当局立場となって想像してみよう。元々はNTTの技術だが、実績ある“国産PHS”の次世代版をウィルコムが発展させ、近隣国(中国など)市場を開拓できるのではないかというものだ。ただ2.5ギガヘルツ帯(国際標準)については、中国でさえ現PHSと異なる「次世代PHS」に免許する可能性は極めて小さいだろう。果たして中国が、日本国内の次世代PHSの実績が蓄積されるまで待つことは考えにくい。

 本当に“国産”の色が濃いならばともかく、中核技術で特許権と同使用料支払いの前提がある場合、事業化後にジリ貧になること必至だろう。ならば、単独進出ではなく、パートナーシップの層が分厚く世界市場も最初から視野に入れるなど、競争のスケール追求を予め想定しておくことが得策となる。

 ただ、「実質2技術方式による競争」(WiMAXと次世代PHSか?)が、先々“不透明/不確実”な市場では有効なのだという見方もある。市場に“不透明/不確実”さが強そうな場合、何もかも政府が決めずに市場原理に委ねることで、「競争」という“神の見えざる手”のメカニズムを導入することで一定の経済的効率性を追求するわけだ。このような市場原理信奉主義的な考え方は、古典派または新古典派経済学に見られるもので、市場において需給が均衡するという前提で世界を観ている。

 問題は、いずれの派も市場の富の“配分”を重視するだけであり、次世代高速通信に期待される“量”の問題、つまり市場に新たな需要をどれだけ喚起できるかという視点が欠如している。特に規制当局または総務省(経産省であっても同様)は、この“量”の問題にはあまり関心がなさそうに見える。真に“量”の問題に対して解を与えるには、財政政策と金融政策がセットで施される必要があるが、この領域は別の部局・部門の問題と考えているようだ。

 この経済的利得(量の問題)は、「規格統一下での競争」(同一技術による2陣営)によるスキームの方が、最大化できるだろう。今般の「狭い帯域」(30メガヘルツ幅×2)での競争は、それでなくとも“細切れ・箱庭競争”的である。一方、海外(米国、台湾など)では190メガヘルツ幅ほども割り当てている。この時点でスケールメリットに差があるのだ。1技術方式で計60メガヘルツ幅での競争か、2技術方式によるそれぞれ30メガヘルツ幅での競争とするか、規模の経済性を考慮すればどちらが賢明かは自明である。電波は国民の財産ゆえ、政策の失敗(判断ミス)は、遡って責任が問われるべきものだろう。今秋の「比較審査」においては、中期的な“国益の時間積分”、つまり数年後にわが国がとり得る利益の総量ではかるべきだろう。

まとめ3 (今秋の攻防で、決してお終いではない)

 「2社枠」に漏れたプレイヤーは、“次回”を狙えばよい。近い将来、2.5ギガヘルツ帯の再再編が隣接帯域(通信衛星によるワイドスターやモバHO!)まで及ぶ可能性もあろう。このことを前提にできる場合、上位者が“待ち”を選択する「リアルオプション戦略」が効いてくる。すなわち、今回のビジネス機会を選択するよりも、大きな利得(最適な事業環境の選択肢を採ることで、将来得られる追加的な利益)を獲得できる可能性も出てくる。そのためには、今回の2社(2グループ)が新規市場を開拓している様子を、ずっと観察し学習し続け“次回”の機会に備えればよい。そして機会到来時に、「規模・範囲の両経済性」を一気に発揮できるような戦略オプションのカードを切ることは、上位者の経営戦略の要諦(正攻法)でもある。

 現在進められている地上デジタルTV放送への移行が2011年に予定通り進めば、2012年には700メガヘルツ帯ほかかなりの空き電波の有効活用も視野に入る(実際、国にはその計画がある)。米グーグルは、米国で来年初めに開催予定の無線周波数オークションで、同帯域(700メガヘルツ帯)市場に参入する模様だ。この帯域は現在の携帯電話の主力帯域(800メガヘルツ帯)に近く、新たな携帯電話向け領域としても期待されている。こうなれば、日本での“次回”ないしそれ以降の電波再再編市場では、外資を含むさらなるさまざまな合従連衡が起こることだろう。今秋の攻防で、決してお終いではないのだ。

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