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2006年12月25日 (月)

【論考】2007年の情報通信産業の見通しと国際競争力(2006/12/25)

(注)JRI日本総研の社内広報誌『知新@WEB』(2007年1月4日発刊)向けに脱稿したものを、一部修正しています。 

 情報通信産業の将来を予想してみましょう。しかし、市場や産業の予想をすることは今後ますます難しくなってきました。それは産業構造が変化しているからに他なりません。

◆新たな価値を生み出す強力な牽引産業を育てる

 安倍政権は「上げ潮政策」を経済政策の看板に掲げました。小泉政権が「構造改革なくして成長なし」としていたスローガンを、「経済成長なくして財政再建なし」とするものです。確かに世界経済は、最近3年続けて4%以上の高度成長を続けており、しばらくその勢いは衰えないだろうとの見方があります。しかし、「失われた15年」で、韓国、台湾、中国、インドといった後発の国々は、製造業やソフトウェア分野などにおいて、日本を追い越そうとさえする動きになってきました。今後わが国に求められることは、新たな価値を生み出す強力な牽引産業を見出すこと、あるいは育てることだと思います。

 「上げ潮政策」の重要な要素に、TFP(全要素生産性)向上があります。情報通信産業が日本経済のGDP成長に対し貢献してきた割合は近年大変高いものがあります。技術進歩、IT普及度合い、イノベーションなどが、そのTFP向上となって現れているのでしょう。私がリーダーを務めたプロジェクトでは、e-Japan戦略実施最終年(2006年)3月の総括として、TFPに注目すべきことを内閣官房IT担当室向けの報告書に盛り込みました。

◆このままでは「ICT国際競争力懇談会」も期待外れ

 菅総務大臣の肝いりで2006年10月に始まった「ICT国際競争力懇談会」は、①次世代IPネットワーク、②ワイヤレス、③デジタル放送、④新ビジネス・基本戦略の分科会で構成されているようです。同①の次世代IPネットワークを整備することで、このインフラ上に様々なコンテンツを行き交わせることができます。新たなインフラは、次代の牽引産業の温床(soilまたは haven)となるものです。

 ちょうどわが国では1960~70年代頃にかけ、道路や橋、鉄道、重化学工業部門の設備など社会資本を整備し経済発展を促したように、将来の経済発展には情報通信基盤が鍵を握ることになるでしょう。ある技術が商品化され産業を形成するようになるまでには、20年近くの歳月がかかることも少なくありません。従って、数年程度のスコープで新たな技術の可能性を見極めることは難しいものです。

 同分科会で果たして、強力な牽引産業を生み出せるような結論を2007年3月までに出せるのか、期待が高まるところです。ただ、情報通信の枠のみで将来の見通しを立て、同様にその枠組みのみで国際競争力を強化しようとする限りでは、これまでの国のプロジェクトの多くが失敗したように、ICT(≒情報通信)産業の将来も悲観せざるを得ません。

◆「ICT国際競争力」強化にも王道はない

 私は「ICT国際競争力」強化には、主に次のようなことが重要ではないかと考えています。

① 情報通信産業の将来は、ますます不確実な状況に入った。見通しが明瞭である場合、関係技術やその他経営資源を総動員でき、その相互依存関係のマネジメントに一日の長がある既存事業者が競争優位であり、その事業スタイルは「統合型(摺り合わせ型)」が向く。また、国はその状況下で産官学連携を先導する意味がある。

② しかし見通しが不明瞭な場合、国が表に出ず市場の競争に委ねた方が産業発展の効率を高められる。無闇に垂直統合モデルを模索するのではなく、ベンチャー企業を一層活性化させ市場の「水平分業(モジュール型)」を促すことが大事。
 ただこの際、国際競争力の強化の観点から、事業者の「規模の経済性」追求が求められる。従って、新旧間の事業統合を含めた「水平統合型」の仕掛けが重要になる。水平統合を通じ、「範囲の経済性」(製品・サービスのラインナップ拡充に関するもの)と「連結の経済性」(異なる経営システムの連携・統合に伴う取引コストに関するもの)の2つを追求できるようになれば、国際競争力はさらに高まる。

③  一方、経済性の追求はあくまで効率化の軸上の話。将来はこれら要素に加え「方向性」が国の命運を分けることになる。方向感覚を身に付けるには、国際競争を避けるのではなく、厳しい現実に目を向ける(修羅場を経験する)ことだ。
 失敗を怖れず初期段階でむしろ失敗をしてしまって、その経験から学習するような仕方を国も考えるべき。その経験こそが、私たちの構想力や先見力を養うことになる。
 現下の日本に欠如しているのは、単にハイエンドの持続的成長を目指すのではなく、新たな方向感覚を研ぎ澄ませ「破壊的イノベーション」を生起させることではないだろうか。詳しくは、拙稿「エマージング市場の"非消費層"を狙え!」をご参照下さい。

◆予測するよりも、将来の方向性を構想しそれに備える

 2007年の情報通信産業の具体的な見通しとして、例えば、携帯電話市場にソフトバンクが本格的事業展開をすることで旧来の寡占市場に風穴を空けるだろうとか、「破壊」をもたらすYouTube型のビジネスなどについては、企画内容や戦略が貧弱であったライブドアや楽天のようなベンチャーからではなく、レガシーなテレビ放送局が検討せざるを得なくなるだろうとか、いくつか興味深いことが予測されます。

 しかし、2007年の先(将来)を予測するといったアナリストが担うことよりも、その方向性を構想し、それを実現するための算段を講ずることに寄与することが、私たちには求められているのではないかと考えています。そうなれば、わが国のICT産業の国際競争力も、自ずとついてくることになるのではないでしょうか。

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