« 【論考】通信と放送の融合を読む(新媒体・種の誕生の契機(2006/02/23) | トップページ | 【一言】総務省CATV研究会、NGNとの関係に踏み込み議論(2006/10/20) »

2006年6月 8日 (木)

【論考】“この国のかたち”決める議論、広い視野必要」(「通信・放送懇」報告、専門家は何点をつけたか?)(2006/06/08)

(注) 当原稿は、NIKKEI NETの緊急アンケート:通信・放送改革の論点「通信・放送懇」報告、専門家は何点をつけたか?」向けに寄稿したものです。


■■■Q1)最終報告書への評価
 報告書に盛り込まれた以下の点について、個人的な評価の点数(5段階評価)と、その理由を簡潔にお書きください。(特にご意見のない項目は空白でも結構です)

●NTTの再々編問題
 (NTT問題は1企業や情報通信産業だけの問題ではなく、国富につながる問題)
 ≪3点≫

 アクセス部門の問題を真っ向から取り上げたことには敬意を表したい。ただ、アクセス部門の機能分離では不十分というべきだろう。

 竹中大臣も主張する「NTTの経営の自由度」と、アクセス網を維持することのメリットや経済的利得(株主価値など含む)を両天秤に架けた議論はなされたのであろうか。両天秤に架ければ、少なくとも懇談会の結論はより明確になったに違いない。
 NTTと競合事業者だけの問題ではなく、新たな経済成長パターンをわが国が描けるかの試金石であったにもかかわらず、マクロ経済といった全体的な視点が欠如していたのではないか。

●NHKの経営問題
 (チャンネル数削減、スポーツ・娯楽製作部門の分離、番組コンテンツのネット公開など)
 ≪2点≫

 今議論することの問題の核心は、チャンネル数削減などの緩和策や現状の延命策ではなく、戦後のNHK設立のミッションに立ち返るところあろう。つまり、国民の娯楽提供といった機能・役割はとっくに終焉している。NHKの存在そのものを問われているのだ。

 したがって、今考えるべきは、NHKを民営化(解体)するか、あるいはそれを前提にし、一部機能を切り出した上での新NHKを、いかに新たな産業の核に据えるかの問題ではなかったか。NHKの所有する膨大なコンテンツ、そしてその突出した制作能力などを、次の産業育成と発展のために活用するための枠組みを創ることが求められた。

●放送コンテンツのネット再送信問題
 (IPマルチキャスト放送の地上波同時送信、伝送路の多様化に対応した著作権法抜本改正、マスメディア集中排除原則の緩和など)
 ≪4点≫

 IPマルチキャスト放送の地上波同時送信は、IP技術により可能なこと、および消費者ニーズの観点から、それに向けて解決策をとることは時代に流れ。懇談会でその方向性が明確になった。

 著作権の抜本改正には、さまざまな抵抗があろうが、ここまで踏み出した成果は大きい。ただ、著作隣接権者はともかく、個人や立場の弱い主体の著作権を無闇に毀損させるようなことは、当然慎むべきだ。産業全体の発展とこうしたマイナー領域での問題のバランスをとることが重要えあろう。

 マスメディア集中排除原則の緩和を通じ、今後の民放ローカル局の再編と自立を目指せるような枠組みまで議論され、その方向が模索されることが望まれた。ただ、懇談会の期間の短さを考慮すると、集中排除原則の緩和を打ち出せただけでも大きな意義はあったのではないか。

■■■Q2)通信・放送融合の将来像へのご意見

■≪NTTの再再編問題≫

 NTT問題をせいぜい情報通信産業の枠組みの中だけで捉えてしまったのではないだろうか。マクロ経済の視点が抜けていた。電電公社時代では、メタル電話網という資本と積滞解消などのために膨大な労働力が投入され、我が国の情報通信基盤が整備された。ここまでの電電公社の役割は大きかった。

 その後、1985年に民営化がなされ、情報通信産業は競争の時代に入った。通信サービスが普及期にある時は、低価格競争などが進んでも市場拡大はなされる(需要の価格弾力性が大きいため)。

 しかし、今日、インターネット時代に入り、電話とは質量の点で大きく飛躍したサービスが競争の鍵を握るようになた。つまり、さまざまなコンバージェンス(FMC、通信と放送の融合、端末とコンテンツの融合など)サービスの時代に入った。特に現下のデフレ経済下では、GDPの最大部門である消費重要(「財布の中身」と「財布の紐の締り具合」)をいかに刺激・喚起できるかに注目される。

 1999年前のNTT再再編問題では、この本格的なインターネット時代を読むことができなかった。そして今は、多くのことが満たされてしまっている消費者の根源的な欲求・行動にいかに訴求できるかが、競争戦略のポイント、ひいては市場の発展には重要になった。このことは、従来の経済学の限界を示す、行動経済学という領域に関心がもたれている証左でもある。

 成長会計モデルにおいても、新たな視点と要素がクローズアップされるべきだ。まず、新たな資本(デジタルインフラ)と知識や情報をフル活用できる知的労働力の投入が重要だ。デジタルインフラとは、さしずめ光ファイバー網やワイヤレス網のことだ。この2つの要素に加え、3つ目の要素(TFP:全要素生産性)を高めること、つまり技術革新(イノベーション)の進展や、知識・情報の蓄積とその流通(スピルオーバー)がなされることで、均衡拡大的な経済発展がなされよう。これを目指すべきだ。言い換えると、消費者は一層経済的に(も)豊かになり、情報通信産業ほか関連産業全体の発展につながる。

 NTT問題は、アクセス系という情報通信産業全体のパイを広げ、新たなコンバージェンスの時代に産業全体が移行できるかどうかの鍵を握っている。アクセス部門を巡り、NTTが有利かそれとも競合事業者が有利かといった次元で、この問題をとらえると、わが国の将来の損失は計り知れない。NTT法の改正まで踏み込んだことは、大きな成果である。しかし、2010年までに先延ばしすることで、将来のあるべき「この国のかたち」形成において、またも禍根を残すことになったのではないだろうか。

 NHK問題については、戦後ほぼ同じような状況下で設立された、今のNTTの発展やNTTを核に周辺市場が大きく拡大発展していった情報通信産業のこれまでの様相と照らすと、何とも旧態依然の感を抱かざるを得ない。

■≪NHKの経営問題≫

 NTTを巡る問題のアナロジーは、NHKや放送業界にも当てはまる。

 NTTは、電電公社が民営化され、さらに情報通信産業の共有地(コモンズ)とも呼ぶべきアクセス網の開放を巡り、“飛躍”の機会に直面している。アクセス部門を切り離し、最近のマネジメント手法であるオフ・バランス的な思考をもった上で、経営の自由度を高めることのほうが、将来の事業価値(会社の価値)を高めることができよう。欧米のオペレーターには、このような経営マインドがある。

 旧い資産価値がどの程度あるのか、それを維持することの経済的かつ政治的コストはあまりにも大きそうだ。スピードと創意工夫・戦略などのバランスシートに乗らない要素が、競争を決める時代となった。
NHKについても、同様だ。

 最低限の“公共性”のみを残し、民営化するのが時代の主流だろう。そして、民営化した後に新たなメディアカンパニーを目指すのも有効な方策のはずだ。規模の問題とこれまでの独占的な要素があるため、幾つかの過程を踏む必要はある。

 その上で、民放事業者とのダイナミックな競争のフレームワークを放送メディア業界にも導入することが求められる。業界再編の後、放送メディアカンパニーが通信網を所有するか利用するかたちで、通信と放送の両陣営のコンバージェンスを進めること(経営者の意思により自然と進むようにすること)が、国富を増大させるという観点で重要ではないだろうか。

■≪放送コンテンツのネット化≫

 TV番組などを含むコンテンツを放送業界のみの発想と流通の仕掛け(放送インフラなど)で囲い込んでしまっている経済的損失は大きい。2次流通させる(マルチウィンドウ化する)ことは、前述の通り、知識や情報を社会や市場に流通(スピルオーバー)させることにつながり、つまり、経済成長(関係産業の発展)の鍵を握るTFPの増大にもつながろう。

 この問題に限らず、わが国の通信・放送行政は放送業界の既得権益を許してきた。英国やドイツでは既に実施されているにもかかわらず、わが国の通信・放送行政は統合的な組織の下で行政がなされて来なかった。

 この再送信問題は行政のあり方へも課題を突きつけている。加えて、縦割り行政が、いかにマクロ経済という経済・社会システム全体を見渡して来なかったかの問題も惹起している。

■≪総括≫

 以上の当懇談会で取り上げたアジェンダは、どれも大変重要なものだった。わが国の「この国のかたち」を決定付けるような事案が多かっただけに、やや中途半端あるいは失速気味で議論が終了してしまったことは、大変残念である。

 わが国は、英国や米国並みに、年率4%台(できれば5%)を狙えるような経済成長パターンを模索すべき時に来ている。懇談会のどの事案も、この国富増大に結びついていた。その意味で、より高い、あるいは全体を見渡す観点から、この議論がどこかで継続すること、あるいは結論の早期アクションを期待したい。

|

« 【論考】通信と放送の融合を読む(新媒体・種の誕生の契機(2006/02/23) | トップページ | 【一言】総務省CATV研究会、NGNとの関係に踏み込み議論(2006/10/20) »

3.情報通信・メディア・ハイテク産業」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 【論考】“この国のかたち”決める議論、広い視野必要」(「通信・放送懇」報告、専門家は何点をつけたか?)(2006/06/08):

« 【論考】通信と放送の融合を読む(新媒体・種の誕生の契機(2006/02/23) | トップページ | 【一言】総務省CATV研究会、NGNとの関係に踏み込み議論(2006/10/20) »