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2007年7月 4日 (水)

再び、携帯電話WiMAXの免許方針の行方について

 昨日(2007年7月3日)に2週間ほど前に脱稿していた原稿が、NIKKEI NET(BizPlus)にアップされました。
 アップされた内容は、次のオリジナル原稿を短くしたもので、第15回「携帯電話WiMAXの免許方針に残る疑問」(2007/07/03)です。
 やや長いかも知れませんが、総務省の今般の「方針」に対する直接のコメントなどは、このオリジナル原稿の方に詳し目に記しています。

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■「携帯電話WiMAXの免許方針はそれでよいのか?」(NIKKEI NET、2007/07/02)

 携帯電話業界がこれまで大きな関心をもって待っていた、WiMAX(ワイマックス)という次世代の高速無線通信の免許(ライセンス)方針が先月出た。それなりに思慮された跡は見られる。しかし、携帯電話の電波資源をもっと有効に活用する手段は本当にこれでよいのか。この免許方針は私たちユーザーが利用できるサービスの種類やグレードなどにも、またひいては、わが国の携帯電話産業の競争力や経済発展にも関わりがあるものだ。

◆時代はIPとモバイルへ

 「WiMAX」なる言葉を初めて耳にする読者も少なくないだろう。やや専門的になるかも知れないが、今後の携帯電話の世界ではキーワードになるものだ。私たちユーザーも来年には、その恩恵に預かることになる。これは無線通信技術の一規格のことでWorldwide Interoperability for Microwave Accessの略。ブロードバンド通信回線(光ファイバーやADSLなど)の敷設や利用が困難な地域では、私たちユーザーの自宅のすぐそばのエリア(およそ数十メートル)を指す、ラストワンマイルの接続手段になりうるものだ。海外でも大変ホットな話題となっており、その行方には大きな関心が寄せられている。

 WiMAXには高速移動体通信用の規格(モバイルWiMAX)も策定されている。本稿でとり上げるものだ。このモバイルWiMAXにより、さらなる高速性とそれに伴う映像サービスや写真付きなどのビジネス資料などの大容量データ通信などが登場することだろう。また、使用できる端末の種類が増え利便が高まることで、飽和感の漂う携帯電話市場が再び活性化されるとの期待が大きい。携帯電話向け通信技術はどんどんIP(インターネット・プロトコル)化が進み、いまや“モバイル”にまで及んでいる。事業の機動性を高め多面展開を一層可能とするIP技術が、新たなモバイルWiMAX市場の創出と進化を推し進めることになるだろう。

◆総務省のモバイルWiMAXへの免許方針と各社の反応

 これまで総務省から周波数帯割当計画を含む免許方針案が示され、モバイルWiMAXの事業者公募が行われてきた。電波の周波数は国にとって希少資源であるため、規制当局による免許の対象となっている。タクシー無線やテレビ放送局などと同様に、事業者が勝手には使えない。今秋にも免許交付先企業が決まるモバイルWiMAXを巡り、通信各社が合従連衡を模索し始めたようだが、総務省は既存の携帯電話会社に免許を与えない方針だ。なぜか。またその影響などについて後述しよう。

 これに対しNTTドコモとKDDIなど既存携帯電話各社は反論などを提出したが、覆すのは難しいとの見方が多い。現状ではアッカ・ネットワークス(ADSL事業が主)、ウィルコム(PHS事業が主)の2社が有力視されている。したがって既存各社は、いまの逆境から何とか自社に有利な足がかりを得ようと、他社との連携を模索し始めている。

◆なぜ、モバイルWiMAXなのか(その超高速性)

 モバイルWiMAXの速度や使用環境を比較してみよう。読者の多くがお使いのはずの、最新の携帯電話(第3世代のWCDMA方式)であっても最大速度は毎秒384キロビットの規格であるため、重いファイルや映像などのデータ通信を利用する場合は不便なはずだ。また、イー・モバイルが今年3月末に、最大毎秒14.4メガビットのHSDPA(High Speed Downlink packet Access)方式の高速サービスを開始した。この方式はいわゆる3.5世代(WCDMAの改良版)と言われているもので、かなり高速だ。先日ある件でお会いした同社の安井社長に目の前で実演頂き、そのスピードを実感した。確かに速く、パソコンでインターネット接続する際のモデム代わりにもうってつけだ。

 それに対し来年には使えるようになるとされる、このモバイルWiMAX方式(IEEE802.16e)では、最大毎秒75メガビット(下り)というから、さらに高速である。固定ブロードバンドであるADSLサービスでは、最大毎秒50メガビットクラスが増えてきた。私も固定系サービスでは主にADSLを使っており、実測で毎秒20~30メガビットほど出ているので大概のことには不自由しない。便利になったものだ。しかし、WiMAXの毎秒75メガビットという速度は、私たちユーザーの自宅やオフィスから離れたモバイル環境下にあって、ADSL以上光ファイバー並み(最大毎秒100メガビット)の超高速サービスを実現する。技術の進歩は目覚しい。

◆希少資源の扱いの難しさ

 モバイル通信産業は希少資源(電波)を扱うため、単に市場メカニズム(例:オークション方式)に任せておけばよいというやり方を、手放しで支持することはできまい。当該資源の独占傾向が高まれば、市場の効率化が妨げられる可能性が増すことにもなりかねないからだ。

 少し前(2005年6月)に霞が関のカンファレンスにて、米連邦通信委員会(FCC)戦略計画局のケネス・カーター氏(ビジネス・経済分野のアドバイザー兼法廷弁護士)が指摘したように、「米国ではこの1年、無線帯域に関する政策が見直されている。FCCは指示や命令一辺倒というよりも、市場の力を導入する方向に向かっている。政府は無線を実際に使う人ほど分かっていない」という実態があるようだ。これについてはわが国にも同様なことがあるのではないか。

 また、指示や命令を減らすことで「ライセンスが不要な無線帯域も増える。技術がすべてを変え、第3の新しい機器がどんどん生まれてくるだろう」、と主張する同氏の発言は傾聴に値する。ライセンス不要であるため収支報告や設備拡充などの報告義務は不要。しかし、電波が希少資源であることは変わりないため規制当局への届出などは必要になる。そのことで当局は電波資源を管理する。ライセンスに関する指示や命令を減らして、ライセンス手続きそのものを減らす。このことにより免許不要の無線帯域を増やすことで、より市場原理を優先させようというものだ。

 確かに、市場参加者が免許を必要とする電波帯域を選べる選択肢を用意しておくことは大事だろう。規制当局が免許するだけの一方的なやり方に対して、市場参加者が開発した技術、例えばソフトウェア無線技術(初歩的なものは実用化段階にあり)などにより、電波使用時の電波の空き具合を検知して、電波を有効活用するなどの方式に対する検討も余地ありということだろう。

◆ところで電波全体の再編(周波数割当て)はどうなっているの?

 周波数帯域の配分問題として関連があるので、放送の話をしておこう。2011年7月に地上アナログTV放送が予定通り終了すれば、2012年7月以降、現行の370メガヘルツ幅(地上アナログ放送分)から240メガヘルツ幅(地上デジタル放送分)にまで、周波数帯域が圧縮される見通しがある。結果、130メガヘルツ幅の貴重な空き周波数が生じる。この空き周波数帯域は、今般のモバイルWiMAXへの割り当ての2倍近いキャパシティとなる。したがって、いかにその空き電波を戦略的に有効利用できるかがポイントになる。

 「“電波特区”を設けて、規制フリーで競わせてはどうか?」。これは私が年初(2007年1月24日)招かれて、経団連の情報通信委員会ワーキング・グループ向けに講演した際に持ち出した一試案だ。通信事業者、電機メーカー、CP(コンテンツ・プロバイダー)などにも、複数以上の新TVチャネル枠を提供するものだ。例えば、IPベースのテレビ、次世代テレビ(TV2.0)などのさまざまなな競争方式により、一定期間を経た後、経済的な最大利得(収益規模とその成長性など)および社会的な理解(コンテンツの健全性など)が得られるようなビジネスモデルなどの方式を選定するものだ。

 より具体的には、現在の放送広告モデルにバイラル(口コミ)要素を加えた新広告モデルを採用したり、携帯電話がリモコンに早代わりすることでモバイルとテレビを融合させたりなど、現行の放送関係者以外に新規市場参加者を加え、新たなイノベーションを誘発するビジネスモデル開発の余地を残しておくことだ。その時は意識していなかったが、上記カーター氏のテレビ版と言えるかも知れない。同様に携帯電話の電波資源をもっと有効に活用する手立ては他にもあるだろう。このように、これまでテレビと携帯電話向けに別々に割り当てられていた電波資源の配分の仕方に対し、両者の融合を前提とした電波の有効利用が新たな産業を胎動させることにつながるのではないか。

◆携帯電話の周波数配分の問題はいかに?

 残念ながら今般、利用できる電話帯域幅のキャパシティの問題(2012年前の時点では電波開放は不十分であること)もあって、わが国ではそうしたオプションのような仕組み・制度はない。ちなみに、使用「帯域」(=周波数バンド)は2.5ギガヘルツ帯(人工衛星やレーダーなどの大規模社会システムが使用)であり、携帯電話向けに利用可能な「帯域幅」(=周波数の範囲)は80メガ~85メガヘルツ幅程度。2~3社の事業者に割り当てられる程度の帯域幅が開放される。その開放される電波問題について単純に言えば、限られた帯域幅を誰に「配分」するかという問題だけに焦点が絞られている。言い換えると、市場メカニズムを働かせようとするやり方ではなく、行政主導のやり方である。後者には課題がないわけではない。

 そもそも資源の適正な配分を国(行政)が担えるのか。ここが難しい。規制当局の官僚が「神の見えざる手」になることはできない(なろうともしていないだろうが)。実際、2005年に当局が割り当てた携帯電話免許のうちアイピーモバイル社は、その後資金調達などが難航し現在も事業開始の目途がたっていない。結果論と言えなくもないが、国の貴重な資源である電波が有効活用されず時間だけが浪費されている。

◆総務省による新通信方式の免許交付における方針とその課題

 最近(2007年6月中旬)、総務省は携帯分野での新通信方式の免許交付について、次のような方針を打ち出した。
(1)交付先は2社。
(2)第3世代サービスを手掛ける携帯会社とそのグループ会社には直接免許を与えない。
(3)携帯会社やそのグループ会社でも出資比率が3分の1以下なら参入を認める。

 関係者からの意見提出を踏まえた免許方針案を今年7月の電波監理審議会に正式諮問し、適当と認められれば申請の受け付けを開始し、今秋には事業者が決まる見通しのようだ。今般の総務省の方針には、それなりに思慮された跡は見られる。しかし、次のような課題も残ろう。

方針(1) ⇒ 交付先は限定的な2社となってしまうのか?
 これは前述の通り、現在の電波帯域の余裕度(キャパシティ)から自ずと帰結されるもので、具体的には2社という枠数に限定されている。現時点で電波の無いものねだりはできない事情もあり、現実的には3社以上に枠を広げることが難しいのだろう。

 ただ、今般のモバイルWiMAXなどの新たな次世代高速無線通信技術が、今後大きな経済的な価値を生むようなことになれば、放送事業に付与している電波枠(周波数帯域)の抜本的な見直しも求められよう。言い換えると、前述の「130メガヘルツ幅の貴重な空き周波数」と合わせて検討することが望ましい。

方針(2)⇒ 既存携帯電話会社には免許しないことが最善なのか?
 既存携帯電話会社(3Gオペレーター)に免許せず、新規参入を促すという観点は重要なことだ。飽和感のある携帯電話産業に新たな変化・変革というイノベーションをもたらす可能性がある。

 しかし、携帯電話会社の既存3社+1社(ドコモ、KDDI、ソフトバンク+イー・モバイル)に対する縛り(直接免許を与えないこと)については議論の余地があろう。総務省は「国際競争力懇談会」で、“国際競争力”の強化を標榜している。その観点からは、携帯電話会社とは別にWiMAX関連製品などのメーカーや、その製品・機器を用いたサービス事業者(コンテンツ配信会社など)にとっての、ビジネス機会を考慮する必要もあろう。メーカーやサービス事業者にとっては、WiMAXの市場規模(量)がいち早く円滑に拡大したほうが多大なメリットを享受できる。大規模な数的基盤を実現できる目途が立つのであれば、スケールメリットを活かし最初からグローバル市場を視野に入れた開発もできよう。

 言い換えると、WiMAXという新たなビジネス機会を、グローバルビジネス展開の布石ととらえる戦略が求められるのではないか。そのためには視点を変えることが不可欠だ。これまでの国内市場中心でしかも国内市場内でパイをどう分かつか(低成長下のパイの“配分”問題)という発想から、グローバル市場において“量”(収益規模やグローバル市場シェア)を追求する発想へ転換する。新規2社のアッカ・ネットワークスとウィルコムでは、残念ながら既存3社に比し収益規模が小さい。またそれゆえWiMAX向けの基地局の整備もままならないだろう。果たしてアイピーモバイル社の二の舞にならないか。既存事業者が既に保持しているような、モバイル事業の量的基盤(収益規模、調達力など)との連動による、規模や範囲の経済性を発揮することも難しいのではないか。

 では、敢えて現状打開策を示すとすれば次のようなことになろうか。グローバル視点に立脚し、既存の携帯端末および関連機器メーカーの数を現行の10社から半分以下に減らし、共通の開発プラットフォームを構築しそれを利用することでコスト構造を大きく改善する。携帯電話会社においては、自ら設備を所有しない方式により(MVNO事業者として)、グローバル市場での業容拡大の足がかりを得る。スケールメリットを出すと同時に、サービスやコンテンツ事業者と連携することで範囲の経済性も視野に入れる。

 こうした取り組みこそが、わが国の携帯電話産業全体に求められている。しかし免許の交付先が限定的な新規2社となれば、これらのことは覚束ないだろう。グローバル視点で考えるか、依然ドメスティック視点に留まるのか、このことが問われているのではなかったのか。総務省において電波の規制(行司役機能)と産業戦略(ブレイン機能)という異なった機能を同時に担っていることの不具合は、以前から指摘されている。そもそもこの組織問題が、今般の方針打ち出しにおいて適切な措置をとりにくくしてはいないか。

方針(3)⇒ 出資を通じた参入機会の余地を残すことが現実的なのか?
 出資比率を3分の1以下に限ったグループ会社の参入を認めている点は、方針(2)により既存事業者の反対意見をかわそうとする伏線でもあろう。特に既存事業者との現実的な妥結点を模索しようという意図が透けて見える。確かに、新規参入者との間で既存事業者による合従連衡(ダイナミックな動き)につながることも考えられる。そしてこの図式により、産業全体のパイが増え、新たなイノベーションが喚起されるような状況となれば、それに越したことはない。本稿で示した懸念は杞憂となるだけだ。

 しかし、今回の方針にはやはり心許ない感じは残る。出資を通じた参入の仕方は、当該事業者にとって直接的な関与・マネジメントがでないことで、出資者間の利害相反が起こったり、事業展開の速度が鈍ったりする。また、事業展開の打ち手やその範囲も限定される。特にグローバル事業展開では、自社直接の販売チャネルなども使いにくい。

 今のままで確実に言えることは、電波行政の裁量権の維持・強化のみに過ぎない。読者には意外だろうが、国はときに産業全体の利益(特に規模の観点)を見落とす傾向がある。前者(省益)のほうが後者(国益)よりも重要だと思われる場面は決して少なくない。今回の新たな免許付与に関する意思決定は、新たな成長軌道を模索する携帯電話産業全体の利益(=国益)の観点からなされるべきであり、その場合、必ずしも新規参入者2社のみに免許付与することが得策ではない可能性はないだろうか。

 以上3つの方針に対する課題(ないし注文)への明瞭な解を得ることは、決してやさしいことではないだろう。しかし、何が最も大事であるのか中長期的な真の国益の観点から、じっくりと腰をすえて取り組んで頂きたい。
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